【第20話 子供達からのプレゼントは微笑ましいものだ】
暗闇の中、白い丘の上の蝋燭に火が灯る。
丘の中央には碑の様なものがあり、紅い塔が周囲を囲む。
紅に囲まれたその碑には、何かしらの文が刻まれている様だった。
妖しく揺らめく光に犠牲者の亡骸が照らされる。
杭で貫かれ、炎で炙られたもの。
煮えたぎる油の海で泳がされたもの。
生きたまま切り刻まれたもの。
その姿はまちまちだ。
生きたまま刻まれたものの息はまだあるようで時折震えている。
その姿を見て、俺はゴクリと喉を鳴らした。
犠牲者を取り囲んだ者達は、口元を歪めながら聖なる歌を響かせる。
「「「「「はっぴばーすでぃでぃあ、わったる~! はっぴば~すでぃとぅゆ~」」」」」
「あ、ありがとう……」
テーブル上のケーキにはカラフルなキャンドルに火が灯り、白い苺ケーキの上に鎮座しているチョコレートのネームプレートには「わたるくん たんじょうびおめでとう!」と書いてある。
ケーキの周りには様々な御馳走が並び、さらには皆の笑顔が周囲を囲っていた。
誕生日を祝ってもらったなんて何年振りだろうか。
それも家族以外の人から祝われるなんて……。
もしかして人生で初めてなのではないか?
いや、もしかしなくても初めてだな。
「いや、本当にありがとう……」
少し目から汗をかいてしまいそうだ。
うう……。
「サプライズ成功ね」
「サプライズ、そうか、グリがこれを?」
「皆でね。霧島さん達もありがとうございました」
「いや、なかなか面白いものを見れたからね。こちらこそありがとうだよ」
霧島達もグルだったのか。
友達がわざわざサプライズイベントを用意して自分の誕生日を祝ってくれる日が来るとは……。
少し前には考えられなかったな。
「さて、それじゃお楽しみの誕生日プレゼントね」
「うちから渡すで!」
「お、おぅ……」
パーティーだけじゃなくてプレゼントまであるのか。
もう俺の胸はいっぱいで溢れそうなのだが。
「うちからはこれやっ!」
そう言ってアルは1枚の紙を取り出して俺に差し出してくる。
お小遣いは使い切っていたみたいだからな、肩たたき券とかだろうか。
可愛いものだ。
「おう、ありがとう、なにかなー?」
ニヤニヤしながらその紙に書いてある文字を読む。
「未来事象確定券……?」
「どや! すごいやろ! 奮発したんやで?」
「えーっと、ありがとう?」
「なんや反応薄いなぁ。これ使えば、使った相手の未来の行動を縛ることが出来るんやで?」
「へ?」
「例えばやな、うちがから揚げ食べようとするやん? そこで渡がその券を使って寿司を食べるように事象を確定させるとやな」
「アルがから揚げを食べようとしているにもかかわらず寿司を食べてしまう?」
「そういうことや!」
「おお……」
う~ん。
たとえが微妙すぎてすごくない気がするけど、これってかなりすごいんじゃ。
「まぁ使用するにあたって色々制約はあるけどな。詳しくは裏面見てや」
「そ、そうか。とにかくありがとう」
「大切に使ってや!」
うん、中身はどうでもいいんだ。
プレゼントっていうのはそれに込められた気持ちが大切だからね。
「次は私ですっ!」
そう言いながらクロノも同じく1枚の紙を取り出して俺に差し出してくる。
どれどれ、今度は何かなっと。
「死者蘇生券……」
……。
ぱーどぅん?
「死んだ相手を復活させることが出来る券です! あ、でもでも寿命で亡くなられた方は無理なので注意するです」
「クロノ、流石にこれは……」
「申し訳ないですけど制約も多くて、死んで10分以内じゃないと蘇生できないですし頭がパーンってなってたりすると蘇生してもまたすぐ死んでしまうので気を付けてくださいね」
「う、うん……」
死んで直ぐ、それも肉体等の損傷がなく寿命が尽きたわけじゃない場合のみ。
それならセーフ……なのか?
「次は私ね」
「あ、ああ……」
グリなら、常識人の彼女ならきっとまともなもののはずだ。
きっとそのはず!
三度取り出される1枚の紙切れ。
「なんでも言うことを聞く券……!?」
「ええ、いろいろ考えたんだけどパッと思いつかなくて。ありがちなものでごめんね?」
なんでも……ごくり。
はっ!
「いや、ありがとう、こういうのが欲しかったんだ」
こういうのってなんだ。
いやいや、やましい事なんて何もありませんからねっ!
「そう言ってもらえてよかったわ」
グリがほっとしたようにそう言ってほほ笑んでくる。
その笑顔が一番のプレゼントな気がする。
うん、この券の使い道は決まったな。
「旦那様、私からも……」
「お、ありがとう」
葵も1枚の紙を取り出す。
ふむふむ。
「マッサージ券か、ありがとうな」
「いえ、いつでも呼んで下さい。5枚綴りになっていますから」
マッサージ券……ごくり……。
なにが?
流石にわかってますよ?
そういう邪なものじゃないって。
「それじゃ最後に僕達からだね。他の皆に比べるとちょっとあれだけど」
「特に邪魔になるものではないと思いますのでお納めいただければと」
「気軽に受け取ってくれ」
「いやいや、こういうのは気持ちがうれしいんだから」
「そうかい? そう言ってもらえると助かるね」
そう言いながら霧島達は包装された小箱を手渡してくる。
なんだろうか、この場で開けたい気持ちを抑えながら受け取る。
「さっそく開けてみてくれよ」
「ん、それじゃ遠慮なく」
俺は包装を傷つけないように丁寧にテープをはがしていった。
お読みいただきありがとうございまっす。
な、何とか間に合った。
おおよそ1か月ぶりの執筆で感覚がずれている感がありますが(汗
あと2か月くらいで時間が出来るようになるはずなのでそれまでの辛抱ですね。。。




