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【第5話 市野谷の罠】

「制服を用意したいと思うのですがよろしいでしょうか」


 翌日、朝食を食べ終わると市野谷さんがそう言ってきた。


 なお彼は先に別館で朝食をとっており、俺と葵、それにグリ達だけでの朝食だった。

 使用人が主人たちと食事を同席することはありえないそうだ。

 本当は料理等もしたかったらしいのだが、それはグリが断固拒否していた。


「うん? どういうことだ?」

「はい、彼らの服が無いことはお館様もご存知かと思います。そのため服を購入する必要があるわけですが敷紙家の者として恥ずかしくない格好をさせる必要があります」

「そ、そうなの?」

「ええ、ですので制服を。と」

「う、うん、グリ、それでいいか?」

「そうね、良いと思うわよ?」

「ありがとうございます。それでは汚れても良い作業着と外出用の制服をそれぞれ用意させていただきます」

「分かったわ。請求書は私に回して」

「承りました」


 どうやったかはわからないが、その日のうちに制服と作業着が届けられた。

 魔導書ってすごい。

 俺は久しぶりにそう思った。



「制服を用意したいと思うのですがよろしいでしょうか」

「え?」


 翌日の朝食後、再び市野谷さんがそう言ってくる。

 あれ、昨日買ったよね?


「お嬢様の制服でございます」

「あ! そっか!」

「間もなく中学校の入学式でございますので」


 やべ、すっかり忘れてた……。


「それはもちろん、一番いいのを頼む」

「旦那様、ありがとうございます……」

「いや、気にするな。俺の義務だしな。市野谷、言ってくれて感謝する」

「ありがたきお言葉。それでは一休みしてから出かけるということでよろしいでしょうか?」

「え?」

「丈を合わせる必要がありますので」

「あ、ああ、俺が車を出せばいいんだな?」

「はい、よろしくお願いいたします。先ほど新しい車が納車されましたが、現状保険の関係でお館様しか運転できませんので」


 納車……?

 初耳なんですが。


「お館様のお爺様より付け届けだそうです」

「そう、か……」


 まぁ、人数増えたし軽トラじゃ厳しかったもんな。

 でも保険が俺だけって、爺さん、少しは考えてくれよ……。


 倉庫へ向かうと、そこには動くホテルの異名を持つ例の車があった。

 そしてこの車は俺しか運転できない。

 ……。

 他意はないと信じたい。



「それでは行ってらっしゃいませ」

「いってらー」

「あれ? アル達は来ないのか?」

「今日はうちら用事があるんよ」

「珍しいな」

「まぁ、魔導書にもいろいろあるねん。半月も放置してたからなー」

「そういうものか」

「そういうものや」


 アル達に見送られて俺と葵は町へと向かう。

 そういえば誰かと2人だけで買い物に行くのってグリ以外だと初めてかな。

 少し新鮮な気がする。


「……」

「……」


 沈黙が車内を支配する。


「「あのっ」」

「「っ……!」」


 話そうとしたがタイミングが被る。


「さ、先にどうぞ?」

「いえ、旦那様からお先に……」

「いやいや」

「いえいえ」


 ……。

 これ延々ループするな。


「それじゃお先に失礼して」

「はい」

「制服以外に買うものはあるのかな?」

「そうですわね、後は鞄と靴くらいでしょうか」


 う~ん、それだけか。

 それだと大分時間余るなぁ……。

 そんなこと思いながら言葉を返す。


「そっかそっか。指定もあるんだよな?」

「はい、とはいえあまり厳しい縛りではない様ですわ」

「と、言うと?」

「そうですわね。靴は落ち着いた色をした革靴、靴下は白で膝より下でくるぶしが隠れればよい。この程度ですわ」

「ほー、ある程度自由にできるんだな」

「ええ、ですので、旦那様の好みに合わせられたらと……」

「お、おぅ……」


 再び車内に沈黙が満ちる。


「……、それで、葵の話は?」

「あ、えっとですね、その、よろしければいいのですが……」

「うん?」

「あの……、映画を、見たいのですけれども……」

「映画か、いいね。そういえば最近行ってなかったし」

「いいのですか?」

「そりゃもちろん」

「ほっ……」


 映画を見に行くくらい別にいいのに。

 遠慮しないで欲しい。

 まぁ、知り合って間もないし仕方がないか。


「それでなんてタイトルの映画なんだ?」

「えっと、どれと言うのは決めておりませんの」

「そうなの?」

「だめでしょうか……?」


 映画館の雰囲気が好きなタイプかな。

 独特な空気を思い出す。

 うん、分からないでもない。


「いや、それじゃ何があるか携帯で調べておいて」

「あの、携帯電話は持っておりませんの……」

「まじで?」

「すみません……」

「いや……」


 今時の子は皆携帯電話を持っているものだと思っていたのだが……。

 話を聞くと、市野谷の方針で携帯電話は持たせてくれなかったらしい。

 なんでも馬鹿になるだとか危険だとかで。


 う~ん……。

 市野谷さん、気持ちはわかるけど過保護すぎやしませんか……。


「それじゃ、葵に携帯電話を買ってあげよう」

「いいのですか……?」

「そうじゃないとこれから困るだろうしね」

「でも市野谷がなんというか……」

「俺はお館様だぞ? 大丈夫さ」

「旦那様……」

「あ、そうだ、最近カラオケ行ってなかったしちょっと歌って行かないか?」

「はいっ!」


 これで今日の予定が決まった。


 制服を買った後は映画に行ってその後昼食。

 それから携帯を選んで、最後はカラオケだ。

 ん……?

 これはもしかしてデートと言うやつではないだろうか。

 まぁ、相手は子供みたいなもんだし違うかな。


「楽しみですわ」


 そう言って微笑む葵の髪の毛が風に揺れた。

投稿開始から2か月、長いような短いような。

これからもよろしくお願いいたします。

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