【第7話 黒山羊】
「入学式には出て頂けますの?」
「うん? 出ていいのか?」
帰りの車内、葵は俺に入学式に出てほしいと言う。
「え? あれって身内以外出ていいのか?」
「……、旦那様は身内ですわ」
「あ、うん。そうだな。良いなら参加しようか」
「ありがとうございます……」
そうなるとスーツの準備しとかないとな。
グリに頼んでおかないと。
「……」
「部活は何に入るとかは決めてるのか?」
「いえ、まだどの様な部活があるかも知りませんので」
「そっかー」
「ただ、文科系の部活にしようかとは思っておりますわ」
「ほー、吹奏楽とか美術とかか? 葵がやると絵になりそうではあるよな」
ザ・お嬢様! って感じだし。
後は茶道とか書道、ちょっと外して演劇部なんかも似合いそうだ。
「っ! からかわないでください! ……、その、手芸とか、料理とか……」
「からかっているわけじゃなかったんだがな。そっか、そういうのが好きなんだ?」
「好きと言いますか……。必要でしょうし……」
「そういうもんかね?」
「ええ……」
必要、ね。
いつまでたっても市野谷やグリ達におんぶにだっこって訳にもいかないと。
こいつもちゃんと考えてるんだな。
感心感心。
「俺もできた方が良いのかね」
「……、旦那様は殿方ですし、不要では?」
「まぁそうだよな」
「はい、お任せください」
「んー」
ん? なんかニュアンスが違う?
いや、そんな分けないか。
俺は男だし、グリ達に任せればそれでいいだろ。
うん、きっとそうに違いない。
夕焼けに染まる空、少し温くなってきた空気。
流れる景色、繋ぐ掌から伝わってくる鼓動。
助手席に座り外を向く彼女の揺れる髪の毛は、なぜだかとても蠱惑的だった。
俺と彼女とを分け隔てるシフトレバーが無ければ危なかったかもしれない。
なんせ俺は運転中なので。
「お館様、お嬢様、お帰りなさいませ」
市野谷さんが入口で出迎えてくれる。
「ただいま」
「ただ今戻りましたわ」
「連絡したわけでもないのに待機してるとか、もしかしてずっと待っていたのか?」
「いえいえ、たまたまでございますよ」
「それならいんだが……」
ずっと待っていられても困るし、GPSとか魔法的な何かで位置を追跡されていたとかだともっと困る。
いや、別にバレて困るようなところに行くつもりはないんだけれども。
もっとも乗っている車はげふんげふん。
俺は犯罪者ではないからな。
「それでは私が車庫に戻しておきますのでお館様は中へどうぞ」
「ん、頼んだ」
市野谷に車のキーを渡すと俺は葵を連れて屋敷の入口へ向かう。
掴もうとした掌は、自然に躱されてしまった。
少し残念。
「ここだと目もありますので……」
「なければいいのか?」
「っ……! は、はい……」
消え入るような声で肯定を返してきたその顔は、夕焼けよりも赤かった。
「冗談だ」
「……、旦那様は意地悪ですわ」
「葵が可愛すぎるのが悪い」
「またそういうことを!」
「今度は本当だぞ?」
「もう騙されませんわっ!」
少しからかいすぎたかもしれない。
葵は俺に背中を向けると先にリビングへ向かってしまった。
「おか~り~」
「お帰りです~」
リビングではアルとクロノがソファーに寝ころびながらTVを見て、ポテチとコーラを口にしていた。
所謂ひもうとスタイルである。
……、今日一日葵を見てきた分、落差がひどい……。
「なんや兄さん? ……、仕方ないなぁ、少しだけやで?」
そう言ってアルが食べかけのポテチを差し出してくる。
いや、せめて丸1枚全部くれよ。
もらうけど。
「渡さん、なんです? そのゴミを見るような目は?」
「……、せめて起きて食べろ……」
俺はそういうのが精一杯だった。
「あ、渡、封筒が届いているわよ」
「うん? 俺にか? 珍しいな。どれどれ」
ずいぶん立派な封筒だな。
あれ? 差出人が書いていないぞ。
それに切手も貼っていない。
……、怪しい。
封を開ける前にしっかり視とくか……。
「何やら仕込まれている様だけど特に悪意は感じられないな……」
「一応私も確認してるから大丈夫と思うわよ」
「そっか」
封を開けて中身を確認する。
警戒したものの、中身は便箋が一枚収められているだけだった。
「考えすぎか」
そう呟きながら俺は中身に目を通す。
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To:黒山羊の盟主様
ご機嫌麗しく存じ上げます。
此度、七芒星の戒めを開催する運びとなりました。
つきましては敷紙様にもご参加いただきたく。
本日、月が落ちる頃にお迎えに参上いたします。
From:宵の明星の盟主
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
……。
「なんだこれ……」
「うん? ちょっと見せてみて」
グリに便箋を渡す。
「う~ん……? 黒山羊っていうのが何かはわからないわね。七芒星の戒めと言うのは多分だけど、会合とかそういう類の事ね」
「なんでそんな分かりづらい名前にしてるんだ……」
「趣味かしらね」
「中二病かよ、一体何年引きずってるんだ」
「実際に存在しているんだからそうとは言い切れないと思うけど」
「むぅ、まぁ確かにそうか?」
それでも黒山羊っていうのはわからないな。
後で爺さんにでも聞いてみるか。
「月が落ちる頃っていうのはそのままよ。3時間後くらいね」
「お迎えに参上って、これ俺に拒否権は?」
「渡が行きたくないなら拒否すればいいんじゃない? 大丈夫よ、追い返してあげるから」
「でも行かないとまたちょっかい掛けられそうだよなぁ……」
なんてめんどくさい……。
「グリ、すまないが付き合ってくれるか」
「もちろん、アルとクロノも呼んでくるわね」
「頼んだ」
さて、他に俺が出来ることは爺さんに電話してみるくらいかな。
俺は携帯を取り出すと爺さんへ電話をかけた。
「ってなわけなんだけど、何か知ってる?」
「ああ、白山羊の枠を使っての。渡を盟主として黒山羊と言う組織を作ったんじゃよ」
「は……?」
「崩壊に追い込んだのはいいが、せっかく組織の枠がもったいないと思ってのぅ」
「いや、聞いてないんだけど……」
勝手に盟主にするとか何よ。
しかも部下が10人くらいいることになってるって?
誰だよ。
え、あの腰痛持ちのおじいちゃんとか?
そうですか……。
「すまんな、伝えるのを忘れておった。まぁ悪い事にはならんよ。その会合の招待は宵の明星から来たのだろう?」
「宵の明星の盟主って、爺さんの知り合いか?」
「まぁの、ちょっとした縁があっての」
「そっか、それなら大丈夫かな」
「んむ、楽しんで来い」
「せいぜい頑張るさ」
そう言って俺は電話を切った。
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