第十四話「ダンジョン突入」
城から馬車に揺られること一時間ほど。ようやくダンジョンに着いた。馬車の中はなんつーか……遠足行くの? みたいな雰囲気だった。現地に到着しても、その雰囲気は収まることは無い。まぁ、しょうがないだろう。俺ら高校生だし。セリウス団長も俺らを注意したりするが、「しょうがないか」といった感じで苦笑いしてた。
ダンジョンは古代遺跡のような感じの見た目だ。アミューズメントパークのアトラクションみたいな。ちらほらと他の冒険者の姿が見えたり、商人が食料や消耗品を売りさばいてる姿も見えた。
今から俺らが潜るダンジョンは世界でも指折りの巨大ダンジョン。レーガン大迷宮と言うらしい。この世界には五大迷宮という存在があり、レーガン大迷宮はそのうちの一つらしい。
レーガン大迷宮の特徴としては、五大迷宮の中でも特に階層が多く、かなりの深さのダンジョンということだ。そして、このダンジョンはところどこに大穴があり、落ちたら奈落の底に真っ逆さまだ。なので、モンスターと戦う時も穴に注意を払わなければならない。奈落に落ちたらまず、生きて帰ってこれないらしい。
「とは言っても、俺らが今回潜るのは比較的に低層までだ。訓練をやってきたお前らならモンスターに苦戦することもなかろう」
と、セリウス団長は言う。
まぁ、勇者の小金井を筆頭に確かに実力は付いてきてるだろうからな。……あいつらはダンジョンに盛り上がって団長の話を聞いてないが。
「いよいよだな、空悟。モンスターと戦うんだぜ? 俺ら」
誠一は不安と興奮が混じったような口調で俺に言ってきた。
「そうだな。モンスターにビビって俺を置いて逃げるなよ?」
「ンなことするわけねぇだろ。むしろ空悟が俺を置いてく可能性のほうが高いわ」
「ほざけ。俺がビビった時はその場で固まってうずくまるわ」
「ビビるのは否定しないのかよ……」
ふざけあってると、勝が来た。
「お前ら、昨日決めた班に分かれるぞ」
こいつは緊張からは無縁そうな顔してんな。いや、いつも表情変わんないんだけど。常に眉間に少し皺が寄ってる。
女子たちと合流して、しばらくすると団長からの号令がかかりいよいよダンジョンに入った。
隊列を組みながらぞろぞろと団長を先頭にしてダンジョンに入っていく。ダンジョンの中は松明がところどころにあるおかげで思ったより明るい。
低層は比較的に人の手が入ってるから動きやすいらしい。
しばらく進むと下の階層に降りる階段があった。
「ここから先はモンスターがでるからな。お前ら気を引き締めろよ」
下の階に降りると、なにか雰囲気とまとわりつく匂いが変わった。獣に近い匂いだ。
「この匂いはモンスターが近いな。おそらくゴブリンの類だろう。小金井の班。まずはお前らが相手をしてみろ。訓練でやったフォーメーションだ」
比較的に広いフロアに出たら、前方からなにか悪臭を放ちながら幼稚園児の背丈のようなモンスターが来た。ゴブリンだ。
みんな悪臭に顔をしかめながら武器を構える。俺は一応団長から持たされてる短剣を握りしめた。
「小金井たち、ゴブリンが4体だ。たいした数じゃない。油断せずやってみろ」
「わかりました! よし、いくぞ!」
小金井がさわやかに返事をして、小金井たちの班はうごき出した。
まず、小金井が前に出た。ゴブリンが2体、反応して動き出す。すると、横に回り込んでいた女子がすかさずファイヤーボールをゴブリンにぶち込む。怯んだ隙に小金井が“聖剣”を振り下ろして2体を処理した。仲間をやられた残りの2体が戸惑ってると、小金井の仲間、鶴飼龍二が背後からハンマーで叩き潰して、戦闘は終了した。
小金井班ではモンスターが相手にならないらしい。団長も苦笑いだ。苦戦はしないとは言ったがこれほど一方的な先頭になるのも予想してなかったらしい。
「う、うん。良くやったぞ! 次もこんな感じで頼む」
その後も、班を交代して戦闘を続けたが、どの班もほぼ余裕でモンスターを撃破していった。みんな、ひとつはチート能力があるのでうまくそれぞれのチートを組み合わせていく。そのため、低階層のモンスターは相手にならない。
セリウス団長を筆頭にした、騎士団員のサポートもあり、トラップなんかに引っかかることもなく順調に階を降りていき、25階まで進んだ。
