【第12話 田舎へ行こう!】
お風呂回です。
「朱子……、やっと部屋から出てくれたんね……」
「お婆ちゃん……ごめんなさい!」
感動的ホームドラマのワンシーンに俺たちは居場所がなかった。
追っかけてくるんじゃなかったかな……。
「ごめんね……、ごめんね……」
「ええんよ、うん、ほら、もう泣かないの……」
こっちも釣られて泣きそうだ……。
とりあえず俺たちの目的は達成できたし、もう帰りたいのだが……。
ホームドラマは玄関で展開されており、出るに出られない。
あとは本拠地含めて2つ落とせば終わりだから早いところ次に行きたいんだけどなぁ。
そして夕方。
ドラマは大長編だったらしい。
俺達はグリがどこからか出してきた紅茶を頂きながら久しぶりの平穏な時間を過ごした。
……、どうしてこうなった。
「お兄さん、ほんとありがとうなぁ。今日は泊まって行きんさい」
「……、ありがとね……」
散々家族劇を見せつけた恥ずかしさからか、朱子はお婆ちゃんの背中に隠れてしまっている。
影から見える耳は真っ赤に染まっている様だった。
「それではお言葉に甘えまして……」
断ったところで電車はもう終わってるし、当然のことながらホテルなんて便利なものは付近にない。
あまり他人の家に泊まるのは好きじゃないが、仕方ないな。
夕食前に3人に言い含める。
普通に1人前しか食べるなと。
……、アルにせびられて2人前までは何とかと言ってしまったが……。
おばあちゃんの手料理は懐かしい味で、久しぶりに「ごはん」を食べたという気になれた。
ここ最近は外食ばっかりだったんだよな。
たまに食べる外食はうまいが、やはり食事はこうでなければ。
うん、うまうま。
「た~んとお食べ」
「ありがとです!!」
「うんまいわぁ!」
……、君たち、それが最後だからね?
3杯目のおかわりを要求するアルとクロノに視線を送ると二人は渋々ながら頷いた。
「「おかわり!!」」
おい。
さっきの頷きは何だったんだ?
わかってたんじゃないのかよ……。
「よくこんなに食べれたねぇ」
「ほんと、一体どこに入ってるのよ……」
お婆ちゃんと朱子が呆れるのは無理もない。
二人は結局米櫃を空にするまで食べ続けたのだから。
それでいて食後のおはぎも食べ尽くすとは……。
うん、なんかごめん……。
でもおはぎもご飯もとてもおいしかった。
そう伝えるとお婆ちゃんはとてもいい笑顔をくれた。
「これだけ食べてもらえると作り甲斐もあるってもんさぁ」
「いつも二人だから全然少ないもんね」
「そう言ってもらえると助かる」
「いんやいんや、何のお礼もできんからの、これくらいはの」
そういってお婆ちゃんが出してくれたお茶には茶柱が立っていた。
茶柱なんて久しぶりに見たな、何かいいことがありそうだ。
そんな予感を胸に俺はお茶を啜った。
そして夕食後、お風呂に入るように言われ風呂場に向かう。
ガラガラガラ……。
脱衣所の引き戸も木製で時代を感じさせてくれる。
実にいい雰囲気だ。
田舎の風呂か、楽しみだな。
カラカラカラ……。
脱衣所の引き戸よりもやや軽めの戸を開くとそこにはある意味伝説であるブツが鎮座していた。
そう、長州風呂である。
「おお……」
これは……これはあのトトロにも出てくる長州風呂ってやつじゃないか!
まさかこいつに入れる日が来るとは……。
子供のころに夢見ていた憧れが今目の前に!
本当にいいことがあったわ、流石茶柱様よ。
蓋に手をかけると二つに分かれていることが分かる。
隣の小さな足し湯用の窯にも二つに分かれた蓋がかぶさっており、その隙間からはその中身の熱さを物語るように湯気が漏れ出してきていた。
蒼いタイルに反射するは白熱電球の仄かな光。
かけ湯をするとタイルの上を滑るお湯と立ち込める湯気が光を揺らめかせ、独特の雰囲気を作ってくれる。
木枠の窓の外からは虫の声も聞こえてくる。
見上げれば目隠しの隙間から見える夜空に月が浮かんでいた。
「ああ……、これは……すばらしい……」
こんないい風呂に入れるなんて、帰らなくてよかった。
本気でそう思う。
むしろずっと、死ぬまでここに泊まり続けたい、そんな思いに駆られる。
もしくは風呂だけ持って帰りたい。
いや、風呂だけじゃだめだな、周囲の環境も含めてこの風呂なのだ。
……、グリに頼んでみるか?
周辺の土地ごと切り取ってもって帰るとか……、悪くないな。
俺は湯を手に掬い妄想に耽る《ふける》。
ガラガラガラ……。
そんな至福の時間が無粋な音で遮られた。
「湯加減どうですか?」
「朱子か? ちょうどいいぞ」
俺はぞんざいに答える。
この至福の時を邪魔しやがって……。
いや、この声掛けもある意味定番であることを考えるとこれもまた一興か。
うん、そう考えると悪くないな。
どこからかシュルシュルと風のこすれる音が聞こえる。
俺は思わず口から声を吐き出す。
「この風呂は最高だな」
「それはよかったです。それでは、失礼しますね」
「お~う」
カラカラカラ……。
風呂場に静寂が訪れる。
ああ、これもまた、定番だなぁ……。
お読みいただきありがとうございました。
五右衛門風呂とか長州風呂って憧れますよね。
一度入ってみたいものです。




