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【第3話 家族が増えるよ!】

 ヘッドライトが夜の(とばり)を切り裂き、白い車体が暗闇を駆け抜ける。

 風は少し冷たいが、それが逆に気持ちいい。


 「きゃっ!」


 時折段差を乗り越えるたびに軽トラが上下に揺られ葵が声を上げる。

 高級車と違い振動がもろに来るからなぁ。

 まぁあと少しの我慢だ。



 屋敷のシルエットが見えてくる。

 たった2週間離れていただけと言うのに、ずいぶん懐かしい気がした。

 俺もホームシックにかかっていたということだろうか。


 軽トラが門の前へ近づくと、ヘッドライトに照らされて何やら蠢く(うごめく)ものがあった。


「おいおい……、またかよ……」


 俺は辟易しながら車を止め、運転席から降りるとグリ達に実体化するように指示を出す。


「ん、やっぱり車だと早いわね」

「そうだな。それで、あれなんだが……」


 俺はその蠢くものに再び視線を向ける。


「うん? あれがどうしたの?」

「いや、危ないものでなければいいんだけど」

「う~ん、まぁちょっと危ないと言えば危ないかもね」

「おいおい、大丈夫なのか」

「襲ってくるようなものではないわよ。もふーる、照らしてあげて」

「きゅっ!」


 グリはそういうといつの間にかあらわれていたもふーるに指示を出す。

 もふーるが作った光の玉が蠢くものへ近づき、その姿を照らし出した。


「……、人?」

「あ、あれ前に私がキレイにした人たちです!」

「えっ」


 あれが? いやでもなんで外にいるんだ。

 しかもやつれてるし、なんか妙に汚いし。


「お、おお……、お館様……」

「お待ちしておりました……」

「ああ……神よ……」

「と、とりあえず、グリ、彼らを洗ってそれから着替えと飯を用意してくれ!」

「わかったわ」


 後でわかったことだが、彼らはあの後すぐに屋敷に向かったそうだ。

 そして当然屋敷には誰も居ないので中に入れず、ひたすら門前で待っていたらしい。


 なんというか……、狂信の方向が変わっただけで状況はむしろ悪化している気がする……。

 気にしたら負けか。


 ともかく、近所に誰も住んでいなくてよかった。

 こんなの見られたらまず間違いなく通報されてしまうだろうし。



「生き返った気分です……」

「お館様の心遣い、深く深く感謝いたします……」

「おお、神よ……」


 1人戻ってきてない奴もいるが、とりあえずこれで一安心と言ったところか。

 しかし彼らの扱いを決めていなかったな。

 仕事を振ると言ってもどう振ればいいのか……。


 ピンポーン


 ちょうどその時だった。

 入口のチャイムが鳴る。


「はい、敷紙です」


 慣れた手つきでグリが受話器を操作して入り口の様子をモニターへ表示する。

 そこに居たのは、遅れて到着した市野谷さんだった。



「なるほど、それでは私にお任せください」


 市野谷さんに現状の説明をすると、彼は頷きそう言った。


「大丈夫ですか?」

「なに、これでも来栖家で50年以上執事を務めさせていただいておりました。使用人の3人程度、差配して見せましょう」

「そうですか? それでしたら助かります」

「お任せください。お嬢様に恥をかかすわけにはいきませんからな、ご期待以上の成果を出すことをお約束します」


 そう言って市野谷さんはおっさんたちの方を向いた。


「これより皆様には私の配下に入っていただきます。私が筆頭執事とならせていただきますが、異論はありますか?」

「いえ、お館様のお役にたてるのでしたら喜んで」

「ええ、頭目がいた方がまとまりやすいでしょうし」

「むしろお願いしたいですな」

「それではよろしくお願いいたします」


 こうして敷紙家執事団が結成された。

 う~ん……、どうせならメイド隊がよかったなぁ。

 そんなことを思っていると女性陣から生暖かい眼差しを受けていることに気が付く。


「やはりそうなのですね……」

「せやろ? だからよかったんや」


 何が「そう」で、何が「よかった」んだ……。

 恐怖しかない。


「それでは遅ればせながら自己紹介を。私は市野谷 誠(いちのたに まこと)と申します。これまで敷紙家の盟友たる来栖家にて50年少々執事を務めておりました。此度(このたび)縁あって敷紙家へ移籍となりました。よろしくお願いいたします」

「これはご丁寧に。私は伊藤 一郎(いとう いちろう)と申します。しがない古物商を営んでおりましたがお館様のご厚意(ごこうい)によりこちらの屋敷にて務めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」

「同じく佐藤 二郎(さとう じろう)です」

「同じく後藤 三郎(ごとう さぶろう)です」

「なるほどなるほど、それでは……、貴様ら! その恰好は何だ! お館様に恥をかかせるつもりか!!」

「「「!!!」」」


 豹変する市野谷さんと硬直する伊藤さん達。

 俺も固まってしまった。


「世間様は貴様らの姿を通してお館様を見ているのだぞ!?」

「「「はっ、はいっ!!」」」

「姿勢を正せ! 胸を張れ! わかったか!」

「し、しかし、私どもは元々姿勢が悪く……」

「口で糞を垂れる前と後にSirを付けろ!!」

「「「ひっ……」」」

「分かったか!!」

「「「Sir! Yes! Sir!!」」」

「よろしい! 明日からはまずは貴様らの弛んだ精神を矯正する! 覚悟はいいか!!」

「「「Sir! Yes! Sir!!」」」


 ……、ブートキャンプが始まった……。

 彼らのライフサイクルは毎朝周辺10kmのジョギングと筋トレ、その後は家のあれこれを行い、就寝前に再度10kmのジョギングとなるらしい。

 俺には耐えられないな……。

 しかしおっさんたち、いや、伊藤さんたちは幸せそうにしていたのでこれで良かったのかもしれない。


 なお、部屋の割り当てについては別館を使ってもらうことにした。

 ……、葵は本館だが。


「私だけ仲間外れは寂しいですわ……」


 倫理的にどうかとは思うが、こういわれては仕方がない。

 なおおっさんたちはそもそも仲間にカウントされていない様だった。

 合掌。

お読みいただきありがとうございました。

またのご来訪、お待ちしております。

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