【第14話 Shall we Dance?】
俺は魔力を操作し身体能力を向上させる。
さらに床に落ちていた金属の棒を2本ほど拾い、魔力を流し込む。
形状を変化させてから硬化させてっと。
「うん、良い感じだ」
斜めに振るとヒュンッと良い音がなる。
微妙な点はあるものの、贅沢は言うまい。
そんなことを考えているとアカリとヒスイの視線を感じた。
なんだと思って見てみると何やら微妙な表情をしていた。
「クロ殿……、それは……?」
「君は……本当に人間なのだよね?」
俺の相棒に向かって失礼な。
「結構使い勝手良いんですけどね?」
突いて良し、抉って良しのバール。
それにどんなものでも粉砕する10ポンドハンマー。
この組み合わせならだれにも負ける気がしない。
「そういうことではないのだが……」
「はは……。面白い、そういうことにしておこうか……」
さて、俺のダンスの相手は誰かな?
そう思いながら敵を睥睨する。
しかし彼らはギン達に夢中でこちらに気が付いていない。
なんて失礼な奴らだ。
とりあえずこちらに気づいてもらわないことには話にならないな。
そう思い俺はおもむろにバールを振りかぶるとバフォメットに向けて投げつけた。
が、バールの当たったバフォメットはこちらに気が付くことはなかった。
隣にいたバフォメットと合わせて頭を吹き飛ばされてしまったので。
血煙の向こうを見ると壁に小さな穴が開いていた。
俺のバールは貫通してどこかへ飛んで行ってしまったようだった。
「あれ……?」
「は……?」
「な……!?」
んだ? ……、じゃない。
何と言う脆さ……。
あれか、魔法系の怪物だから物理攻撃に弱いとかそういうことか?
そういえばギンは魔法攻撃しかしていなかったし。
そうと決まれば未だ俺達に気づかずギン達に夢中になっているバフォメットに狙いを定め、今度はハンマーを投げつけた。
衝撃音と共にハンマーがバフォメットの腹部を撫でる。
と、同時に彼の肩から下、膝から上が消滅する。
う~ん、マンダム。
なんというか、せっかく覚悟を決めてきたのに思いっきり肩すかし。
不完全燃焼だ……。
「なんだ!? 何が起こった!?」
微妙な気分に浸っているとギンの声が聞こえてきた。
なんだよ、見てなかったのかよ。
……。
あ、隠形かけっぱだったわ。
そりゃバフォメットさんも気づきませんわ。
俺達の事を無視していたわけじゃなかったのね、ごめん。
もう死んじゃってるけど。
でも僥倖だったかもしれない。
なんせ俺の手札を見せずに済んだのだから。
とりあえず隠形を解除するか。
「五右衛門、もういいぞ」
「御意」
これで彼らにも俺達を見つけることが出来るだろう。
「もう何でもアリですな……」
「ほんとね……」
何を言ってるんだ。
俺には大したことは出来ないぞ。
財布はグリに握られてるしな。
「GALAAAAAAAA!」
そんなことを考えていると咆哮が聞こえてきた。
見ると混乱から立ち直ったミノタウロス達がこちらを標的としたようだ。
陣地に引きこもっている相手より外に出ている相手、しかも少数に向かった方が効率がいい。
それがわかる程度には知能があるのだろうか。
3匹がギン達に対峙し、残りの2匹がこちらに向かって突撃してくる。
「本命はクロ殿に持っていかれましたが、こちらは我々が頂きましょう」
そういうが否やヒスイはどこからか取り出してきた刀を構えた。
「疾風迅雷!」
ヒスイは魔法名を叫び、そしてミノタウロス達の脇を一瞬で駆け抜ける。
ミノタウロスの体に紅い線が走り、そしてその線を境界として体が2つに分かれていく。
鎧袖一触。
その言葉がふさわしい剣閃であった。
「全てお任せではちょっと情けないですしね。僕も頑張らせてもらいますよ」
続いてアカリが短刀を構える。
「朧月夜!」
そしてその姿が消える。
ミノタウロスはアカリの姿を見失い、そして自らの首を失った。
「いっちょ上がりっと」
再び姿を現したアカリが短刀を軽く振って血を掃う。
「やるじゃないか」
「……、ありがとう。でも君に言われるとなんだか微妙だね」
そう言ってアカリは苦笑いをした。
微妙って、割と本心からそう思ったんだけどな。
朧月夜って魔法も気になる。
「終わったようですな」
そう言いながらヒスイが戻ってくる。
彼の後ろを見ると立っているミノタウロスは1体も居なくなっていた。
ギン達も上手くやったようだ。
気が付けば魔法陣もなくなっていた。
「いや、すごいですね」
「いえいえ、クロ殿から見れば児戯に等しい魔法でしょう」
「そんなことは……」
なんでこの人達ちょっと卑屈なんだ。
本当にすごいと思うのだが。
「おい、君たち……」
「うん?」
ヒスイの後ろから声がかかる。
……、誰かと思えばギンか。
あまり話したくないな……。
「先ほどの加勢は君が?」
「そうだが?」
「そう、か……」
なんだ、文句でもあるのか。
俺達の加勢が無くても問題なく倒せたのにとか言われるのか?
そうなったらさすがに俺も怒るぞ。
「……、助かった。ありがとう」
「お、おぅ?」
あるぇ~?
こいつ嫌な奴じゃなかったのか?
「君の加勢が無ければ我々は全滅していただろう」
「またまた御謙遜を……」
なんて対応すればいいんだよ……。
さっきまで全力敵対モードだったからいきなりこうも下手に出られるとうまく切り替えができない。
「謙遜なんかではないさ。それに助けられた相手に礼を尽くす程度のプライドはある」
「ソ、ソウデスカ……」
「少し、天狗になっていたようだ。上には上がいるものだな……」
「アカリやヒスイも居ましたから……」
「彼らの事は知っている。羊の化け物を一撃で倒すような魔法を持っていないこともな」
「……」
「ああ、すまない。別に探ろうというわけじゃないんだ。誤解しないでくれるとうれしい」
何この紳士。
誰ですか、嫌な奴とか言った人は!
俺か。
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