【第10話 くっ、右目が疼く……】
まずいです、5章が終わらない……。
「えっぐ……えっぐ……」
「災難だったわね、大丈夫だから、落ち着いて」
「ですです、運が悪かっただけです」
泣く朱雀とそれを慰めるグリ達。
彼女にはグリがどこからともなく取り出したバスタオルが掛けられている。
そして正座をさせられている俺。
俺、悪くないと思うんだけど……。
そんなことを思っているとグリから氷の視線が飛んでくる。
慌てて頭を下げるが……、納得いかねぇ……。
「ちょっと渡、席外してもらえる?」
「え?」
「……、兄さんがおると着替えさせれんやろ?」
「あ、ああ、そうだな。終わったら声かけてくれ」
「うん、向こうでしばらく待ってて」
俺は廊下を元来た方へ戻っていく。
「どうですかな?」
「……、一応うちの子たちが部屋に入れてもらえたのでお話していますよ」
「そうかいそうかい。それはよかったよぅ。あの子、友達もおらんでなぁ」
「そうですか……」
確かにあの中二病全開の感じでは友達もできまい。
きっと数年後には黒歴史となるんだろうな。
お婆さん曰く、少女の名前は雀宮 朱子と言うらしい。
それで朱雀か。
中学校上がったくらいから言動がおかしくなって、ここ1か月は殆ど部屋から出なくなってしまったそうだ。
当然、学校にも通っておらず、お婆さんもどうにかしたかったが変な言動にはぐらかされてどうしようもなかったらしい。
「眼帯かけて右目が疼くとか言ってのぅ……。病院に連れて行こうとしたんじゃが、行ってくれんでどうしようかとおもっとったんじゃ」
完全に中二病です、ありがとうございました。
「うまく打ち解けたら病院に行くよう説得してくれんかの?」
いえ、お嬢さんに必要なのは内科医じゃなくて精神科医です。
放っておけば勝手に治ります。
むしろ放っておいてあげてください。
とはいえ、その事実を説明しても納得してくれないだろう。
どうするかな。
「やはり親が居らんとダメなんかのう……」
彼女の両親はお婆さんに娘を預けて出稼ぎに出ており、年に数回しか戻ってこないらしい。
そんな負い目から、お婆さんも朱子に強く出れなかったそうだ。
その心労の所為か最近は体調もすぐれず、余計に孫娘が心配だったと。
「渡、もう大丈夫よ」
「お、そうか。それじゃお婆さん、また行ってきますよ」
「うむ、頼んだ」
グリの先導で再び廊下を進む。
泣き止んでくれてればいいんだけど。
「入るわよ」
「いいですよー」
部屋に入ると先ほどの腐海が嘘のように片付き、床には畳が見えていた。
30分もたっていないのにあの惨状の痕跡が全くない。
なんという掃除スキル。
いや、ゴミ関係をすべて魔導書の中に吸い込んだのか?
グリさんが万能すぎて怖いです。
「失礼、さっきはすまなかったね?」
ちゃぶ台を挟んで座ると、とりあえず謝っておくことにする。
見ちゃったのは事実だしな。
「い、いえ……、その……」
「うん?」
少女、朱子は俯いたままもじもじしている。
まぁ、裸見られた相手だもんなぁ。
あー、もう、どう話せばいいんだよ……。
「敷紙さん! お願いがあります!!」
「え? あ、うん? 何?」
「私を弟子にしてください!!」
……。
おい、グリよ、君は何を言ったのかね。
「敷紙さん、いえ、師匠は魔法使いなんですよね!?」
「……、え~っと……、何を言っているかわからないんだが、とりあえず俺は君の師匠じゃないぞ?」
「ううん、わかります! 私みたいな一般人には言えないんですよね!?」
「あ、ああ……」
「私も魔法を使えるようになりたいんです!!」
「しかしだな……」
「私、学校やめます! 渡さんについて行かせてください!!」
目をキラキラさせながら体を乗り出しながら言う朱子。
いや、義務教育はやめられないから。
「何でも言うこと聞きますから! お願いします!」
何でも、とな?
「ほぅ……。何でも言うことを聞く、今そういったな?」
俺はニヤリと笑いながら朱子を見つめる。
「っ! は、はい……。覚悟は、出来てます……」
「そうか……」
顔を赤くして手を握り締める朱子の肩に俺は手を乗せた。
朱子は一瞬ビクッとするが諦めたように目を瞑り肩の力を抜く。
「それなら、お願いだ」
「は、はい……」
身を乗り出したままの朱子の耳元に口を寄せると俺は囁く。
「学校に、通ってくれるかな」
これでミッションコンプリートだな。
「……は?」
「うん、やっぱり学生は学校に通わないとね」
呆然とする朱子に背を向けると俺はお婆さんのところへ足を向ける。
お婆さんに報告して終わりだ。
何か忘れている気がするけど気のせい、きっとそうだ。
そんなことを思っていると背中に衝撃を受ける。
あ、懐かしいな。
今回は何だ、ちゃぶ台か?
それにしてはちょっとやわらかいような。
「お願いします! 見捨てないでください!」
違った、朱子が俺に抱き着いて来ていたのだった。
慎ましいながらもそれなりに発達した二つのクッションを背中に受け、俺は考える。
見捨てないで、か。
くそ、さっきのお婆さんの話を聞いた後だと無碍に断れないぞ……。
膨らみに負けたわけじゃないんだからねっ!
「とりあえずその手を放すです」
クロノの手により少女が背中から剥がされる。
途中そこは私専用ですとか言ってた気がするけど、そんなものは無い。
少女へ振り向くとその目には涙が溜まっていた。
ほんとやめてくれよ……。
「あ~、わかったわかった、魔法を教えればいいんだな?」
「っ! はい! お願いします!」
「その前に聞きたいことがある」
「はい、なんでも聞いてください!」
「君は魔法を使って何をしたいんだ?」
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