【第11話 餌付け】
「レディース アンド ジェントルメンッ!! 七芒星の戒めへようこそ!!」
俺達が料理に舌鼓を打っていると、会場の奥で何やら司会らしき人物が歓迎のあいさつを始めた。
その人物だけは普通の黒い礼服に身を包み、短く整えられた髪は黒色だった。
羨ましい……。
パチパチパチ……。
会場からは疎らに拍手が飛ぶ。
「今回7年ぶりの開催となりました。居なくなってしまった顔、新しい顔、それぞれありますが、ともかく七芒星の戒めを再度開催できた幸運を月に感謝いたします!!」
いや、顔はわからないだろ。
そう俺は思うものの、黙って聞いていることにする。
「普段はあまり繋がりのない我々ですが、この会合をきっかけに多少なりとでも纏まりを得られればと存じ上げます!」
魔法使いたちは基本的に独立独歩、そういうことなんだろうな。
しかし、相手はある程度組織立って行動してくるから俺達も纏まらないと対抗できない。
そういうことなのだろう。
「また、此度の会合ではなんと魔導書の所有者が参加しております!」
会場がざわつく。
ありえないだとかそんな気配はしないだとかの声が飛び交う。
皆、それぞれが周囲を見回している。
「静粛に! 静粛に! 信じられないのも無理はございませんが、事実でございます!」
やはり魔導書の所有者と言うのは珍しい存在らしい。
自分の命を懸けてまでそれを欲するだけの価値はあると再認識した。
気をつけねば。
「我々に強力な仲間が出来たことを喜びましょう!」
司会の人はそこで拍手が起こると期待したのか少し待ったものの、会場には静寂が満ちている。
皆黙り、視線で牽制し合っているようだ。
静寂を緊張の糸が縫う。
「……、私からはどなたが魔導書の所有者かお伝えは致しません。知りたいのでしたら周りの方々と自ら交友を深め、探し出してみてください!」
なるほど、話のネタの一つという意味合いもあったのか。
そんなことを考えていると刺すような視線が飛んでくることを感じる。
先ほどまでの全体を探るようなものではなく、俺個人を明確に意識している視線だ。
視線を送ってきた相手は、考えるまでもなくギンだった。
友好的な視線ではないのは間違えようもない。
俺は骨付き肉にかぶりついているアルとクロノの肩を軽く叩き注意を促す。
「兄さん! この肉旨いで!!」
「最高です!」
……。
この子たちは……、いやいい、伝わらないのなら言葉でちゃんと伝えよう。
「一応警戒しておいてくれ……」
「ん? おー、おー、わかっとるで、任せとき」
「ですです」
本当にわかってるのかなぁ……。
「大丈夫よ、これで臨戦態勢はとってるから」
「そうか……」
まぁ、グリが言うなら大丈夫なのだろう。
「はい、どうぞ」
「ん、さんきゅ」
俺も腹が減ってきたし、少しつまむとするかな。
そう思うと同時にグリが取り皿に取った料理を差し出してくる。
うん、取ってくれるのは嬉しいんだけど少しばかり野菜が多すぎませんかね……。
「健康には気を使わないとね?」
「……、はい……」
社内ニート中は弛んでいた腹も、最近はある程度引き締まってきた気がするのだがグリから言わせればまだまだなようだ。
でもこういう席くらいは好きに食べさせてくれてもいいじゃん……。
そんなことを考えながらサラダをぱくつく。
「もう、そんな顔しないでよ。仕方ないわね……。はい、あーん」
「ん、むぐ……」
グリが俺の口の中にローストビーフを突っ込んでくる。
おお……、これは実に美味い……。
……、なんか視線がさらに強くなった気がする。
そして数も増えたような。
そっと周囲を見渡すと視線は減る。
ふむ……。
「グリ、次は生ハムが食べたい」
「はいはい。あーん」
「うん、うまい」
そして増える視線。
あー、うん、そうか。
冷静に考えれば当たり前かもしれない。
なんせそこには小学生くらいの少女に餌付けされているおっさんの姿があったのだから。
「あーっ! 狡いで!!」
「抜け駆けは無しですっ!!」
餌付けされている俺に気が付いたアルとクロノが駆け寄ってくる。
「ほら! 兄さん食えっ!!」
「あーんです!!」
……。
アル、クロノ、その巨大な肉の塊は何だ。
あーんと言うよりどーんと言った方が良いレベルだぞ。
そんな狂騒劇を演じる俺達に周囲の視線は釘づけだ。
うん、これはバレたな。
なんせ小さな子供が巨大な肉を振り回しているのだから、これで普通の人間と思う方がおかしい。
隠すつもりはあまりなかったが、こんなバレ方は嫌だなぁ……。
「アル、クロノ」
「なんや?」
「なんです?」
俺は一拍おいてから重々しく伝える。
「食べ物を振り回すのはやめなさい」
飛んだ肉汁は誰にも当たることなく空中で消滅して行っていたとはいえ、食べ物を粗略に扱うのはちょっとね。
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