【第13話 ふよんっ】
「お背中、お流し、します……」
うん、定番だよね。
白いバスタオルを体に巻いた朱子が風呂場に入ってくる。
あ、なんか新鮮かも。
グリ達は隠したりしないもんな。
なんか隠されると、こう、ムラムラと来るものが……。
っと、いかんいかん。
俺は手遅れじゃないんだ。
まだセーフ、まだセーフなんだ……。
自分にそう言い聞かせ朱子の目を見るが、視線が合わない。
彼女は凝視していたのだ。
そう、俺の愚息を……。
「っ! す、すまんっ!」
「ひゃいっ、いえ、結構なお手前でっ!!」
慌てて股間を隠す俺と、手で顔を隠しつつも指の隙間から俺の股間を見つめ続ける朱子。
あー、まぁ、そういうのに興味が出てくる年頃、なのかな。
お父さんもほとんど家にいないらしいから、珍しいのもあるのだろう。
俺は大人だ、クールに行こうぜ……。
「あ、あの、大丈夫です。グリ達から聞いてますから!」
「お、おぅ……?」
一体何を聞いたのだろうか……。
何かろくでもないことな予感しかしない。
「敷紙さんは小さい子にしか興味ないって……」
「違う!!」
俺は思わず叫んだ。
違うよ! 俺はむしろおっきい方が好きなんだよ!!
なんでそんなことになってんだ!?
「え? そうなんですか?」
「ああ、俺は犯罪者じゃない……」
グリ達とは後でじっくりOHANASHIしなきゃならないようだな……。
だが……、なんて言えばいいんだ?
言い出しにくい話題を突っ込むとは、汚い、流石魔導書、汚い。
「ふふっ……」
打ちひしがれる俺に笑い声が届く。
「ん?」
「いえ、ちょっとほっとしました。敷紙さん、もう少し怖い人かと思ってましたから」
……、考えてみればいきなり部屋に侵入して物ぶっ壊して怒鳴り散らしただけだしな。
怖がられない要素が無い気がする。
うん、そう思えば俺、かなり危ない人じゃない?
むしろこの子良い子過ぎるでしょ、普通あの時点で通報ものじゃん。
なんでそうしなかったのか……。
あ、俺が縛ってたんだった、完全に犯罪じゃねえか。
「その、すまん……」
「いえ、気にしないでください。私が悪かったんですから」
お互いに微笑み合う俺と朱子。
ただし風呂場で。
気まずい空気が流れる。
「……、それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうかな」
「は、はい、よろしくお願いします……」
何をよろしくすればいいのだろうか。
とりあえず椅子に座って背中を向ける。
「それでは失礼します……」
「ああ、頼む……」
ふよんっ。
2つの柔らかい感触が布越しに伝わってくる。
「な!?」
「振り向かないでくださいっ!!」
「いや、そうはいってもだな!?」
これはまずい、危なすぎる。
主に俺のキカンボウが。
「こ、これが正しい作法だって聞いてますから、大丈夫、大丈夫です……」
「一体どこでそんな作法を習った!?」
「い、インターネットで……」
誰だよ、そんなこと吹きこんだ馬鹿はっ。
最高……げふんげふん、けしからんぞっ。
あふんっ……。
いかん、の、呑まれる、くそっ……。
心頭滅却、心頭滅却、臨兵闘者 皆陣列前行……。
俺が煩悩と戦っている間に柔らかい2つの感触は背中全体をくまなく洗いつくしていった……。
「その、前はご自分でお願いしますね……?」
「あ、ああ……」
かけ湯をする音がした後、湯船に入る音がする。
まだあなた出ないんですか……。
そりゃそうか、冷えるもんな……。
俺は何とか前を洗い、石鹸を流す。
「えっと、俺も湯船に入っていいか?」
……、何を言っているんだとは思うが、入りたいものは入りたいのだ(意味深)。
いや、深い意味なんてないからね?
うん、俺は純粋に湯船につかりたいんだ。
「あ、はい、どうぞ……」
「失礼するよ……」
ふう……。
いい湯だ……。
「あの、不束者ですがよろしくお願いしますね……?」
「はい?」
「お婆ちゃんから聞いていますから、大丈夫、ですよ……」
はにかみながら朱子は微笑んでくる。
朱の差した頬は、お風呂に入っているからと言うわけではないだろう。
「いや、なにがよ?」
お婆ちゃん、この子に一体何を言ったんだ……。
「その、敷紙さんが私のお婿さんだって……」
……、婿取りの話、マジだったのかよ……。
いやいやいや、ちょっと待てや。
「……、流石に冗談だろ?」
「え? いえ、本当ですよ?」
「いやいやいや、俺30歳だよ? 朱子は14歳だろ?
「年の差結婚ですか、昔見た漫画みたいでちょっと照れますね」
そうじゃねえよ。
「嫌じゃないのか?」
「その、敷紙さんが嫌じゃないなら……」
「何か好かれるようなことしたっけか……?」
「……、えっとですね、その、聞いてもらえますか?」
そう言って朱子はポツポツと語りだした。
彼女は今まで両親とほとんど一緒に生活しておらず、そのためか怒られたことがなかったそうだ。
何をやっても怒られない、それが怖かった。
誰も自分のことを見てくれていない気がして。
初めて怒ってくれたのが、俺だったと。
「嬉しかったんですよ……。初めてちゃんと見てもらえた、そう思えたんです」
「初めて見てもらえた、ね」
「っ! ち、違いますよ!?」
「え? なにが?」
急に慌て出す朱子。
何か慌てることあったか?
「……、裸とか……」
「……、わかってるよ……」
沈黙が風呂場を支配する。
不快ではない、少しだけこそばゆい、そんな静寂を俺たちは満喫した。
「それじゃ、先に上がるぞ」
「あ、はい、ありがとうございました!」
なにがだ。
俺は苦笑しながら風呂場の戸に手をかける。
そして横目に二つの膨らみを発見してしまった。
「水風船……」
誰だよ……、こんなこと吹き込んだ天才は……。
お読みいただきありがとうございました。
またのご来訪お待ちしております。
スライムでパフパフとかまだわかる人いるのでしょうか。




