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【閑話3 敷紙家のクリスマス(後編)】

 楽しい時間は、あっという間に過ぎるものだ。

 また来年が楽しみだな。

 その前にもいろいろイベントがあるか。


 風呂上り、皆と別れて寝室に向かう。

 少し、そう、少しだけ緊張するな。


 バタン。


 入口の扉が閉まる。

 窓を見るとカーテンが閉まっており、常夜灯の光だけが俺達の姿を照らしていた。


 ギシリ……。


 二人分の重さを受けたベッドが軋む(きしむ)

 いつもそこにいる彼女の存在が、今日はいつも以上に大きく感じた。

 頬が熱を持っているのはこの部屋の温度が高いからか。


 ゴクリ……。


「な、なぁ、グリ」

「うん? どうしたの?」

「その、だな……」

「うん」

「えーっと……」

「待ってるから、落ち着いて?」

「お、おぅ……」


 ひっひっふー……。

 ひっひっふー……。

 だから違うって。


 すぅ~はぁ~……。

 ふぅ、少し落ち着いた。


「ふふ……」

「うん? どうした?」

「ううん、ちょっと懐かしいなって思っただけ。そんな大して時間立っていないのにね」

「ああ、グリと出会ってからまだ2年たってないもんな」

「そうね。きっと1年が濃すぎて、そう感じるのかもしれないわ」

「いろいろあったもんなぁ」

「ええ……」


 迷宮攻略したり温泉が湧いたり、白山羊との戦いもあった。

 思い返すと濃密な1年だった、そう実感する。

 本当にグリには世話になった。


「グリ、目を瞑って(つぶって)くれないか」

「……うん」


 目を瞑ったグリの手を取る。

 ポケットから取り出した指輪をその白魚の様な指に通し、そして魔力を操作して指輪のサイズを調整する。


「いいぞ……」

「これ……」

「皆まで言うな」

「……、うん……」


 頬を染めたグリが指輪を撫でる。


 あー、緊張した。

 いつも世話になっているグリに皆と同じプレゼントもどうかと思ったけど、皆の前でそれをするわけにもいかなかったからこういう形になったが喜んでくれたみたいでよかった。


「渡」

「ん?」

「私からもプレゼントがあるわ」

「お? それは嬉しいな」

「ちょっと目を瞑って(つぶって)もらえる?」

「ほいほい」


 同じことを言われるとは思わなかった。

 さて、どんなプレゼントか楽しみだな。

 グリが近寄ってくる気配を感じながら俺は待つ。

 いつも傍ら(かたわら)にある香りが、いつもより濃く感じる。


 ちゅっ……。


 唇に柔らかく、そして熱いものが触れた。

 そして離れようとする。

 その熱を離したくなくて、俺は思わず追いかけそうになった俺を彼女の手が止めた。


「だめよ、今日はここまで」


 目を開けると彼女が手を伸ばせば届く距離にいる。

 その全てを手に入れたくなる。

 無理やりにでも。

 彼女の意思など知らない。

 蹂躙したい。

 彼女のすべてを俺の、俺の物に……。


 トントン。


 思考が赤く塗りつぶされようとしたその時、扉をたたく音が聞こえた。


 ……、危なかった。

 見ると既にグリは俺の側を離れて机の近くに移動していた。


 グリ……、すまん……。

 俺は心の中で謝りながら扉へ向かった。


 トントントン。


 再び扉の叩く音が聞こえる。


「どちらさま?」


 声を掛けながら俺は扉を開く。


「こんばんわ……」

「葵? まだ寝てなかったのか」

「は、はい……、その入ってもいいでしょうか」

「うん? まぁいいけど」

「失礼します……」


 葵が部屋に入り、先ほどまでグリが座っていた場所に座る。

 しかし常夜灯だけ点けておいてよかった。

 きっと顔が真っ赤だったと思うし。


「お邪魔でしたか?」

「そんなことないさ」


 むしろ助かった、とは言えないけど。


 トントン。


 また扉をたたく音が聞こえる。


「はいはい、今開けますよーっと」


 今晩は来客が多いな。


「師匠、来ちゃいました……」

「おう、いらっしゃい?」

「お邪魔しますね」

「ん」


 朱子が部屋に入ろうとして、そして固まる。


「どうした?」

「葵、ちゃん……?」

「え? 朱子……?」

「「なんで……」」


 二人の声がハモる。


「葵も今来たばかりよ」


 そこにグリが声を掛ける。


「「なっ!?」」


 何を焦ってるんだ。

 グリが俺の部屋で寝てるのは知ってるだろ。

 まぁ机の方に居たから気が付かなかっただけだろうが。


「「「……」」」


 なんだろう。

 先ほどまで暖かかった部屋が急に寒くなった気がする。

 彼女たちが来て人が増えたから逆に暖かくなりそうなものなのに。


「おじゃまするでーっ!」

「ですです!」


 殺伐とした俺の部屋に救世主がっ!


「なんや、皆来とったんかいな?」

「ですー?」

「おぅ、皆今来たところだよ」

「そないか」

「それじゃみんなで寝ましょー」


 そう言ってクロノはウナギの人形を掲げながらベッドに潜り込む。


「兄さんの隣は誰やー?」

「早い者勝ちですー!」

「「え!?」」

「まぁ、6人くらいなら何とか寝れるかしらね」

「「は!?」」

「渡は真ん中ね」

「お、おぅ……?」


 その日、俺達はギュウギュウ詰めのベッドで一夜を明かした。

 俺の両隣が誰だったか。

 それは俺と彼女たちだけの秘密だ。

ベリー苦しみました。

これにてクリスマス編終了です。

それでは皆様、良いクリスマスを(血涙)

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