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【第24話 送迎】

「それでは、失礼するよ」

「ああ、またいつでも来てくれ」

「そう言ってもらえるとうれしいね。また1か月後くらいかな」


 1か月と言わずに明日にでもと言いたい気持ちをぐっと飲み込み彼らを送り出す。


 朱子達が引っ越してきた次の週。

 再び霧島達がうちに遊びに来てくれていた。

 今日は霧島の知り合いというか中立派の同志を4人も連れてだ。

 うん、友達の友達って奴だな。


 お互いの同盟の紹介したり、魔法を披露したりとなかなか有意義な時間だったと言えよう。

 今まであまり意識したことがなかった魔力の節約と言う考えは特に勉強になった。

 それに魔法を所持している数も普通は2~3個でそれ以上所持している人はかなり珍しいといった常識的な部分も今後の助けになるだろう。


 ボーンボーンボーンボーン


「っと、もう時間か」


 今日も葵と朱子を迎えに行く時間が迫ってきていた。

 朱子は葵と同じく魔法部への入部をすることにしたらしい。


「迎えの時間がずれて師匠に手を煩わせるわけにいかないし」


 とのことだったが、別に気にしなくてもいいんだけどな。

 まぁ、魔法の訓練で毎週日曜日は1日付きっきりで教えているけど、その時の様子を見る限りでは楽しそうにしているから別にいいか。

 本物の魔法の取り扱いに慣れていた方がおまじないとかがそれっぽく見えるって葵も言ってたし。

 そういうことなのだろう。


 車のカギを片手に倉庫へ向かう。

 空を見上げると黒い雲が広がり今にも雨が降り出しそうだった。

 先日の嵐と言い、最近はおかしな天気だな。

 梅雨入りはまだ先だろうに。


「行ってらっしゃいませ」

「ん、行ってくる」


 市野谷に見送られ俺は門を出る。

 アジサイの花がもうすぐ咲きそうだ。

 車の窓から手を出すと湿った風がまとわりついて来る。

 雨が降る前に葵達を回収できればいいんだけどな。

 そう思いながら俺はアクセルを踏み込んだ。



 学校の駐車場に車を止めると丁度フロントガラスに雨粒が落ち始めてくる。

 ちょっと間に合わなかったか。

 そう思っていると校舎から走ってくる4つの影が見える。


 ガチャッ バタンッ


「セーフセーフ!」

「はぁっ、はぁっ、何とか間に合いました」

「すみませんー、今日もよろしくお願いしますー」

「よろしくお願いしますっ!」

「へいへい」


 今日も山岡さんと前田さんが一緒だ。

 朱子が引っ越してきてからなんとなくだが彼女達も毎日送迎することになっていた。

 ま、ついでだついで。


「シートベルト付けたら教えてくれー」

「「「「は~い」」」」


 4人とも後部座席なので見えないからな。

 ……、助手席に誰も座ってなくてさみしいなんて思ってないぞ?


「あの、旦那様……」

「ん? どした?」

「えっとですね……」

「何か頼みがあるんだったら遠慮なんかしなくていいぞ?」


 葵は控えめだからなぁ。

 もっと頼ってくれていいんだけど。


「ありがとうございます。その、夏にですね、合宿をしようと言う話になりまして」

「ほー、合宿か。いいんじゃないか?」

「はい、それでその合宿先なのですが、うちで面倒見れないかと」

「うちで? せっかくの合宿なのにそんな近場でいいのか?」


 せっかくなのだからちょっと遠いところにと思うのだが、まぁ中学生だしそんなに無理は出来ないかな?


「お金もかからないし、それに近い方が親説得するのが楽なんですよ」

「なるほどね」


 朱子に言われて確かにそうだと思い直す。

 誰もがお金に余裕があるというわけではないのだ。

 しかし夏か、プールの掃除とかしとかなきゃな。

 まぁ掃除するのは俺じゃない訳だが。


「部屋は余裕あるからな、別にかまわないぞ」

「ありがとうございますっ!」

「やったー! ご飯が楽しみー!」


 山岡さんと前田さんが喜びの声を上げるが、前田さんや、ごはんってなんだ。

 そりゃ飯は出すけど、そんな楽しみか?


「葵ととっきー先輩からご飯が凄いって聞いてて、一度食べてみたいと思っていたんですよー!」

「そ、そうか? 割と普通だからあまり期待されても困るぞ?」


 そう言いながら昨日の晩御飯を思い出す。

 (はも)鍋、(さわら)の塩焼き、刺身の盛り合わせ、季節の野菜の天麩羅、鱧皮のサラダ、小鉢がいくつか、それから吸い物とデザート。

 ……、あれ、これ軽く会席料理じゃね?

 そういえば梅さんが来てから料理のレベルがぐっと上がった気がする。

 グリがよく梅さんと話してると思っていたがそういうことだったのかな。

 毎日メニューが違って飽きないし。

 そう考えるとすごいな……。

 今度グリ達にお礼を言っておこう。


「それにお風呂もすごいらしいじゃないですか」

「ん、ああ、それは期待してくれ。自慢の風呂だからな」

「あ、でも一緒に入ったりはしないですよ?」


 ……、山岡さんのあんまりな一言に俺は固まってしまった。


「……、いや、それはないから……」


 いくらなんでも大して知らない、それも女の子と一緒にお風呂に入るとかないと思うのだ。

 過去の行動を棚上げにして俺はそう返す。


「そうですか? でもちょっと覗くくらいならいいですよっ!」

「彩! 何言ってるんですのっ!」

「別に減るもんじゃないんだしいいじゃん?」

「減らないー」

「そういう問題じゃないですわっ!」

「師匠はそういう人じゃないって」

「えー? でもさー前に一緒に入ったって」

「「ちょっと!?」」


 あーあー、キコエナイキコエナイ……。


 騒がしい後部座席から前に意識を集中させ、俺は車を走らせていった。

合宿って懐かしい響きですよね。

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