【閑話2 敷紙家のクリスマス(中編)】
「めりーくりすま~すっ!! 乾杯!!」
「「「「かんぱ~い!」」」」
テーブルの上には七面鳥の丸焼きやお寿司、ステーキ、ピザ、サラダ、スープと色とりどりの料理が並んでいる。
「それじゃ、一回明かり落とすわよ」
「「「「は~い」」」」
部屋の明かりが落とされる。
そして部屋には仄かな明かりが満ちた。
もちろん、クリスマスケーキに刺さっている蝋燭の火が光源だ。
蝋燭の光を見ながら、皆でクリスマスソングを歌う。
去年のクリスマスは4人だけだったが今年はにぎやかだ。
なんせ魔法が皆参加しているし、市野谷さん達も今日だけは無礼講と言うことで参加してもらっている。
そして、葵と朱子も。
楽しいな。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。
本当にそう思う。
……、別に時間稼ぎしているわけじゃないぞ?
すぅ、はぁ……。
さてと、それじゃプレゼントタイムに移りますか……。
「それじゃ、お待ちかねのプレゼントタイムだ」
「「「「ぱちぱちぱちぱちー」」」」
あー、緊張する……。
「それでは、まず市野谷さん達からで」
「おや、我々も頂けるのですか?」
「普段の感謝の気持ちです、大したものではないですけど受け取ってください」
「ありがとうございます」
そう言って市野谷さん達、執事団に紙袋を渡す。
中身は厚手の手袋だ。
いつも外回りしているとき寒そうにしていたからね。
「それから、もふーる、皆を連れてきてくれ」
「マz……きゅきゅっ!?」
「うん? ああ、魔法の皆にもちゃんとあるぞ」
「きゅー! きゅっきゅー!」
もふーるが一瞬変な声を出す。
こいつきゅ以外の音出せたのか。
と言うか、そこまで驚くことか?
1列に並んだ魔法達にそれぞれ袋を渡していく。
プレゼントを受け取った魔法達は袋を強く抱きしめていた。
う~ん、そこまで喜ばれると罪悪感が……。
もうちょっとしっかりしたものの方が……、いや、予算的にきついしなぁ……。
「クロノにはこれな」
そう言って一番大きな袋を渡す。
「おおおっ!? これはっ! 渡さんからの愛の大きさをひしひしと感じますですっ!!」
「へいへい」
自分と同じくらいの大きさの紙袋を両手で抱えてフラフラしながら自分の席に戻って行った。
そしてさっそくびりびりと包装を破り、中身を見ると狂喜乱舞していた。
「それからアルにはこれね」
「おぅ? なんやクロノより小さいやんか」
「そういうこと言わないの。それにちゃんとアルのことを考えて買ったんだからな」
「うちのことを? うへへ……、兄さん、ありがとぅな?」
不満げだった顔に一瞬で笑顔が咲く。
よし、何とか乗り切った。
「開けてもええか?」
「もちろん」
「なんやろなーっと、お? マグカップか。絵も可愛ええし、兄さんええセンスしとるね~」
命名センスはともかく小物選びのセンスは良かったらしい。
とにかく気に入ってもらえてよかった。
「それからグリ、お前にはこれね」
そしてアルの箱よりさらに小さい箱を渡す。
「うん、ありがと。嬉しいわ」
そう言って彼女は胸に抱きしめる。
「私も開けてみていいかしら?」
「ああ、気に入ってくれるといいんだけど」
グリが箱を開けるのをじっと見つめる。
細い指が留め金を外す。
ゴクリ……。
蒼い箱の中から、ピンクゴールドのブレスレットが顔をのぞかせる。
「これは……」
「着けてくれるか?」
「うん……」
ブレスレットをグリの腕が通る。
丁度いいサイズのようだ。
まぁサイズが違っても魔法でどうにかできるわけだが。
グリはブレスレットをさすりながら自分の席に戻って行った。
……、クロノが振り回しているウナギの人形がグリにバシバシ当たりまくっているが全く気が付いていない様だ。
ちょっと怖い……。
「朱子にはこれな」
「これって……、いいんですか……?」
「まぁ、可愛い弟子だしな。クリスマスくらいいいだろ?」
「はいっ! ありがとうございます! ……、あのひとつわがまま言ってもいいですか?」
「おぅ、今日は無礼講だ。好きにしなさい」
「それでしたら……、これ、師匠の手で私に着けてもらえませんか?」
「……、わかった……」
「やたっ!」
そこまで喜ぶことか?
そう思いながら腕を回してネックレスを首にかける。
が、金具が上手く掛けられない。
「むっ、これ案外難しいな」
「……、もうちょっと師匠の側に寄りますね……」
「お、おぅ……」
朱子の控えめなそれの感触を味わいながら何とか金具を掛けることに成功する。
「えへへ……」
「これでいいな?」
「はいっ、ごちそうさまでしたっ!」
何がだ。
ふぅ……。
変な汗をかいてしまった。
「うおっ!?」
葵を呼ぼうとしたら既に目の前にいた。
近い近い……。
「葵、もうちょっと離れて」
「今日くらいいいではないですか……」
うん、俺もそう思わないでもないんだけど市野谷さんがね?
彼の鋭い眼光が俺に刺さりまくってるんですよ。
「近すぎてプレゼント取り出せないから……」
「仕方ありませんわね」
そう言って葵は半歩下がった。
それでもまだ近いが、まぁ仕方あるまい。
「はい、葵にもネックレスだよ」
「わぁ……。嬉しいですわ。朱子さんと色違いですのね?」
「うん、どうかな?」
「ふふ、私と朱子さんは姉妹みたいなものですし嬉しいですわ」
「そうか、よかった」
よくよく考えたらそこまで仲が良くなかったら結構微妙な感じになるところだったんだよな。
あぶねー……。
……、うん? 葵がそのまま席に戻らない。
「どした?」
「その、私にも着けて頂けませんか?」
「ん、葵もか?」
「え、ええ……、その、朱子とお揃いにしたいですし!」
「はは、本当に仲がいいんだな」
「ええ、まぁ……」
仲良きことは美しきかな。
うんうん。
「それじゃ、こっちにおいで」
「はい……」
今度は最初からその身を近くに寄せてくる。
彼女から漂う少し甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ほい、これでいいかな」
「……、ずいぶんと早いですのね」
「ん? まぁ2回目だし」
「そうですか……。んんっ、いえ、ありがとうございました」
「はい、どういたしまして」
そう言って葵の頭を軽くポンと撫でる。
「っ! 皆見てますわ……」
「別にいいだろ?」
「そ、そうですが……」
葵はもじもじしながらそっぽを向いてしまった。
愛い奴め。
さてと……。
俺はポケットに入れたままの最後のプレゼントを軽く触って確認する。
夜、部屋に来た時に渡すとしよう。
それ以外だとなかなか二人っきりになる時間が無いし。
それから1時間ほどクリスマスパーティーは続いた。
お読みいただきありがとうございました。
1時間後に後編投稿します。




