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その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~  作者: すぴか
【第5章】おれひとりにロリさんにん
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【第16話 野道を行けば】

 絡む指先、腕に伝わってくる体温。

 そんなはずはないのに、息が妙に近くで聞こえる気がする。

 誰にでも平等なはずの時間がゆっくりと流れる。

 柔らかなのは陽射(ひざし)なのか、それとも……。



 ――話は1時間前に遡る(さかのぼる)



「何勘違いしてるの?」


 グリは冷たい眼差しを俺達に向けてくる。


「手を繋ぐだけでいいのよ」


 ですよねー。

 知ってた。



 ――そして現在。


 俺と朱子は縁側で手を繋いで日向ぼっこをしていた。

 本当は自分で魔力を制御して朱子とラインを繋がなければいけないのだが、俺は未だ(いまだ)そこまでの細かい制御は出来ない。

 いや、やろうと思えばできるのかもしれないが一歩間違えば朱子が爆散しかねないのだ。

 そういうわけで制御はグリに任しているため、俺は暇だった。


「はぁ~……」

「まぁ、小さなことからコツコツと。だ」


 覚悟を決めていたのに梯子(はしご)を外された形となった朱子が大きなため息をつく。

 少し惜しかった……、いやいやいや。

 相手は子供、そう、子供。

 世間を知らない相手を騙して陥れる(おとしいれる)なんて、大人のすることじゃない。

 それをやったら白山羊の連中と同じになってしまう。


「いいわよ。それじゃ渡、魔法を作って」

「おぅ」


 えっと、確かいつもやっている感じで魔力を制御し、それを朱子を通して本に吸い込ませるイメージだったよな。

 とりあえず探知、硬化、それに力の3つで良いか。

 少しアレンジして悪意を察知できる魔法、衝撃等から身を守る魔法、移動速度を上げる魔法とする。

 名前としては感知、守護、逐電ってとこかな。


「……、我は綴る(つづる)……」


 なんとなく唱えてみる。

 呪文の詠唱とか、少し憧れるよね。


「わぁ……、本当に魔法使い、なんですね!」


 朱子は感極まったらしく、手に力を入れてきた。  

 ああ、うん。

 あまり力を入れられるとですね、その、君の控えめなナニがですね、当たるんですよ。


「……、別に唱える必要はないでしょ」

「え……」


 抜ける力が朱子の想いを伝えてくれる。

 お前だって似たようなことやってたじゃないか……。


 少し悲しく思いながらも3冊のノートに魔法を吸い込ませていく。

 レベル1魔法をベースとした感知はすんなり吸い込まれていったが、レベル2魔法ベースの守護と逐電は少し抵抗を感じた。

 感覚で理解する、これが魔法のレベルの違いなのだと。


「……、とりあえずこの3冊で訓練してくれ。何度も魔法を使っていれば魔力は増えるからな」

「あ、わかりました!」


 喜ぶ朱子を見ながら俺は視界の揺らめきを感じる。

 魔力切れを起こしかけているらしい。

 魔法を作るのは、魔法を使用する際に必要な魔力の100倍くらいの魔力が必要らしいからまぁ仕方ないのかな。

 なんせ魔法を数百発連打したようなもんだし、幾ら(いくら)鍛えて《きたえて》魔力が増えたといってもこの短時間に集中して使用しては底を突くというものだ。

 しかし、レベル5魔法を作った奴は化けもんだな。

 とても敵う(かなう)気がしないぞ。


 本当は結界や障壁も作っておきたかったが俺にそれだけの魔力の余裕はない。

 明日になればまた余裕ができるのだろうが、そろそろ行かないとな。


「ああ、そうだ、言い忘れていた」

「はい! なんでしょうか師匠!」


 元気よく返事をする朱子。

 魔法を渡す前にこれだけは言っておかねば。


「学校にはちゃんと通え」

「……、それは命令ですか?」

「いや、お願いだよ」

「……、わかり、ました……」

「困っている人を助けたいんだろ? そのためにはいろんなことを知らないとな」

「っ! は、はいっ!」


 世界は広い、閉じこもっていては見えないことも多いだろう。

 出来るだけ外に出てもらいたいものだ。

 ……、社内ニートやってた俺が言っても説得力がないな。


「うん、それじゃ、がんばれよ」

「え……?」

「少しばかり長く居過ぎた。もう行かないと」

「あ、あの……、また会えますか……?」


 朱子がおずおずと聞いてくる。

 何を言っているんだこの子は。


「……、本来交差しないはずの線が、今回は偶然交差しただけだよ」

「それって……、もう、会えないってことですか……」


 そのつもりだったんだが……。


「あ~……」

「……」

「一度交差した線は、必ず再び交わる」

「っ! それって!」


 あまりほめられたことではないとは思うのだが、初めての弟子だし仕方ない。

 俺はそう自分に言い訳しながら、余ったノートの端に屋敷の住所を書くと朱子に渡した。


「田舎だが、避暑にはちょうどいい。夏休みになったら友達と一緒に遊びにおいで」

「あ……、ありがとうございます!!」


 俺達は少し後ろ髪をひかれる思いを胸に雀宮邸を後にした。



「今日も泊まればよかったのに」

「そうは言ってもな、あのまま居たらいつまでたっても出発できそうになかったし。ちょうどよかったのさ」

「そうかしらね?」

「そうさ……」


 初めての弟子との別れ。

 次に会うのは夏休みかな。

 友達、出来てるといいな。




「ところでアルとクロノは?」

「あっ!」


 俺達はこっそりと雀宮邸に舞い戻り、アルとクロノを回収した。

 しまんねぇなぁ、もう。


 その日の晩御飯は俺の小遣いで焼肉を食べに行くことになってしまったのだった……。


「私たちを忘れてた罰です!」

「せやせや! あ、次タン塩とカルビ頼むで!」


 食べ放題で良かった。

 俺はそう胸をなでおろすのだった。

お読みいただきありがとうございました。


何か思いのほか話数がかかってしまいましたが漸く話が前に進みます。

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