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その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~  作者: すぴか
【第5章】おれひとりにロリさんにん
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【第18話 憎しみと願いと】

 一瞬の静寂が部屋を支配する。


 ゴクリ……。


 無意識に鳴らした喉の音が、部屋に時間を取り戻す。


「あなたは……」


 グリの周りから黒い手が出現し少女を拘束した。

 その姿はまるで十字架にはりつけにされたかのようだ。

 きちんとスカートも巻き込んでいるので中身は、見えない……。

 いや、相手は中学生くらいの子供だ、見えないからなんということはない、はず……。


「きゃっ!? 何をっ!?」

「質問に、答えなさい」

「そんなことよりっ!」

「そんなこと……?」

「くあっ!?」


 拘束した黒い手の縛りがきつくなったようで、少女は苦悶の声を上げた。


「お、おい、グリ、やりすぎるなよ?」


 流石にちょっと引く。

 いやまぁ、襲撃を仕掛けてきた相手の親玉だから手を抜く必要はないのだろうけど。

 それでも相手がこんな子供とは思っていなかったからなぁ。


「……、わかってるわよ、悪い子にちょっとお仕置きしただけよ」

「そうか……、程々にな?」

「ええ、大丈夫よ」


 拘束が少し緩むと少女は気丈にもこちらを睨みつけてくる。


「あなたは、自分の価値が、わかっているの……」


 いや、彼女の瞳にはグリしか映っていない。

 俺の存在は無視されている。


「私の価値? それは私の所有者が決めることだわ」

「あなたが私の物になれば、有効に利用してあげるれるわよ。そうすればあなたの価値も上がっ……くっ……」


 また少し締め付けたようだ。

 ただ今のセリフは俺にもちょっと不快だった。

 グリをなんだと思っているんだ。

 彼女は魔導書だが、確かに俺のパートナーなのだ。


「不愉快なこと言わないで。私は渡だけの物よ」


 なんかすごいことを言われている気がする……。

 止めたいけど、ここで割り込むのはちょっと空気が読めないよな……。


「もし無理に手に入れようとするなら、それなりの覚悟をすることね」

「代償がいるの? 何が欲しいか言ってみなさいよ。出来る限りのことはするわよ」

「何か勘違いしている様だけど、あなた如きが私の求める物を用意できるとは思えないわね」

「言ってみないとわからないでしょ!」


 そういう少女にグリは冷たい目線を向ける。

 どうやら相当に機嫌が悪いようだ。


「そう、それなら教えてあげるわ。私が欲しいのは、賢者の石。それを用意して頂戴」

「なっ!?」

「出来るかしら?」

「そ、そんな伝説上の存在でしかないものを……」

「出来ないのならここで話は終りね」

「最初から、交渉するつもりはなかったのね……」

「そうかもしれないわね?」


 俺には分かる、グリは本気だった。

 グリは何故そんなものを欲しがるのか。

 貯金にはまだ余裕があった……、よな?

 あれ、ちょっとまずいかも。


「まぁまぁ、そのへんにしとこか?」

「アル……、でも」

「渡さんも引いてますです」

「っ……。そう、ね……」


 アルとクロノが少し暴走気味だったグリを止める。

 少し気まずそうな顔をしてグリが一歩下がり、代わりにアルとクロノが前に立つ。


「ほな、質問に答えてもらおか?」

「まって、そこのあなたたちも魔導書よね?」


 拘束されたままの少女は今度はアルとグリに問いかける。


「そやで?」

「です?」

「あなたたちでもいいわ、交渉をしましょう」

「うちらでもいい(・・・・)、ね?」

「ずいぶん不遜な物言いです。というか質問できる立場と思っているんです?」


 たった一言で人の逆鱗に触れるって、ある意味すごい。

 この娘、今までどうやって生きていたんだ。

 少し心配になる。


「くっ……、この拘束さえなければ……」

「あはは、面白い娘やなー。その程度の拘束すら外せんでうちらをどうにかできると思っとるんか」

「片腹痛いです」

「まぁ笑わせてくれたお礼に交渉したるわ。せやなー、ほならうちは人魚の肉でええで?」

「人魚なんて……」

「まぁ伝説上の生き物やなぁ?」

「グリもアルもひどいですね。伝説は伝説。現実と区別はちゃんと付けましょうよ」

魔導書(うちら)が言っても説得力皆無やな」


 少女の刺すような視線を受け流しながらアルは笑いをなんとかこらえようとしていた。


「くくっ……、そういうクロノは何を求めるんや……?」


 アルが吹き出すのを我慢しながらクロノへ問う。


「私は現実にないモノは求めないです。感謝してくださいね?」


 そういって笑うクロノの顔は、いつもの朗らかな笑顔ではなく凄惨さを感じさせるものだった。


「……」

「地球上にいる全人類の魂でいいですよ」

「あなたは悪魔か何かなの……」

「失礼な、魔導書ですよ」


 言っていることはそう間違っていないと思うんだけど……。

 なんて考えていたらグリに手の甲をつねられた。

 解せぬ。


「まぁ、君の狙いは魔導書ってことはわかったよ」

「あなたは……」

「ああ、自己紹介がまだだったね。俺は敷紙(しきがみ)(わたる)、君たちに散々迷惑をかけられてきた人だよ」


 今までのことを思い出し、少し嫌味を込めて自己紹介をする。

 子供相手に大人げないかもしれないが、これでもそれなりにイラついていたんでね。


「迷惑をかけられてきた!? 敷紙家のあなたがそれを言うの!?」

「は? 何を言っているんだ?」


 急に激昂する少女に俺は困惑する。

 俺は彼女のことはもちろん、この家、来栖家の事も知らない。


「あなたの、あなたたちの所為で来栖家は……っ!!」


 彼女の憎しみに染まった眼が俺を見据えた。

お読みいただきありがとうございました。

またのご来訪お待ちしております。

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