【第11話 君の願いは】
「えっと、悪いやつを懲らしめたり、困っている人を助けたりしたいです!」
俺の質問に彼女はそう答えた。
「魔法を使って?」
「はい! だから教えてほしいんです!」
「……、悪いやつを懲らしめるって、それは暴力じゃないか?」
「で、でも、力が無いと何もできないじゃないですか! それともやられっぱなしでいろっていうんですか!?」
う~ん、薄っぺらいな……。
それにしても、なんて説明しようか。
まぁどうせ中二病で魔法が使いたいってだけだろうし、適当に言いくるめて逃げるとしよう。
一度オカルトの世界に踏み込むと、オカルトがらみのトラブルに巻き込まれやすくなるっぽいしな。
無理に危険に近づく必要はあるまい。
「まずさ、具体的に悪いやつってどういうやつよ?」
「え? それは、その、暴力団とか、暴走族とか……?」
「暴力を使う悪い奴を懲らしめるのに暴力を使うのかい?」
「……、あといじめとか……」
「先生に相談するのが先じゃないかな」
「……」
暴力に反対するって心は良いものだとは思うけど、その手段が暴力じゃ本末転倒だ。
それに、危険に近づくという意味でもある。
彼女を心配するお婆さんのことを考えるととてもじゃないが魔法を教える気にはなれない。
「人助けも、ダメなんですか……?」
「う~ん、それはさ、魔法じゃなきゃダメなのかい?」
「それは……」
「君は健康な体を持っている。その手足で今まで困っている人を助けようとしたことはあったかい?」
「……」
「今まで出来たことをやってこなかったのに、魔法が使えるようになったからってやれるとは思えないな」
「でも……」
「まずは自分ができることをやろうよ、それでも躓くならその時にまた考えればいい」
朱子は俯き手を握り締めて震えている。
悔しいのだろう、悲しいのだろう。
でも安易な方法に手を出しては本人のためにもならない。
これは彼女のためでもあるのだ。
これでいい、そう思っていた俺の耳に思わぬ言葉が飛び込んできた。
「……、白山羊の人たちはそんなこと言わなかったのに……」
「白山羊を知っているのか……?」
「そうよっ! 私、あの人たちに教えてもらうわ!」
「魔法そのものは知っていたんだな」
「ええ、まだ基礎訓練しか教えてくれなくて、あなたに聞けば早いかと思ったけどもういい!」
なるほどね、拠点の主は誰なのかと思っていたが、この子だったのか。
それで、基礎訓練、ね。
「その基礎訓練とやらを見せてくれるか?」
「ふん、別にいいわよ? 減るもんじゃないし」
そういうと朱子は机の上から一枚の羊皮紙を取り出してきた。
中身はよくわからないが何かの魔法陣の様だ。
「みてなさい」
彼女はちゃぶ台の上に広げた羊皮紙に手を載せるとそのまま目を瞑る。
薄らと漏れ出した魔力が羊皮紙に触れると魔法が発動する。
「な!?」
「ふふ! すごいでしょ?」
「ふざけるな!!」
俺は怒鳴ると羊皮紙を切り裂いた。
「は!? 何するのよ!?」
「お前は! お前は今何をやったかわかっているのか!?」
「はぁ!? 言ったでしょ!? 魔法の基礎訓練って! っていうかあんたこそなんてことしてくれんのよ!?」
くそがっ!
そういうことかよ!
何も知らない相手に、なんてことをさせるんだ!!
「っ……。いいか、よく聞け」
「なんであんたの話を聞かなきゃいけないのよ! それよりこれどうすんの!? 直してよ!!」
「……、少し黙れ」
俺は魔力を操作し朱子の動きを封じる。
「んん!? んー!」
「魔法でしゃべれないようにした。途中で遮られても困るからな」
「……」
「お前が基礎訓練と称してやっていたことはな、周囲の人間の生命力を吸収しどこかに転送する魔法だったんだよ……」
何も知らない相手を騙して、その身内の命を削るなんて……。
悪辣にもほどがあるだろうが……。
胸糞悪い……。
「ん!? んー! んー!」
「それで、周囲の人間っていえばこの家だとお婆さんだよな?」
「んん……」
「お前は、お婆さんの生命力を吸い取って誰かに送ってたんだ……」
「……」
「少しは話を聞く気になったか?」
「ん……」
再び魔力を操作し朱子に自由を返す。
「ぷはっ……」
「その魔方陣、どうやって入手したんだ」
「それは……その……、インターネットで魔法を調べてたら白山羊のホームページで無料配布してて……」
「それでもらったと……」
「先着1名様までだったからあわてて申し込んだんだけど……」
考えが足ら無すぎるだろう。
中学生ならこんなものなのかもしれないが……。
それに付け込む白山羊の手口には反吐が出る。
先着1名と言うのもどこまで本当なんだか。
「いつ入手したんだ?」
「先月……」
少しほっとする。
先ほどは慌てて魔法陣を切り裂いたが、直ぐに命を奪いきるほど強力な魔法陣ではない。
1か月程度なら、死ぬことはないだろう。
「でも、本当にそうなの……?」
「最近のお婆さん、体調悪そうじゃなかったか?」
「そういえば……ご飯もってきてくれた時によく咳き込んでたかも……」
「それはいつからだ?」
「……、先月くらいから……。……、本当、なのね……」
漸く理解してくれた様だ。
「お、お婆ちゃん……、行かなきゃ……」
朱子はふらふらと立ち上がり部屋を出て行った。
「とりあえず一安心やな」
「ああ、本当に焦ったぞ……」
魔法が発動したとき、その魔力の波長からあの病院の惨劇を思い出して血が引ける思いをした。
あのような悲劇をもう二度と起こしてはならない。
俺の手は小さいが、それでも手の届く範囲では白山羊の思う様にはさせたりはしない。
俺は決意を新たに朱子の後を追った。
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