【第4話 やったね! 渡ちゃん!】
葵の部屋を決めた後、風呂の紹介をすることにした。
うちの自慢の風呂だからな。
驚くがいい。
脱衣所を通り、葵を浴場へ案内する。
「こ、これは……」
「すごいやろ? うちの住んでた迷宮潰して作った風呂やからなっ!」
いや、潰してというか、潰れたところに出来ただけ……。
まぁいいか。
流石に目隠し無しと言うのはよろしくないので言い訳程度に風呂の周囲一帯には柵を設けてある。
これで1階部分からは中の様子が見えない。
もっとも2階から見ればほとんど丸見えなのだが……。
現状2階は使ってないからな、これでいいのだ。
……、別に覗こうとか考えてないからな?
「ここの風呂は自由に使ってくれ。洞窟風呂がお勧めだぞ」
「すごい、ですわね……」
「男女で時間別れてるとかもないのでいつでも入れるですよ!」
「え……、は、はい……」
葵がちらっとこちらを見てから頷く。
いや、見られても困るんだが。
「大丈夫、大丈夫です……」
「まぁ、単身こっちにきたんやから覚悟くらいしとるんやろ?」
「……、はい……」
はい、そこ、煽らないの。
葵が俯いちゃってるじゃないか。
それに市野谷さんも一緒だからね?
「葵、何でもかんでも真面目にに受け止めるな。アルの冗談だ」
「……」
いや、なんでそこで悲しそうな顔するのよ。
俺、助け舟出したよね?
「……、兄さん、ほんま空気読めへんなぁ……」
アルに言われるとは……。
「ちょっとあっち行っといてや」
「しっしっ、です」
「あ、ああ……」
アルとクロノにあっちに行けとやられて俺は1人席を外した。
庭をぷらぷら歩いていると別館の中で部屋の掃除をしているらしき市野谷さんらしき人影を見かけた。
一応彼らにも伝えておこう。
「市野谷さん、今大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。しかしお館様、私めの事は呼び捨ててください。それと敬語は控えて頂きたく」
「え? でも市野谷さんは年上ですし……」
「私は使用人でお館様方とは立場が違いますので」
「そういうものですか……?」
「はい、それがけじめというものでございます」
硬いなぁ。
まぁ、本人がそれを望むというのなら仕方がないか。
「あーっと、うちの風呂についてなのだが、庭にあるでかい風呂、あれ自由に使っていいから」
「お心遣い、痛み入ります。しかし我々は使用人ですので……」
「そ、そうか……、それじゃ失礼するよ」
「はい、またよろしくお願いいたします」
たまには男同士で裸の付き合いをと思ったのだが……。
来栖家の2代目と折り合いが悪かったと聞いたが、恐らくこういうところでの擦れ違いがあったんだろうな、と思いながらその場を離れた。
浴場へ戻ると既に葵は居なくなっていた。
どこへ行ったのだろう。
グリ達が屋敷の中を案内しているんだろうか。
脱衣所の時計を見ると22時を回っていた。
「もうこんな時間か」
そろそろ風呂入って部屋でゴロゴロしていたいな。
ここ最近ずっとバタバタしていて少し疲れた。
脱衣所の棚には着替えが常備されているし、ついでに風呂に入っていくか。
俺はそう考えて服を脱ぎ、洗い場へ向かった。
「あ~……、生き返る~……」
1人星空の下で風呂を満喫する。
照明は星々の輝きを邪魔しない様にかなり少なめに灯してある。
雪見風呂もいいが、星見風呂もなかなか乙なものだ。
「っと、そういえばジャグジーを作ろうと思ってたんだったか」
いつぞやのホテルのことを思い出し、俺はメニューを表示させる。
そして思い出す。
ポイント、すっからかんだったんだよなぁ……。
「あれ?」
地味にポイントが増えていた。
なんでだ。
「あー、もしかして市野谷さん達の分かな」
何でもできるほどではないものの、これだけあったら風呂にジャグジーを追加するくらいならできるだろう。
市野谷さん、やっぱ凄い人なんだよなぁ。
数時間居るだけでこれだけラビリンスポイントが増えるとは。
まぁおっさんたちも居るからその分もあるんだろうけど。
「そんじゃジャグジーを設置しますかね」
設置場所はどの辺がいいかな。
洞窟風呂周辺だと音がうるさそうだし、屋敷の近くだと水蒸気が屋敷に変な影響及ぼしかねないしな。
そんなわけでサウナの横にジャグジーを設置することにした。
しかし、なんでこんなオプションがあるのだろうか。
迷宮関係ないだろ。
……、気にするだけ無駄か。
「おおお……」
そして5分後、俺は地面から湧き出る泡に弄ばれていた。
「た、たまらん……」
少し五月蠅いものの、この泡の感触が実にいい。
うるさいのが嫌ならジャグジーエリアから少し離れればいいだけだしな。
全身の疲れが溶けて行く……。
湯気が濛々と立ち上がり、視界はほとんどない。
それによりここだけ別の世界になったかのようだった。
そんな世界に陶酔し、一体どれくらい時間がたったのだろうか。
「本当にすごいわね……」
「え?」
急に後ろから声をかけられて振り向くとそこにはバスタオルを巻いた葵の姿があった。
髪を結い上げて少し顔を上気させた葵はいつもと違う雰囲気を醸し出していた。
薄暗い中であっても、いやだからこそか。
神秘的な雰囲気を纏っている。
視線を下にずらすと、控えめながらも確かにあるそれがバスタオルを押し上げていた。
ゴクリ
「……」
「……」
俺と葵の視線が絡み合う。
俺は中腰になると葵の方に手を伸ばし……。
「おまたせですー」
「うっわ、兄さんほんとに作ったんや?」
当然のように邪魔が入った。
ちくしょう! せっかくのチャンスが!?
……、なにがだ。
「あ、ああ、ホテルで入った時によかったからな……」
俺は再び腰を落ち着かせる。
「ちょっと!? アルさん!? クロノさん!? タオルくらい巻かないと!?」
「へ? 別にかまへんやろ?」
「ですですー。というか、葵はなんでタオル巻いてるんです? マナー違反ですよ!」
「そ、それは……」
クロノが水を書き分け葵に駆けよる。
そして葵の体を覆っていたタオルに手をかけ……。
「はい、そこまで」
俺は暗闇に覆われた。
後からやってきたグリの手が俺の瞼を覆ったのだ。
……、残念だなんて思ってないんだからねっ!
お読みいただきましてありがとうございました。
なんか風呂回多い気がしますね……。
まぁ、私がお風呂好きですから仕方ないですね。




