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【第2話 帰り道】

「というか、服とか買う必要あったのか?」

「あら、渡は葵に裸で過ごせっていうの?」

「っ……!」

「そうじゃねぇよ……」


 そこ、真っ赤な顔して俯かない。

 そんな鬼畜な真似するわけないでしょうが。


「グリが服とか出せたよなって思ってさ」

「出せることは出せるけど、出してる間は魔力を消費し続けるもの。緊急避難ならともかく、使い続けるのは魔力の無駄遣いだわ」

「そうだったのか……」


 初めて知った真実であった。



「さてと、腹も減ったしフードコートに行こうか」

「フードコートとはどの様なところですの?」

「ああ、いろんなお店が並んでいてな、選んで注文して食べれるんだよ」

「それは面白そうですわね」

「ああ、楽しみにしてな」


 俺達は途中、ウィンドウショッピングをしながらフードコートへ向かう。



 ジャンクフードからちょっと凝った料理まで、色とりどりの店が門を構え俺達を出迎えてくれる。

 買い物客のざわめきと店から漂う料理の匂いが混ざり合い、独特の雰囲気を作り出していた。


「ここだよ」

「えっと……、その……、これはちょっと……」

「え?」

「その……、我儘を聞いていただけるのでしたら静かなところでゆっくりと食事をしたいですわ……」


 葵曰く自分が食べている所を不特定多数の人間に見られるのが嫌だそうだ。

 こういうところを見ると、やはりお嬢様なんだなぁと思う。

 ただ、これからは慣れて行ってもらわないとな。

 じゃないといつまでたっても俺が好きなものが食べれない。


「ちょっとこれはつらいかもやなぁ」


 ……。

 アルベール! お前もかっ!

 というか、お前はそういうキャラじゃないだろう!


「来る途中に鰻屋があったで? 静かそうやったなぁ」


 それが狙いか……。


「よろしければそこでお願いしたいのですが……」

「ああ……、そうしようか」


 ニマニマと笑うアルには少し腹が立つが、申し訳なさそうな葵を見ると文句を言うわけにもいくまい。

 俺達は来た道を戻り、鰻屋へ向かった。



 鰻を堪能し、英気を養った俺たちは家路につく。

 もちろん、その前に人気のないところへ行って荷物をグリに格納してもらってからだ。

 あの大荷物で電車に乗るのは厳しいものがあるからな……。

 ショッピングモール内では大量に持っていた買い物袋が急に消えると怪しまれるからと頑張って手で持っていたが、漸く解放された。

 あとは2時間ちょっと電車に揺られるだけだ。

 もっとも、何も持っていないのは不自然なので鞄だけは出しているが。


「駅弁! 駅弁は買うんよな!?」


 お前はまだ食うのか。

 葵が驚いた眼で見ているぞ……。


「買わんぞ。それにさっき散々鰻を食っただろうが。おにぎりで我慢してくれ」

「えー、たった3杯やんかぁ……。もらうけど」

「ほれ」

「ありがとさん。ふぇも、とふぉげのかまめひやの、かみゃめひが……」


 アルは駅中のコンビニで買ったおにぎりを頬張りながら不満を口にする。

 女の子が口にもの入れたまま喋るなよ……。

 それと普通3杯をたったとは言いません。


「私、魔導書を入手できなくてよかったのかもしれませんわ……」


 ほんとね、好きなだけ食べさせていたら食費で破産しかねない。

 ……、だから食べる必要ないんだって……。


「んぐっ、うちはご飯を食べているんやない! その暖かさを味わっとるんや!」


 1個目のおにぎりを食べ終えたアルが、何かいいことを言っているような雰囲気を醸し(かもし)出している。

 しかしその両手に持ったおにぎりが全てを台無しにしていた。


「ふふっ……」

「うん?」

「いえ、失礼しました。少々面白いなと思いまして……」

「そうか?」

「そうですよ」

「そうか」


 考えてみれば、葵は両親が幼いうちに他界しているんだよな……。

 屋敷には自分と執事だけ。

 ……、優しくしてあげよう。

 俺はそう思うのだった。



 新幹線に乗り込み1時間、さらに在来線へ乗り継ぎ1時間。

 漸く我が町へ帰ってきた。


「ふぅ、漸く帰ってきたか」

「帰ってきましたです~」


 白山羊関連のドタバタが思いのほか長引いたな。

 俺は無人改札を潜り抜け天を仰ぐ。

 街灯くらいしか明かりは無く、それ故に都会に比べ多くの星々を映し出す黒いキャンバスが俺達を出迎える。


 なんだかんだ半月近く向こうにいたことになるのか。

 振り返ってみるとあっという間だったな。


「ここが、旦那様の住んでいる町ですの?」


 葵がきょろきょろとあたりを見回す。

 彼女は都会育ちだったから、山が物珍しいのかもしれない。

 真っ暗で見えないけど。


「コンビニすらないのですね……」

「え?」


 いや、もう閉店してるとはいえそこにあるだろ。

 と、思いながらいつものコンビニを探す。

 ……。

 ない……。

 いつものコンビニの方を見ると、入り口に張られたベニヤ板が街灯の光を反射していた。

 とうとう駅前のコンビニまで撤退してしまったのか……。


 ああ、これで週刊誌買うにも隣町まで行く必要がある。

 本当に何もなくなってしまった。


「……、流石に田舎過ぎて嫌だよな?」

「っ! い、いえ、そういうわけではっ!」


 葵は慌てて首を振る。

 その首の振りに合わせて2つのドリルが振り回され、アルの顔にあたった。


「葵ー、痛いやん」

「あ、も、申し訳ありませんわ……」


 こうして素直に謝れるところは葵のいいところだよな。

 あまりいじめるのもかわいそうだし、これくらいにしておいてあげよう。 


「気にするな、冗談だ」

「もう……」


 少し唇を尖らせて不満を表す葵の頭を軽くなでると俺たちは駐車場へ向かった。


「それじゃうちらは一回消えるで」

「です~」

「気を付けてね?」

「おぅ、任せとけ」


 グリ達に一度本だけの姿に戻ってもらい鞄に収める。


「これは……良いわね……」

「やろ?」

「最高ですぅ……」


 ……。

 グリ達の言葉を無視して葵に声をかける。


「そこの軽トラだ」

「これが軽トラ……」


 いや、流石に軽トラくらい見たことあるだろ。

 そんな風に思って葵を見る。


「っ! 勘違いしないでください、私とて軽トラくらい見たことありますわ!」

「ほー?」

「ただ、乗ったことはなかったのでこれから乗るんだと思うと……」

「そうか。それじゃ乗ってくれ。シートは固いが我慢してくれよ」

「むしろ楽しみですわ」


 そいつは心強い。


 俺の相棒でもある軽トラは、力強く唸り声を上げると屋敷に向かって軽やかに走り出した。

お読みいただきありがとうございました。

またのご来訪、お待ちしております。

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