【第15話 おべんきょしましょっ!】
「おお、渡か。順調そうだな」
翌朝、爺さんから電話がかかってきた。
雀宮邸に。
何故……、まぁ、爺さんだから考えても仕方ないか。
「予定よりだいぶ遅れてるけどな。とりあえず白山羊の拠点は3つ潰したからあと2つで終わりだよ」
「いや、残り1つだ」
「え? 最初に潰した拠点に居たやつから全部で5つって聞いてるけど」
「ああ、それはあっとるよ。1つは儂が昨日潰しておいたからの、じゃから残り1つじゃ」
入院中じゃなかったんですかね……。
「ああ、もちろん直接出向いてはおらんぞ?」
「じゃあどうやって潰したんだよ……」
「簡単じゃよ。相手は生活に困っておるだろ? その辺を部下を使ってちょいちょいとな」
「……」
「渡よ、金も魔法と同じく世の理を変える。よく覚えておきなさい」
「おぅ……」
まぁ、きっと悪い事にはなっていないだろう。
そうに違いない。
おかげで予定に1日余裕が出来た。
白山羊がばら撒いた可能性のある魔法陣は気になるが、俺の手はそこまで広くない。
目の前にあるものを守るので精一杯なのだ。
本拠地だけが残っていると爺さんから聞いた後、受話器を置いた。
外をいるとさわやかな朝日が射し込む庭を雀達が戯れていた。
朝食を頂くとお婆さんは畑仕事があると言って屋敷を出て行ってしまった。
年頃の娘と……は、いまさらか。
アルとクロノもなぜかお婆さんについていってしまったようだ。
……、頼むから野菜を食べ尽くすとかしないでくれよ……。
俺達は庭に出て魔法の指導を行うことにした。
万が一暴発したときに家の中が悲惨なことになっても困るし。
「さてと……」
ちらっと朱子を見ると期待した眼差しで俺を見つめている。
うう……、下手な真似は出来ないぞ、これ……。
師匠として、恥ずかしくない教え方をしなければ……。
俺が初めて魔法を使った時と同じ感じで良いのか?
「えーっと、とりあえず魔導書の所有者に……」
「どうやってなるんですか?」
「……、探す?」
「なんで疑問形なんですか……」
そんなこと言ったって俺が初めて魔法使った時は魔導書片手に魔法の名前言っただけだし……。
「えっと、じゃあ、グリに手伝ってもらって……」
「渡、普通の人が魔導書を持つと枯れるわよ」
「え? 俺の時は大丈夫だったじゃないか」
あの時の俺は魔力もほとんどなかったが特に不具合は無かったぞ?
今でこそ無尽蔵の魔力を保持しているが、それは訓練をしたからだ。
「あの時は空間魔力を使っていたもの」
「空間魔力って微々たるもんじゃないのか?」
「屋敷はアルの居た迷宮から魔力を吸い上げていたから空間魔力が濃密に存在していたのよ」
そうだったのか。
そうすると、どうすればいいんだ。
助けてグリ先生!
「しかたないわね。五右衛門、居る?」
「ここに」
「……。最近姿を見ないと思ったが、いったいどこにいたんだ?」
「某は影ゆえ」
つまり俺の陰に隠れていたと。
でも五右衛門なんて呼び出してどうするんだ。
「渡、五右衛門に協力してもらいましょう」
「なんで五右衛門? モフールじゃダメなのか?」
「モフールはあれでレベル4魔法だしね。それに五右衛門は魔導書に収められていないから他の人にも使わせるのも簡単でしょ」
「そういえば五右衛門は魔導書じゃなくて普通に魔法として俺が所持しているんだったか」
「忘れないでほしいのでござる……」
「いや、すまん……」
とりあえず五右衛門には適当な本に入ってもらって魔法書となってもらった。
「んじゃ、これを持って隠形って唱えてみな」
「はい! すぅ~、はぁ~……。隠形!」
お、なんか存在感が薄くなったぞ。
うまく発動できたらしい。
……、これ、訓練の意味あるのか?
「う……」
朱子がふらついたと思うと再び存在感が戻ってくる。
「大丈夫?」
「は、はい、ちょっとくらくらしますけど……」
ああ、魔力不足か。
確かにいきなりレベル2魔法は重かったかもしれない。
まだ中学生で魔力もあまりないだろうし。
「うまく、できましたか……?」
不安そうに見つめてくる朱子に俺は首肯を返す。
「ああ、ちゃんと存在感が薄れていたよ。初めてなのに上手いじゃないか」
「ありがとうございます! よかった……。それじゃ、もう一度やってみますね」
「いや、もう魔力が底を尽きかけてるだろうから今日はここまでだな」
「え、でも、まだ行けますよ」
「くらくらしたんだろ? それ、魔力不足のサインだから気を付けて」
「そうなんですか……」
「魔力が尽きると気絶するから、自分の魔力量は把握しとけ」
「はいっ!」
まぁ、何度かやってれば魔力も増えてくるしそれまでの辛抱だな。
しかしこれだと俺がずっとここに居なきゃいけないじゃないか。
連れて帰るわけにもいかないし。
かと言って五右衛門だけ置いていくのもなぁ……。
「魔法を使う才能はあるみたいだから、後は魔法を所持して練習すれば大丈夫ね」
「その魔法が問題なんだがなぁ」
「あら、渡は魔導が使えるでしょ? それで魔法を作って渡してあげればいいじゃない」
「え、そんなことできたのか」
そういえば以前そんなことを言っていた気がするな。
だがどうやって作るんだ……。
「レベル2魔法までなら普通のノートとかに書き記すことが出来るわ」
「それで五右衛門さんみたいに召喚? みたいなこともできるんですね!」
「ううん、五右衛門は覚醒した魔法だから特別。普通は出来ないわよ」
「それはちょっと残念ですね……。話し相手ができるかと思ったんですけど……」
うん、話し相手は人間の友達を作ろうね……。
「それで渡、魔法を作るにあたってなんだけど、他の人にも使われると困るから朱子専用にしなきゃいけないと思うの」
「うん、それはそうだな」
敵の手に渡った魔法書に自分が攻撃されるなんてぞっとしない話だしな。
セーフティーは必要だろう。
「だから朱子とラインを繋げてそれから魔法を作る必要があるわ」
「なるほどな、朱子もそれでいいか?」
「はい、お願いします!」
「……、ラインを繋げるってどうすればいいんだ……」
「相手がある程度魔力を操作できれば簡単なんだけど……」
グリ曰く朱子はまだそのレベルに達してないから直接肉体を接触させる必要があるとのことだった。
「そ、それって……」
「おい、流石にそれは……」
「仕方ないでしょ? それともやめる?」
ううん……。
身を守るためには仕方ないといえば仕方ないのだが……。
「……、いえ、覚悟は出来てますから」
「いいのか?」
「はい……、師匠なら、いいです……」
俺ならって……。
「あの、初めてなので、優しくしてくださいね……?」
ゴクリ……。
顔を上気させて見つめてくる朱子を前に俺は思わず喉を鳴らした。
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