【第22話 仲良きことは美しきかな】
フロントガラスを濡らす雨粒を勢いよくワイパーが掃いて捨てる。
まだ何とか効果があるが、これ以上雨脚が強くなるとワイパーも意味が無くなってくるかもしれないな。
そんなことを思いながらアクセルを少し緩める。
アスファルトの上はすでに半分川になっており、慎重に進まないと脱輪してしまいそうだった。
「へーへー……」
「うん? どうかしたかな?」
山岡さんが興味深そうにこちらを見てくるのがバックミラー越しに見える。
葵ほどではないがなかなかの美少女だ。
胸は……、まぁ年相応かな。
「えっとですね、葵がいつも話している人がどんな人なのかなーって」
「気になるー?」
「ちょっと!?」
前田さんが山岡さんの話に乗っかってきて、葵は目を白黒させている。
ほぅ、いつも話しているとな?
ちょっと気になるけど……。
「べ、別にいつも話しているわけでは……」
「ははは、どんなこと話しているのか気になるけど、聞かない方が良いかな?」
「どうしよっかなー?」
「もうっ! ほんとに怒りますよ!」
そう言って頬を膨らます葵。
こういう表情は初めて見る気がするな。
「ごめんってばっ!」
「許してー」
「もうっ……」
気の置けない友達、そういう関係なのだろう。
羨ましい、わけではない。
何故なら俺にも友達がいるからだ。
ふっ……。
「え、何その勝ち誇った顔」
「ドヤ顔ー」
おっと、つい顔に出てしまった。
「余裕ですね」
「大人の余裕だー」
しかもなんか良い方向に勘違いされてるみたいだし。
ま、俺の大人の魅力を存分に味わうがいいさ。
「ふふ……」
葵さん、なんでそこで自慢げに笑いますかね。
女3人集まれば姦しい。
その言葉が通りとなった車内は賑やかに雨の中を突き進む。
2人を無事に送り届け、俺達も帰途につく。
同じ方向に家があったため屋敷まであと5分程度で到着できそうだ。
ふむ、彼女達は毎日自転車で通っているとのことだったが、また機会があれば送ってあげてもいいかもしれないな。
毎日片道15kmはしんどいだろうし。
「うるさくて申し訳ありませんでした……」
「いやいや、楽しかったよ。それに友達なんだろ? 大切にしないとな」
「は、はいっ!」
葵はそういうと、とても嬉しそうに笑った。
……、うん、なんとなくわかってたけど葵も俺と同類なんだな……。
何がとは言わないが。
「急げ急げっ!」
「わわっ!」
倉庫から別館まで雨に濡れながら全力で走り抜ける。
傘を差そうにも風も強く意味がなかったのだ。
迎えに行く時よりも強くなっている雨に体を濡らしながら何とか別館に入り少し安心する。
葵も再び濡れてしまったが、ジャージなので透けるようなことは無くて残念、違った安心だ。
別館を抜けて本館に戻るとグリが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。着替えとタオルは脱衣所に用意してあるから先にお風呂入ってきて」
「ただいま、ありがとな」
「ただ今戻りました。ありがとうございます」
腕時計を見ると5時半を少し回ったところだった。
今から風呂に入ると出たころにちょうどご飯と言ったタイミングか。
「今日の晩御飯は少し季節外れだけど寄せ鍋にしたわ」
「ん、楽しみだ」
初夏は過ぎたとはいえ、濡れていると少し冷える。
俺は葵から学校の話を聞きながら風呂に向かった。
「準備できたら声かけてくれー」
「分かりました」
脱衣所の外で俺は葵が風呂に入るのを待つ。
流石に毎回一緒に入るのは、ね?
一度風呂に入ってしまえばその広大な風呂と湯煙さんのおかげで近づかない限りは特に問題は無いのだが。
「あの2人はクラスメートで部活も同じですの」
湯煙を隔ててのんびり風呂につかりながら葵から学校の様子を聞いているとあの2人について葵が教えてくれた。
クラスメートで部活も同じか、本当に仲がいいんだろうな。
「ほー、そういえば何の部活入ったか聞いてなかったな。どんな部活に入ったんだ?」
葵は割と何でもできるオールラウンダーだからなぁ。
どんな部活に入っていても意外性は無い気がする。
「魔法部ですわ」
「は?」
ちょっとまて。
なんでそんな部活に、いや、なんでそんな部活があるんだ。
「もちろん魔法に関して本当のことを伝える等はしておりませんわ」
「ん、そ、そうか。それならいい、のか?」
「おまじない等を楽しんでいるだけですの。本物に近い形でやっておりますのでなかなか楽しいんですのよ」
う~ん、まぁそういうのが楽しいお年ごろだろうしなぁ。
でもよく顧問が付いたな。
「顧問の先生は最近赴任されたばかりの方らしいのですがとてもよくしてくださって、助かっております」
「そうか~、そのうち挨拶行った方が良いかな?」
「そ、それは少し恥ずかしいので……」
「そうか? 残念だな。あぁそうだ、いつでも友達をうちに呼んだりしていいからな?」
友達を家に呼ぶのは楽しいからな。
ぜひとも葵にもその楽しみを味わってもらいたい。
「よろしいのですか?」
「当たり前だろ、葵は家族だからな」
「っ……! あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
湯気に隠れてその表情は見えなかったが、喜んでいる気配は感じた。
うんうん、仲良きことは美しきかな。
存分に友人と交友を深めてくれたまえ。
友人と言えば朱子は友達出来たかな。
夏休みに友達と遊びに来るって話をしたっきりだが。
……、そういえばメールアドレスとか教えていなかった気がする。
仕方ない、後で手紙を書くとするか。
そんなことを考えながら俺は湯で顔を拭った。




