【第8話 のこりものには】
ローファンタジー部門日間1位になっちゃいました……。
マジですか(汗
「清々しい朝だ」
俺はカーテンを開いてそう呟いた。
部屋には朝日が差し込み、まだ睡眠を欲する体を覚醒させてくれる。
今日も弱者救済。もとい白山羊の拠点潰しを行う予定だ。
そして明日には白山羊の本拠地を落とし、今回の騒動を収束させる。
それで終わり。
後味の悪い終わり方にはしたくないものだ。
そう願わずにはいられない。
「兄さん、今日と明日で終わりなんやな……」
アルが真剣な眼差しで見つめてくる。
こいつも、少しは緊張しているのかな。
「次のウィンナー食べ放題はいつになるんやろうなぁ……」
そっちかよ!!
心配して損した……。
朝食を終えて、チェックアウトを済ますと駅へと歩く。
少し肌寒い空気の中、陽射が心地よい。
スマホで乗り換え案内を検索すると片道2時間と出た。
また次の拠点も遠いなぁ。
昼前には到着できるだろうけど、対応終わるころには1時くらいになってそうだ。
とはいえ、乗り換えなしで一本で行ける。
しかも終点駅だから乗り過ごしも気にしなくてよさそうだ。
「あの、渡さん……」
「ん? なんだ?」
「その、おんぶ、してもらえませんか?」
「おんぶ?」
「はい……。嫌ならいいのですけど……」
クロノにしては珍しいお願いだな。
いつもはこういったお願いはしてこないんだけど。
今日は甘えたい日なのかな。
実年齢を考えるとちょっとあれだけど、精神は体に引かれると前にグリが言ってたし。
まぁしかたないか。
「いいよ、おいで」
背中にクロノを背負うと、何故かグリが右手を、アルが左手をそれぞれ抱きしめてくる。
いったいどうしたというのだろうか。
しかし3人にくっつかれると少し暑いな……。
駅のホームに出ると丁度電車が到着したところだった。
開くボタンを押して扉を開け、乗車する。
4人掛けのボックス席の窓際に座るとクロノが膝の上に乗ってきた。
クロノの髪から、ふわりと甘い香りが漂う。
昨日の苺牛乳の件以降クロノとの距離が近づいた気がする。
いいこと、なんだよな。
グリとアルはそれに対抗してってことか。
だが二人掛けの席に3人座るのはかなり厳しいものがあると思うんだ。
二人とも体が小さいから何とか入るは入るけど、狭いものは狭いんだよなぁ。
少し窮屈な思いをしながら俺は意識を落とした。
「次は終点~、終点~。お忘れ物のないようにご注意ください~」
「ふぁふ……、到着か……うお!?」
「ん……、着いた、です……?」
「お、おぅ、着いたし、付いてるな……」
俺のジャケットは3方向からの涎でべとべとになっていた。
なんてことだ……。
着替えを買う店もない。
シミを付けたまま歩くわけにもいかず、俺はジャケットを手に持つことにした。
結果一人があぶれるわけだが、もうこればかりは仕方ないと諦めるほかなかった。
「交代でね」
「順番やー」
まぁ、背中はクロノ専用っぽいけど。
のどかな畦道を歩いて行くと遠くに漆喰の壁で囲まれた屋敷が見えてくる。
あれが次の目的地か。
ずいぶんと大きな屋敷だ。
白山羊の構成員は生活に困窮していると聞いていたが、遠目で見る限りは生活に困っているようには思えない。
「立派なもんだな」
屋敷の門を見つめながら俺はそう呟く。
だがよくよく見ると漆喰は一部はがれており、瓦も一部欠けていた。
生活に余裕がないのは事実の様だ。
「おや、お客さんかね?」
門を見つめる俺の背後から声をかけられた。
まさか背後を取られるとは。
これは不味いと俺は慌てて振り向き態勢を取る。
が、そこには朗らかにほほ笑む人のよさそうなお婆さんがいただけだった。
自然な佇まい、しかしよく視ると魔力的な反応がある。
やはり白山羊の構成員なのか。
今までが余裕すぎた所為か、油断していたようだ……。
多少のことはどうにでもなる、そう考えていたかもしれない。
慢心、ダメ、絶対。
「こんなところで立ち話も何じゃけぇ、まぁ入りんさい。お茶くらいだすけぇ」
「あ、いえ、おかまいなく……」
「若いもんが遠慮するこったね。さぁさぁ入った入った」
お婆さんは話し相手に飢えていたらしく、そのまま1時間も捕まってしまった。
う、うん、友好的なのはいいんだけどね。
ちょっと話長すぎませんかねぇ……。
「ほんでなぁ、うちの孫娘が部屋から出てこんのや……」
「それは、大変ですね……」
「良いところもあるんよ? なんといってもパソコンの大先生じゃけぇな!」
「は、はぁ……」
「インターネットって言ってな? 家に居てもいろんなものが買えるんよ。すごいじゃろ?」
「そ、そうですね。ははっ……」
パソコンの大先生でインターネットで買い物してるってただの引きニートじゃないか。
親の欲目と言うやつだろうか、現実が見えていないらしい。
まぁ、親ではなく祖母なわけだが。
「器量もええし、部屋から出てきてくれさえすれば文句なしなんじゃけどなぁ。もう長いことほとんど部屋から出てこんでなぁ」
「大変ですね……」
「なぁお兄さん、ものは相談なんじゃけど、孫娘を部屋から出てこさせてくれんやろか」
「そうは言われましても……」
「出せたら嫁にやるで! 兄さんみたいなしっかりした人なら任せられるけえ!」
器量よしと言われてもな、孫の可愛さは祖父母にしか通用しないんだぜ。
それに何年も引きこもってるとか地雷でしかないだろ。
現実、見ようよ。
お読みいただきありがとうございました。
何とか書き溜め作って日刊維持できるように頑張ります。




