【第5話 ウィークポイント】
「ごめんくださ~い」
爺さんから協力を取り付けた日の夕方。
駅前にある古本屋の前に俺達は来ていた。
右を見ても左を見ても畑しかないその店は、一体誰が客として入っているのか。
電車は1時間に1本有るか無いか位で終電は夜の8時だ。
車両は1両編成。
そういえば一両でも編成っていうのかね。
――閑話休題
「はいはい、いらっしゃい。おや、兄ちゃんこの辺の人じゃないね? こんな田舎まで来て古本漁りかい?」
「おんやぁ、珍しいこともあるもんだぁ」
人のよさそうなお爺さん達が古本屋の隣から出てくる。
どうやら畑仕事をしていたようだ。
二人とも痩せ細っており、特に片方の爺さんは肌も真っ黒で苦労がにじみ出ている。
こんな人が俺たちを襲ってきたのか……。
少し陰鬱な気分になる。
「敷紙渡と申します。白山羊の方ですね?」
「ほぅ?」
「動かないでください。魔法の発動は敵対行動と見なします。この周囲は既に結界と障壁で覆っています」
「ふむ、敵襲ってことかいのぅ?」
比較的肌の白いお爺さんがそう聞いてくる。
いまいち緊張感がない、状況を理解できていないのだろうか。
「……、何が目的だ……。大したものは無いぞ」
「目的も何も、私たちは白山羊、あなた方から襲撃されたんですがね?」
色黒のお爺さんは視線を鋭くするが、俺はそれを無視し手元にバールを生成する。
襲っておいて被害者面はしないで欲しいな。
腹が立ってくる。
「その報復ということか……。だが、ただではやられんぞ!!」
「年寄と思ってなめたらいかんよ?」
そういうとお爺さん達は魔法を発動しようとした。
お爺さんの掌に魔力が収束する。
が、発動を目前にして魔力は散って行った。
「なぜだ!?」
「言ったはずです。この店の周囲は結界で覆っていると。魔法は使えませんよ」
「しかしお前は使っていたではないか! 自分だけ対象から外すなどできるはずがない!」
あれ? 出来ないのか?
割と普通にやっていたけど。
「そうは言われましてもね。これが現実ですよ」
「くそっ!!」
色黒のお爺さんはそう言って手近にあった踏み台を投げつけようとして
「アガッ……」
投げれなかった。
「うう……」
「鈴木さん! 大丈夫かいの!」
「た、田中さん……こ、腰が……」
「よ、よくも鈴木さんを……」
鈴木と田中っていうのね。
というか、俺何もやってなくね。
勝手に自爆しただけじゃん……。
「わかった……お前さんの言うことを聞こう……。その代り、この場は見逃してくれんかのう……」
「いえ……。とりあえず救急車を呼びましょうか」
「……、そうしてくれると助かるのぅ……」
全治2週間。
それが医者の回答だった。
なんで俺付き添ってるんだろう……。
「入院できるような金は無い……」
病院の白いベッドの上で鈴木さんは悲しげに呟いた。
うん、知ってた。
「渡……」
グリが俺の服の袖を引っ張る。
「すまん……」
はぁ……。
もう関わってしまったもんな。
仕方ないか。
「入院費用に関しては私が持ちますので心配する必要はありません」
「しかし、そこまでしてもらうわけには……」
渋る鈴木さんにそっと耳打ちをする。
「ただとは言いませんよ、その代わりにお願いしたいことがあります」
「仲間は売れんぞ……」
「いえ、簡単なことですよ。私達に敵対しないで欲しいのです。そうすれば生活は保障しましょう」
「……」
布団を握り締めて何かを考えているようだが、選択肢はないと思うんだけどな。
入院するお金すらなく、戦力も微々たるもの。
そんな状態では戦場に立つことすらできまい。
「私は平穏な生活を手に入れて、あなた方も生活が保障される。悪い取引ではないと思いますが?」
「足元を見よってからに……」
「人を襲っておいてその言いぐさは無いんじゃないんですかね」
「それは……他の連中が勝手にやったことだ。俺は反対したんだ……」
「そうだのぅ、子供に手を出すのは外道のやることよ」
ふむ、白山羊は一枚岩ではないということか。
これはいい情報を拾った。
「キレイ」になったおっさんたちは組織はまとまっていると言っていたが、実はそうではないと。
「なるほど、鈴木さんたちは関係ないと?」
「そうだ」
「ならもっと簡単じゃないですか。元々敵対していないというのであれば、それを維持するだけですよ」
俺は悪魔のささやきを続ける。
一度こちらの言うことを聞かしてしまえば後はどうにでもなるからな。
「……、他の連中は知らんぞ?」
「ええ、大丈夫ですよ。他の方々とも個別にお話しして回りますので」
「……」
「情報の流出は無しですよ?」
「わかっとる……」
ふう、これで2つ目の拠点も陥落っと。
この調子なら本拠地以外の後2つは明日には攻略できそうかな。
「着替え買ってきましたですよー」
「あとお菓子もな!」
「クロノ、ありがとう。そしてアル、お前の来月の小遣いは無しだ!」
「なんでやっ!?」
そんな会話をしていると温かいまなざしを感じる。
入口を見ると看護婦さんがこちらを見ていた。
「お孫さんたちですか? にぎやかでいいですね」
「あ、ああ……」
難しい顔をしていたはずの鈴木さんがいつの間にか微笑んでいたことに気が付く。
子供の笑顔は最強の武器だ。
俺は改めてそう思った。
お読みいただきありがとうございました。
また読んでいただけると幸いです。




