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【第12話 盟友】

「こんばんわ、今宵は良い夜ですね?」


 アルとクロノが持ってきた肉の一部を切り取り、頬張っていた俺の背中からそんな声がかけられる。

 振り向くとそこには初老と思わしき紳士がいた。

 黒いマスクに白い髪の毛。

 恐らくこの会場の中では最も地味な恰好だろう。

 背筋をピンと張ったその立ち姿は、今までの人生を表しているようだ。

 素直に格好いい、そう思えた。


「こんばんわ、初めまして」

「ええ、はじめまして。この集まりに参加するのは初めてで?」

「そうですね、宵の明星の盟主殿に招待状を頂きまして」


 そう言いながら俺は少し離れた場所で談笑しているアカリを指さす。

 まったく、呼んでおきながら放置するとは。


「ほほぅ、アカリ殿からですか」

「おや、彼をご存じなのですか」

「それはまぁ、この世界も狭いですからな」

「狭い、ですか。私には無限に広がっているような、さしずめ深海の如き怖さすら感じますが」

「ほほっ、お若いですなぁ。羨ましい」

「ははっ。そういえば自己紹介がまだでしたね。私は黒山羊の盟主、クロと呼んで下さい」

「これはご丁寧に。私は翡翠鏡(ひすいかがみ)の盟主を務めさせていただいております、ヒスイと御呼び下さい」


 そう言ってお互いに握手を交わす。


「しかしなるほど、あなたが……」

「え?」


 彼は何かを納得したように頷く。


「白山羊の腹を食い破り黒山羊が生まれた。ここ最近の噂です」


 ヒスイ曰く、あまり横の連携が無いとはいえ噂程度は回るそうだ。

 そしてここ最近の噂で、革新派に属していた白山羊が潰された。

 そして潰したのは多数の魔法を駆使する者で、もしかしたら魔導書すら持っている可能性があると。


「それに関してはノーコメントで」

「はは、警戒されましたかな?」

「手札をすべてオープンにする気はないので」


 それはそうだと彼は笑いながら俺の背中を叩く。


「友好的な関係を築きたいものですな」

「ええ、ぜひとも」


 とはいえ、俺は自分の配下のことを殆ど(ほとんど)知らないのだが。



「クロ、会場の隅に行きましょう」


 ヒスイさんと談笑しているとグリから声がかかった。


「うん? 疲れたか?」

「ちゃうで、念のためや」

「アカリさんも呼びます?」

「そうね、一応友好的な方みたいだし」

「よくわからないが、アカリを呼べばいいのか?」

「ええ、お願い」


 何か起こるというのだろうか。

 グリ達の警告に従いアカリを呼ぶ。


「何か用かな?」

「いや……、そういうわけではないんだけどな……」

「うん?」

「会場の隅に行くんだが、ちょっと付き合ってもらえるか」

「……、わかった。後で理由は聞かせてもらえるのかな?」

「ああ、向こうで話すよ」



「それで、どういう理由で隅っこに呼ばれたのかな?」

「私も気になりますな。そちらの御嬢さんたちのこともですが」


 アカリとヒスイがそう尋ねてくるが、俺にもよくわからないんだよな。


「グリ、説明を頼む」

「うん。この会場の入り口にある穴が少しずつ大きくなっているのよ」

「……穴?」


 アカリが怪訝そうに首を傾げる。


「ええ、大したことではないと思うのだけれど」

「いや、警戒するに越したことはないさ。最近は司書の連中の動きが活発になってきてるみたいだしね」

「司書?」


 一般的な意味の司書と言うわけではないだろう。

 どういう意味なのだろうか。


「ああ、白山羊の上位組織の一つだよ。魔法使いが世界を管理すべきだと息巻いてる奴らだね」

「あの連中とは関わりたくないものですな」


 ふむ、朱子や葵を騙していた連中ってことか。


 その後もアカリとヒスイから様々なことを教えてもらった。

 魔法使いの集団には保守派と革新派、そして中立派の3つが存在しており、それぞれ守護者(ガーディアン)咎人の烙印(アカシックレコード)円環(ウロボロス)というらしい。


 宵の明星や翡翠鏡は円環に属しているそうだ。

 そして白山羊や司書と言った組織は咎人の烙印に属すると。


 魔法の歴史は守護者と咎人の烙印との対立の歴史でもあったそうだ。

 近年中立派の発足により三竦み(さんすくみ)となり抗争は沈静化したものの、歴史の浅い円環は力が弱く隙を見せると他の派閥がちょっかいをかけてくるので気が抜けないらしい。


「しかし、クロ殿がこちらについてくれたおかげでかなり楽になりそうですな」

「微力ですがね」

「謙遜も過ぎると嫌味になりますよ?」

「事実なんですけどねぇ……」

「そこの御嬢さんたちは」


 ズクン……、ズゴゴゴゴ……。


 それはヒスイがグリ達の方を向いた時だった。

 何かが蠢くような重い音が聞こえ、そして出入り口の方に魔法陣が生まれる。


「あれは……何かの催し物ですか?」

「ははは……、クロ殿は余裕ですな……」

「出入り口に召喚用の魔法陣ですか……。閉じ込められた、そう見てもいいでしょうね……」


 ヒスイとアカリが顔を蒼くする。


「なぁ、グリ。そんな不味いかこれ?」

「この程度ならどうにでもなるわよ」


 コソッとグリに聞くとグリは呆れた様に返してきた。

 いや、分かってるって。

 でもなんか周りがものすごいやばいみたいな雰囲気醸し出してるんですけど……。


「やばいで……」

「です……」


 しかしアルとクロノは正反対の反応を示す。

 何か知っているのだろうか。


「タッパー持ってくるんやった……」

「このぴんち、どう切り抜ければ……」

「まじめにやれっ! と言うかお前ら出せるだろうがっ!」


 小さな声で怒鳴るという困難なことをやってのけた俺にアルとクロノが尊敬の眼差しを向ける。


「それやっ!」

「クロさん天才です!!」


 だーかーらー……。

 もういい、好きにしろよ……。

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