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その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~  作者: すぴか
【第5章】おれひとりにロリさんにん
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【第14話 天秤に掛ける想い】

「ふぅ……」


 縁側に座り夜空を見上げた。

 真っ黒なキャンバスには変わらず星が瞬き、虫たちの合唱団がBGMを奏でる。

 火照った(ほてった)体に少し冷たい春の風が心地良い。


「横、良いかしら」

「ん、ああ」


 隣にグリが座ってくる。

 そういえば朱子を風呂場に突入させたのってグリなんだよな?

 グリの性格的に他の女と二人っきりにさせるなんて変な気がする。

 何かあったのだろうか。


「なぁ」

「クロノとアルは今お風呂に行ったわ。お風呂から出たらそのまま寝るって」

「……そうか」


 再び静寂が幕を下ろす。

 月が照らすその横顔は、何を考えているのだろうか。

 普段なら気にならない沈黙が、今は少しだけ居心地が悪い気がした。


「……、少しはお話しできた?」


 静寂の中にグリの声が微か(かすか)に響く。


「ん。ん~、まぁそこそこな」

「そう……」


 再び沈黙が場を支配する。

 何か言いたいことがあったんじゃなかったのか。

 そういうわけではないのかな。


「……、ねぇ、あの子、どう?」

「どうって、なにが?」


 グリが何を言いたいのかわからない。

 婿だの嫁だのの話のことだろうか。


 彼女はまだ14歳だ、そういう話はまだ早いだろう。

 それに俺は30歳、もうすぐ31歳になるかな。

 いくらなんでも年が離れすぎている。


「……、嫌い?」

「……、別に」

「そう、それならいいわ」


 嫌いも何も、出会ったばかりだ。

 まぁ、悪い子ではないんだろうが。


 それっきりグリは口をつぐんだ。


 ちょうどいいくらいに体は冷めたが、場を離れるのも憚られる気がして俺は席を立つことが出来なかった。



「あ、こんなところにいたんですか」


 幕を払う声がかかる。


「おぅ、体を少し冷まそうと思ってね」

「……、隣、失礼しますね」


 朱子は少し逡巡(しゅんじゅん)したものの、そう言って俺の隣に座った。


「魔法って……」

「うん?」

「魔法って危ないんですね……」

「そうだな、知らずに手を出すと大やけどでは済まないこともある」


 そう、場合によっては命を天秤にかける必要があるのだ。

 その命が自分の命か、他人の命かは別にして。


「私、そんな危ないものに手を出してたんですね……」

「そう、だな……」


 ただ、彼女の場合は事情が違う。

 確かに自ら手を伸ばし、その結果が返ってきただけに過ぎない。


 しかし、それは悪意が多分に含まれていたものだ。

 他人の命を天秤に乗せたやつがいる。

 それも何も知らない子供を騙して、だ。


「もう、かかわらない方が良いんですよね……」

「そうかもな。君が深淵を覗く時、深淵も君を覗いているのだから」

「……、はい」


 うん、そんな見つめないでくれるかな。

 俺は見つめ返さないよ?


 ふわりといい香りが春風に載って俺に届く。

 ああ……、俺のSAN値がガリガリと削られていくことを感じる……。


「もう手遅れよ」


 桃色に染まりつつあった空気をグリの言葉が切り裂く。


「手遅れ……?」

「そう、もう手遅れ。一度交差した線は、必ず再び交わるわ」


 ……、そう、か。

 騙されただけとはいえ、もうこちらの世界に彼女はその一歩を踏み込んでいるんだったか。


「朱子、あなたは魔法を使えるようになりたいんだったわよね?」

「え、ええ。でもそれはダメだって……」

「こちらの世界に関わる前だったらそうだったんだけどね」


 一度付けた足跡は、目立たなくすることは出来ても完全に消すことは出来ない。

 鼻の良い者が必ずその痕跡を見つけ出す。

 そしてその時、何も力が無ければ再び利用されてしまうだろう。

 そうグリは語った。


「そんな……」

「次も、誰かが助けてくれるかもしれないわね」

「……」


 そんな奇跡は起きない、言外(げんがい)にそう言っているのだろう。

 確かにその通りだ。

 今回はたまたま俺が関わり、偶然お婆ちゃんに捕まったからどうにかなっただけで一つでもボタンが掛け違っていればどうなっていたか……。


「どうすれば……」

「渡、この子、弟子にしましょう」

「は?」

「え?」


 いや、確かに何かしらの手段はとらなければいけないのだろうが、だからって俺が弟子をとる?

 意味が分からないんだが。


「他に手はないでしょ。それともここまで関わっておいて放り出すつもり?」

「それは……、そうかもしれんが……」

「あ、あの、これ以上ご迷惑をおかけするわけないか無いので……」

「それで、またお婆ちゃんを巻き込むの?」

「っ……」

「いいわね?」

「はい……」

「渡もいいでしょ、それで」

「まぁ、仕方ないか……」

「……、よろしくお願いしますね、……師匠!」


 朱子は少し困惑しつつも俺を師匠と呼んだ。

 師匠、か。

 悪くない響き(ひびき)だ。


 しかし、どうやって教えればいいんだ?

 俺はほぼ独学だったしな。

 う~ん、どうするか。


「っと……、ちょっと冷えてきたな」

「そうね、続きはまた明日にしましょう」

「はい」


 明日やれることは明日やろう。

 そう思いながら俺は布団に向かった。

お読みいただきありがとうございました。

またのご来訪お待ちしております。

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