【第8話 農道最速伝説】
2016年10月15日改稿しました。
――チュンチュン
朝目が覚めると隣に暖かさを感じる。
横を向くとそこには美少女が眠っていた。
暖かさに後ろ髪をひかれながら布団からでて、窓を開き外を見ると昨夜の雨風が嘘のように青空が見えた。
少し湿り気を帯びた風が頬をなでる。
「まて、なんでそこで寝ている」
「ん……あと100年……」
「どんだけ寝るつもりだ! どこぞのコールドスリープから目覚めた女ギャンブラーでもそこまで寝てないぞ!?」
「んぅ……、もう朝……?」
「ああ、朝だ、そしておまえは昨日自分の部屋で寝たんじゃなかったのか?」
「……、きちゃった。てへっ」
きちゃったじゃねーよ!
「だって夜、雷がすごくて怖かったんだもん……」
またも上目づかいで俺を見つめてくるグリ。
だがしかし、今日の俺は今までとは一味違う。
なんせ硬化の魔法を捕まえてるからな。
魔力不足で使えないけど。
鋼鉄の意志で俺はグリに告げる。
「言っただろ? 男女七歳にして席を同じうせずって」
「……、それに、渡が心配だったんだもん……」
「っ……、それは……ありがとう……」
「絶対、ダメかな……?」
「……、好きにしろ……」
俺の意志はこんにゃくだった!
「やったぁ!」
もうどうにでもなぁれ♪
きょうもいいてんきだ。
朝食を済ませると今日は魔法の鍛錬を行うことにした。
「さて、昨日の反省を元に今日は横になって魔法を使うぞ!」
「うわー、まったく鍛錬しているように見えないわね」
「うるさい、安全第一、命大事にだ!」
「まぁそうだけど、見た目がよろしくないわね……」
ふん、なんとでもいうがいいさ。
俺は庭に出した布団の上で寝転がりながら魔法を使う。
とりあえずホームシアターを使って映画を見たいので熟練度上げも兼ねて霧の魔法を使用することにした。
「グリ、霧の魔法を頼む」
「はいはい、んー、霧っ!」
うお、魔力が抜けていく……。
「っ……! ちょっとくらくらするけど何とか意識を失わずに済んだか……」
「おー、すごいすごい、成長してるねー」
「ただここからもう一回使うのは厳しいな」
「そうね、今日はこれくらいにしとこっか?」
「いや、ちょっと昼寝してからもう一回やってみる」
「う~ん、精神魔力は寝たら回復するって言ってもそんなにすぐには回復しないわよ?」
「まぁまぁ、物は試しだ」
そういうと俺は昼寝を開始した。
いやー、鍛錬はつらいね!
太陽が南中となるころ、目を開けると横でグリが寝ていた。
この魔導書、どんだけ寝れば気が済むんだ。
自分のことを棚上げにしてグリを起こす。
「おい、起きろ、もう昼だぞ」
「ん……あと50億年……」
「地球が太陽に飲み込まれるわ! っていうか起きてるだろ?」
「あれ、ばれてた?」
「ばればれだ。ほれ、昼飯にするぞ」
「は~い」
今日はちょっと遠出してファミレスに行くことにした。
軽トラっていうのがちょっと締まらないな。
まぁいいか。
え?鍛錬?明日明日。
「なんかデートみたいだねー」
「軽トラでデートも何もないだろ」
「でも2シーター、ミッドシップ、4WDって言えば?」
「不思議! かっこよく聞こえる!」
「でしょでしょー?」
「馬鹿野郎!」
「あははー!」
「あははは!」
台風一過で晴れ渡った青空の下、俺とグリは笑いあった。
窓から入ってくる風が汗ばんだ肌をなでる。
外を見ると青から黄金色に変わりつつある稲穂が風に揺れていた。
「うう……」
「まだかー」
「ごめん、あともうちょっと待って!」
ファミレスのメニューを見つめて唸り声を上げるグリ。
見たこともない料理の数々を前にどれを食べるか決心がつかないらしい。
「このえびふらいっていうのも美味しそうだし、チキングリルも食べてみたい……。ハンバーグ……う~ん……」
席に座ってから15分が経過していた。
「エビフライセット……いやいや、チキングリルとハンバーグのコンボ……うー、うー……」
「なぁ」
「ごめん! 本当にあと少し、あと少しだけ!」
「いや、エビフライセットかチキングリルとハンバーグのコンボのどっちかってとこまでは決まったんだよな?」
「うん……でもどっちにするか決められなくて……」
まぁ、初めてじゃ仕方ないよな。
迷って決められない気持ちは俺も良くわかる。
「んじゃ俺がチキングリルとハンバーグのコンボ頼むから、グリがエビフライセット頼んで半分交換しよう」
「!! いいの!?」
「おー、だから早く頼もうぜ」
「ありがと!!」
30分が過ぎ、流石に俺の腹も限界だった。
「おいしいー!」
「お気に召したようでなにより」
「この世界って美味しいものがいっぱいあるんだね!」
「おー、他にもいろいろあるからこれからゆっくり食べて行こうな」
「そ、そうね、ゆっくり、ね」
「ん?」
「ううん、ゆっくりじゃなくて早く食べてみたいなーって」
「この食いしん坊め」
「うるさいなぁ、別にいいでしょ?」
まぁ、おいしそうに食べてる姿は見てて可愛らしいとは思うんだけどな。
だが一つ言っておいてやらねばなるまい。
「大人のレディーは慎ましやかなもんだよ」
「ぶー!」
口をとがらせるグリ。
そういうところが子供だよなと思いながら俺は誤魔化すことにする。
「あ、デザートどうする?」
食事がひと段落したのを見計らいデザートのページを開いてグリに見せる。
さぁ再び迷うが良い!
「おおおお! こ、これは、天から舞い降りてきた結晶の宝石箱やー!」
「キャラ壊れてるぞー」
「すごいよ渡! みんなキラキラしてる!!」
「せやな」
「もー、ちゃんと見てよ! すごいよ! これ食べれるんだよね? うわー! うっわー! 迷っちゃうなぁ!」
ふむ……。
お腹を満たした俺にちょっとしたいたずら心が芽生える。
「どれもうまいが、おすすめはこの昇天ペガサスミックスパフェってやつだ」
「わぁ! これ、いいの?」
「ああ、好きなのを頼みなさい」
ぴんぽーん
グリが店員を呼ぶボタンを押す。
今ならまだ間に合う、間に合うが……俺はこの誰も頼んだところを見たことないブツを一度この目で見たかったんだ。
好奇心は猫をも殺す。そんな言葉を俺の辞書に追記したのはこの事件だったな。
なんて現実逃避をしているうちにグリが注文を済ます。
「楽しみだねー」
ああ、楽しみだ、その可愛い笑顔が苦痛に歪む未来がな!
……何このノリ。なんか変なテンションになっていた。
耳に入って来た重低音が俺を正気に戻す。
ゴウンゴウンゴウン……
パフェを積んだサービスワゴンがやってくる。
いや、サービスワゴンの音じゃないよね、これ。
というか、足元無限軌道なんですが。
俺とグリは起こしてはいけないものを起こしてしまったようだった……。
Fin