【第25話 改装】
「今日は皆さんに改装の手伝いをしてもらいます」
久しぶりに晴れた土曜日の朝。
俺は朝食を食べ終わり、お茶を飲んでいる皆にそう告げた。
「改装って何するんや?」
「手伝うです?」
当然の疑問だな。
俺はそう思いながら改装の中身を皆に説明していった。
「間もなく夏が来ようとしている。さて、夏と言えば?」
「鰻です!」
「バーベキューやなっ」
「師匠! 流しそうめんがしたいです!」
「うん、食べ物以外でね?」
クロノとアルは仕方ないにしても、朱子も食い気第一主義かよ。
いや、流しそうめんはセーフか。
「花火、でしょうか」
「そうね、後は祭りとかかしら」
うんうん、君達は俺の心の清涼剤だよ。
「とまぁいろいろあるが、俺はここで水遊びを押したいわけだ!」
プール、海、川、何でもいいけどやっぱり夏の遊びと言えばこれだしな。
「なんや兄さん、うちらの水着姿が見たかったんか?」
違う、とは言わないがそうじゃないんだよ。
「せっかく屋敷にプールがあるんだからさ、使わないともったいないだろ?」
「そんなものありましたです?」
「覚えとらんなぁ」
お~い、1年近く住んでて流石にそれは無いんじゃ……。
「あ、そういえばありましたね。結構立派なんですよねー」
「50mプールと浅いプールでしたよね」
来たばかりの朱子と葵が知ってると言うのに。
「それでそこを改装しようと思うわけだ」
「個人の屋敷ならそれで十分じゃないの?」
「グリ、甘いぞ、甘すぎる!」
せっかくなんだからもっと楽しみたいじゃないか!
「それに今から改装ですと間に合わないのではないでしょうか」
「ふっふっふ、葵君、君の考えは確かに正しい」
「それでしたら……」
「だがしかし! 俺はただの魔法使いではないのだっ!」
「はぁ……」
「ラビリンスマスターでもあるのだよっ!」
「そういえばそんな設定もあったわね」
グリ、設定言わない。
皆忘れているようだがそうだったのだ。
「でもポイントがもうないんちゃうの?」
「うむ、ちょっと前まではそうだったのだがの」
「何その言い方」
「くっくっく……見るがよい! このポイント残高を!!」
俺はそう言って右上を指さす。
「「「「「……?」」」」」
が、皆俺が指さした方を見ると首を傾げる。
「渡、あなた疲れているのよ……」
「渡さん……、お薬用意しますね……」
え……?
何その哀れなものを見る目は。
「師匠……」
「旦那様……」
朱子、葵、なんか言ってくれよ……。
「兄さん……」
アル、お前もか。
「ステータスは自分しか見えんで……」
「なん、だと……」
それを先に言え!
俺がただの痛い人になってしまうじゃないか!
「ん、ごほんっ! とにかくだ! ポイントが結構溜まったからプールの改装に使おうと思うわけだ!」
「わー、ぱちぱちー」
「ぱちぱちー……」
疎らな拍手を背に俺は説明を続ける。
ラビリンスポイントは迷宮に人が立ち入らないと溜まらないのになぜ溜まったのか?
簡単である。
うちの自慢の風呂、あれ迷宮の一部なんだよね。
おかげで毎日少しずつ溜まって行ったわけだ。
さらにその溜まったポイントを使用して迷宮の範囲をうちの敷地内全域に広げたおかげで一気にポイントが増加したと。
「そんなわけで、どんなプールに改装したらいいか案を出してくれ」
「他力本願やなぁ……」
そうは言うがその改装を実行するのは俺だからな?
ぽちっとするだけだけど。
「それだったらウォータースライダーとかいいんじゃないです?」
「お、朱子、良いアイデアだなっ!」
「ぽろりもあるかもしれんしなー」
アル、発想がオヤジだぞ。
そして葵、そんな目で俺を見るなっ!
大体ポロリ出来るほどないじゃないか。
「渡、何か失礼なこと考えてない?」
「イヤ、マサカソンナ……」
グリには俺の考えはお見通しだったようで爪で手を抓られる。
「砂浜がいるです! スイカ割ですー!」
「管理が大変……、いや、ポイントでどうにかなるんでしたね」
「ほならそれに合わして波の出るプールも要るなっ」
案を出しながらその日の午前中は過ぎて行った。
「そうして出来上がったものがこちらです」
そしてその日の午後、俺達は完成したプールの前にいた。
「ほんとにあっという間ですね……」
「一瞬でしたわ……」
ちょっとしたレジャー施設並みのプールがそこにはあった。
もちろん、ドーム型の天井を設置し雨でも大丈夫なようにしてある。
これで冬でもプールを楽しめるぞ。
総長1000m近い流れるプールを見て俺は満足げに頷く。
流れるプールは特に力を入れたからな。
壁面には水槽を埋め込み魚を放す。
ところどころ洞窟に入り込み、洞窟内では上と左右から水が吹き出し襲ってくる仕様だ。
もちろん、時々下からも吹き上げてくるぞ。
ウォータースライダーに至っては大小合わせて8本も設置した。
中でも200mを超える2つのスライダーには暗闇に入ったりイルミネーションを抜けたりとアトラクション要素をガッツリ詰め込んだ。
なお、こちらは屋敷の敷地内に収まりきらなかったので大部分は裏山に設置してある。
裏山もうちの所有地で良かったぜ。
じゃないと少しさびしいことになっていたからな。
山の高低差も利用した見事なスライダーに俺は感動を隠せない。
波の出るプールには砂浜を設置し、各種屋台も当然準備。
粉っぽいカレーや具のない焼きそばは必須だからな。
その他に焼トウモロコシやイカ焼き、たこ焼きといった定番商品は一通り揃えてある。
少しやりすぎたか?
……、楽しければいいんだよ!
「兄さん、これなんやー?」
「ああ、それか、人が通過すると自動で写真を撮ってくれるんだ。思い出も必要だろう?」
「なるほどなー。面白いアイデアやな」
その他に各所に監視カメラが設置されてあるがそれはバックヤードだ。
万が一があってはいけないからな。
そう言った設備もしっかり設備されているのだ。
「ふーん……、そこの設備のカギは私が預かっておくわね」
「え?」
「魔法達に管理させるんでしょ? それなら私が預かっていた方が良いもの」
「お、おぅ……そうだな……」
俺はグリに鍵を手渡す。
くっ……、と少し悔しそうなふりをする。
予備鍵だってあるからな、くっくっく。
「うん? この鍵だと複製されちゃうじゃない。後で変えておくわね」
「な!?」
「問題ないでしょ?」
「あ、ああ……」
これで完璧になった。
やったぜ……、ぐすん。




