表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/114

【第8話 仮面の老紳士】

 そして月が落ちる時刻となった。


「そろそろか」

「ええ」


 万全の態勢とはいえ、少し緊張する。


 キュイン……。


 テーブルの上に広げられた便箋が輝き始めた。


「来たわね」

「せやな」

「歓迎してあげますですー」


 リビングに緊張が走る。


 葵達には念のため別館に避難してもらい、俺達は宵の明星の盟主様とやらを出迎える。

 爺さんの知り合いらしいし、特段危険はないだろうが念には念を入れてというやつだ。


 魔法が展開され魔力が収束していくことを感じる。

 便箋を起点としてどこか別の場所へ繋がるようだ。

 円状に展開される魔法、いわゆる魔方陣と言うやつだろうか。


 ……、繋がった。


 魔法陣から人が現れる。


 その姿は異様だった。

 何せ舞踏会にでも行くのかと言う格好なのだ。

 目の周りだけを覆う銀色のベネチアンマスクに、紫色の髪の毛。

 それにピンク色タキシードだ。

 頬周りの肌を見る限り既に還暦は越えているであろうに。


 うわぁ……。

 ハロウィンには半年ばかり早いですよ……。


「出迎え感謝する」


 重みのある声が俺に労いの言葉を投げかける。


「あ、あぁ……、喜んで貰えたようでうれしいよ」


 何とか動揺を抑えて答えたものの、声は少し震えていた。

 笑いを抑えるので割と必死だったのだ。


「ふむ、その若さでなかなかに立場をわきまえているではないか。それではすぐに出立しても構わないかね?」


 そんな俺の苦労を知ってか知らずか、彼は俺を見ながら頷いている。

 満足げに彼が頷くたびにベネチアンマスクが自分の存在を主張するように上下に揺れる。

 ちくしょう、このマスクめ、俺の腹筋をそんなに崩壊させたいのか。

 ならばよかろう。

 俺が出す答えは一つだ。


「だが断る」

「……、なに?」


 彼は断られるとは一切思っていなかったのだろう。

 俺が何を言っているのかわからない様だ。

 いや、常識的に考えてほしい。

 こんなアバンギャルディーな恰好をした紳士に誰が付いていくというのだろうか。


「いろいろと、その、説明が足りていないとは思わないか?」

「そうか、まぁ君が何を言っても連れて行くのだがね」


 彼は俺の意向を考えてはくれないらしい。

 まぁそれならば俺も遠慮する必要がなくなるので問題ないのだが。


「出来るのならどうぞ?」

「君は……、立場をわきまえていると言うのは取り下げなければならない様だ」


 少しイラついたようにため息をつき、彼は俺を睨みつけてくる。

 プライドが高いのかな。

 いや、年齢が半分もないような小僧相手になめた口を利かれたら大抵の人は不機嫌になるか。


「十分わきまえているつもりなんですけどね」

「ふっ、減らず口を。多少魔法が使えるからと言って調子に乗っているようだな。その慢心、ここで折らせてもらおう!」


 腕をこちらにつきだして彼は叫ぶ。


「縛鎖!」


 しかし何も起こらなかった!


 当然である。

 俺達は彼が魔法陣から出現すると同時に魔法の制御権を奪取、さらに周囲に障壁と結界を同時展開して行動がとれない様にしていたのだ。

 もちろん、すぐに気付かれては何なので隠形、幻影、夢の魔法を同時展開している。

 流石に少し重いが仕方あるまい。


「む? 縛鎖! 縛鎖!? 縛鎖!! なぜだっ!?」

「満足しましたか?」

「き、貴様! 何をした!?」

「どんな者が来るかわからないのに無防備で待つわけないでしょうが。ちゃんと対策させてもらっただけですよ」


 いつ来るのかが分かっていればいくらでも対処のしようがある。

 ましてや相手はご丁寧にも便箋を起点とするために魔法を張っておいてくれたのだから。

 もっとも、多少の隠蔽はしてあったようだが。


「くっ……」

「それと、転移魔法と言えばいいんですかね? あなたが来られた時の魔法の制御権は既にこちらが奪取していますので」

「なんだと……」

「ああ、危害を加えるつもりはありません。あなたがちゃんと説明さえしてくれれば同行してもいいとさえ思っているのですよ?」

「……」


 嘘ではない、ちゃんと説明さえしてもらえれば吝か(やぶさか)ではないのだ。

 ただ無理やりとか言われると反発したくなるだけで。


「信じる信じないはお任せしますが、信じない場合は少しばかり素直になってもらう必要が出てくるかもしれませんね」

「脅す気か……」

「なに、痛い思いはさせませんよ。ちょっとキレイになってもらうだけです」

「……」

「どうしますか?」


 俺はとうとう俯いてしまった彼に選択を迫る。

 彼はよほど悔しいのか手を握り締めて震えていた。


「……、くくっ……、くははははは!」


 少し待っても回答が無いので再度声を掛けようかと思っていると彼は急に笑い出す。


「……、大丈夫ですか?」


 頭が。

 ちょっと怖いんですけど……。

お読みいただきありがとうございました。

またのご来訪お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