「ここから先は、モンスターの強さが格段に上がるからな。知能も上がるし、モンスターの種類も増えてくる。今までが余裕でも、油断をしたら危険だからな!昼休憩を挟んだら出発するぞ!」
団長の声がフロア内に伝わる。お弁当タイムだ。
壁に寄りかかりながら誠一、勝と一緒に弁当を開いた。すると、女子組も混ざってきて6人で弁当を食うことになった。
「空悟くん、どっか怪我してない? 痛むところとかない?」
吉永が心配そうな顔をして言ってきた。
「平気平気。俺、そもそも戦闘にそんな参加してなかったろ? 吉永たちがモンスターを倒しまくってたし」
俺はダンジョンに入ってからまだ1匹もモンスターを倒してない。せいぜい囮としてファイヤーボールを撃っておびき寄せる程度。ファイヤーボールもかなり威力を落として撃ってるし。変に強いやつを撃って目立つのもめんどくさいしな。
「八雲君にも、もう少しモンスターと戦わせましょうか。レベルアップも出来ないでしょうし」
伊藤が気をつかってくれたようだ。
「そうですね。私たちが援護しますので次のモンスターは積極的に倒しちゃってください」
熊谷も伊藤の意見に賛成みたいだな。こんな俺に気を使ってくれるなんてええ子達や。
「空悟、次は俺と誠一が囮になってモンスターを弱らせるからトドメは空悟がつけろ」
勝の作戦にみんな賛成したので次のモンスターはようやく俺が倒せるらしい。
「やる気のない奴にモンスターを倒させようとしても無駄じゃないかな? 結衣たちの優しさにいつまで甘えるつもりだ? 八雲」
と、言いながら登場したのは小金井達だ。小金井の後ろには取り巻きの女子や鶴飼たちもいる。ちなみに鶴飼は俺のステータスを見て爆笑した奴だ。許すまじ。
「小金井くんには関係ないでしょう。私たちが好きでやることなんだから」
おお! もっと言ってやってください、伊藤姉さん!
「優香、君が優しいのは知ってるけどそれは八雲のためにはならないだろう? こんな奴よりも 、優香たちも僕の班に入らないか?」
「八雲くんをこんな奴呼ばわりするような人の班には入りたくないです」
熊谷がきっぱり断ると、吉永も同意するようにうんうんと首を振った。
「小金井、女子たちは全員お前の班に入りたくないってよ。残念だったな」
誠一がニヤニヤしながら小金井にそう言うと、少し顔をしかめながら
「まぁ、いいよ。優香たちも気が変わったらいつでも僕に言ってくれ、歓迎するよ」
小金井がそう言い残し、動きだしたので取り巻きたちも忌々しげに吉永たちを睨みながら去って行った。
「ありがとうな、みんな。俺のために」
「気にしないでいいよ。私たちは空悟くんの味方なんだから! それに、約束したからね」
吉永が天真爛漫な笑顔を浮かべて言ってくれた。
「お、なんだ〜約束って? 2人だけの約束か? 異世界きてもイチャイチャしてんのか」
「い、イチャイチャなんてしてないよ! ただのちょっとした約束だよ」
「後藤君、この子は自覚が無いのよ。少し天然だから」
誠一と伊藤にいじられて顔を赤くする吉永。かわゆす。
「八雲くんは結衣となにか約束したのですか?」
熊谷が興味津々な様子。勝は興味無さそうに弁当がっついてるけど。
「ま、そんなたいした約束じゃないけどな」
すると、熊谷が目をキラキラさせながら、
「お〜! 良いですね。ラブコメって感じがします」
「ラブコメって程じゃないけどな。熊谷も恋愛の一つや二つはやったことあるだろ?」
「いや、ないです。初恋もまだです。だから、八雲くんたちが羨ましいです」
「まぁ、俺と吉永が恋愛してるってわけじゃないけどな」
すると、熊谷と、それまで話に参加してなかった勝が顔を見合わせながら複雑な表情を浮かべた。
「……こういうやつだ。吉永が可哀想だな」
「……はい。結衣の努力が実るのはだいぶ遠そうですね」
なんか、残念なやつを見る目で見てくる。悲しい。
その後も、弁当を食べながら雑談を続けて、昼休憩が終わった。団長が再び集合をかけて、隊列を組む。
「よし、全員いるな。今から25階層に入る。気を引き締めろよ!」
そして、俺らは運命の25階層に入って行った。