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その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~  作者: すぴか
【第5章】おれひとりにロリさんにん
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【第20話 風よりも速く】

 来栖邸から駅へと向かう道中、俺は考えに耽る。


 葵は、いや白山羊はまだ行動に移していなかった。

 つまり屋敷、病院、花見、そして雀宮邸。

 この4つの件は白山羊と関係のないところで動いていたということだ。


 いや、違うな。

 恐らく白山羊を隠れ蓑(かくれみの)にして、より上位の組織が暗躍していたのだろう。

 本当に性質(たち)の悪い……。

 だがこれで隠れ蓑となっていた白山羊は行動不能だ。

 しばらくは平穏が訪れるだろう。


 ああ、そうだ帰ったら屋敷に先に送ったおっさん連中に仕事を振ってやらなければいけないな。

 あ……、そういえばグリに捕らえてる二人のおっさんがそのままだ。

 やっべ、どうしよ……。


 いやまてよ?

 そのおっさんたちは葵の言葉から考えると白山羊に関係のない、背後の連中のはずだ。

 思わぬところから背後の連中のしっぽをつかめた。

 ……、つかめないまま放置しておきたかった……。

 引きこもって高等遊民生活をしたかったはずなのに、なぜか仕事をしている気がする。

 なんてこった。


 ギュオンッ!


 突如(とつじょ)訪れた巨大な音、それに続く微かな衝撃が思考の海から俺を現実に引きずり戻す。


 周囲を見渡すが、近くで発生したわけではなさそうだ。

 少しほっとしながら発生源を探す。

 あれだけ大きな音だ、周囲の人間の見ている方向を見ればわかるだろう。

 そう思ったのだが、周囲の反応はまるで何もなかったかのようだ。


「どういうことだ……?」

「渡、今、どこかで強力な魔法が発動したわ」

「強力な魔法?」

「ええ、今の音と衝撃は、普通の人には感知できない魔法発動の際の余波ね」


 今まで魔法を発動したときにこんな音や衝撃を感じることはなかった。

 そこまで大規模な魔法の発動とその目的はなんだ。

 嫌な予感が胸によぎる。


「どこから……ってのは聞かなくてもわかるか」

「戻るの?」

「ここで見捨てて帰って何かあったら寝覚めが悪い」

「ふふ、そう」


 グリはなぜか嬉しそうに笑った。

 怪訝(けげん)に思いながらも俺は来栖邸へと急ぐのであった。



 来栖邸へ到着した俺達の目に、信じられない光景が飛び込んでくる。


「燃えている……」

「その表現は正確じゃないわね、これは魔力を吸い出されて急速に風化して行っているのよ」

「なっ!?」

「いつぞやの教会と同じやな」

「なんで……」

「あの屋敷を起点として強力な魔力吸収型の魔法が展開されてるみたいです……」

「あの娘の力じゃこれほどの魔法は発動できないはずだから、きっと何か魔導具を使っているわね」


 あの時、魔力吸収の余波で建物が朽ちていたのは記憶に新しい。

 そしてその結果が俺の脳裏に浮かぶ。


「くそっ!」

「行くのね?」

「当たり前だ!!」


 俺はそういうとクロノに結界を張ってもらい敷地内へ突入した。


 遺体すら残らない無慈悲な結果を再び起こしてはならない。

 それに敵とはいえ、一度は言葉を交わした相手だ。

 それをむざむざ見捨てることは俺にはできなかった。


 まずは木陰に転がしておいた市野谷さんの元へと向かう。

 魔法の展開範囲の端部に居たおかげか、まだ息があった。

 よかった、なんとか無事だ。


 そう思っていた俺に再び音と衝撃が襲いかかる。


「なんだっ!?」

「これは……魔法の多重展開……? どうして……」

「この感じやと少なくとも周囲1キロは巻きこむで……」

「クロノ! 結界!」

「はいっ!!」


 クロノに市野谷さんの周りへ結界を張ってもらう。

 しかしこれでクロノはここから離れられない。

 そして市野谷さんを魔法の範囲外に出している時間が惜しい。

 俺の膨大な魔力量があれば、結界なしでも葵を抱えて戻ってくるくらいは余裕だろう。

 しかし有効範囲1kmって……。


「あの馬鹿娘!! 俺達を襲わないからと言っておいて今度は無関係な人たちを巻き込むつもりか!?」

「まだ追加で展開されそうです……」

「くそっ、このままだと魔力がきつい! グリとアルはここで待っていてくれ!」


 本来ならグリとアルも連れて行きたかったが、これ以上負担が増えると俺の魔力が先に尽きそうだ。

 なんせグリとアルからも魔力が吸い出されてしまうからな。


「……、わかったわ。気を付けてね?」

「しゃーないなぁ。死ぬなや?」

「分かってる!」


 焦燥感が胸を焦がす。


「連れ帰ったら盛大にお仕置きだな……」


 俺はそう呟き結界から出る。

 結界から出ると足元から魔力が吸いだされていくことを感じた。


 屋敷に向かい石畳をひた走る。

 足元の石畳は表面が風化し砂を纏っており、全力で走ると足元が滑ってしまう。


 魔力が惜しいがそうは言っていられない。

 俺は魔力を操作して足元の砂を一時的に硬化させた。

 さらに肉体を強化し速度を上げる。

 踏みつけた石畳が砕けるが気にしていられない。

 とにかく今は時間が無いのだ。


 屋敷に近づくにつれ吸い出されている魔力が増え、全身に気だるさを覚える。

 俺ですらこれでは、葵は……。


 屋敷が近づいてくる。

 扉が邪魔だ、魔力を収束、解放。

 放った魔力は一部魔法に吸収され減衰するもそのまま扉を破壊する。


 エントランスを走り抜け、階段を駆け上り奥の間を目指す。


 さらに吸収されていく魔力が増える。

 空気はぬめり気を帯び、まるで水の中を進んでいるようだ。


 「無事でいてくれよ!」


 廊下を駆け抜け、扉に手をかける。


 勢いよく扉が開く。



 その先には葵が着ていたドレスだけが落ちていた……。

お読みいただきありがとうございました。

またのご来訪お待ちしております。

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