【第4話 身を砕き骨が粉になるまで】
おっさんたち曰く、白山羊の拠点は本拠地を含めて5つ。
五芒星を意識した配置にしているそうだ。
拠点と言ってもメンバーの家や、経営している商店をそのまま流用しているのでぱっと見ではそうと分からないらしい。
確かに、ここの拠点も普通の古物屋だったしな。
うまい具合にカモフラージュしてるってことか。
また、本拠地以外の各拠点には2~3人の魔法使いが配置されているらしい。
その実力はおっさんたちよりは上ではあるものの、何十倍もの力を持っているわけでもない。
残りの拠点は4つ。
正面からぶつかれば今の俺たちならリスクを冒すことなく打ち破ることが出来るだろう。
もっとも、その後ろにいる連中が何もしていなければの話だが。
しかし俺たちは今、大きな壁にぶち当たっていた。
まさかこんなことになるなんて……。
もっと慎重に行動するべきだった。
後悔先に立たずである。
「旦那様、我々は何をすればよろしいでしょうか」
「我々、ご主人様が望まれるのでしたらこの首差し出しましょう」
「全ては主様の為に」
……、「キレイ」になったおっさんたち、どうしよう……。
「とりあえず、今までの生活を維持しといて……」
「はっ、承りました。今までと同様、古物屋の収入で細々と暮させていただきます」
「いやまて、もうモヤシの在庫は無いぞ。それに明日にでも電気とガスが止まるはずだ」
「貴様、支配者様の命に逆らうというのか!」
「それが出来ないからどうするかといっているのだ!」
「うるさい! それでもどうにかするのだ!」
こいつらどんだけ貧乏やねん……。
聞けば、彼らは明日のコメにも事欠くあり様だったようだ。
そしてその極貧生活の中でオカルトに傾倒していったと。
魔法で世界を変えれば、この生活から抜け出せる。
そう信じて自らの命をチップとした掛けに出た。
彼らの仲間も同様で、食い詰めたが故の狂信ということだった。
拠点もカモフラージュしていたのではなく、単純に新たに拠点を作るだけのお金がなかったと。
世知辛いなぁ……。
う~ん……。
誰にでも手を差し伸べるべきではないとは思うんだけど、一度かかわった相手を敵だったとはいえ見捨てるのは後味が悪いよなぁ……。
「なぁ、グリ……」
「仕方ないわね……」
屋敷に男一人に少女や幼女だけっていうのは万が一の時、いろいろと危ないしな。
あの大きさの屋敷で使用人が一人もいないっていうのも不自然だし。
よっし、自己弁護終了っと。
「あー、やっぱ今のなし。君たちにはとりあえず俺の屋敷の管理をお願いしよう。とりあえずこの住所に行ってくれ」
俺はメモ帳に屋敷の住所を書きだすとおっさんたちに渡す。
「承りました。こちらの住所ですと……そうですね、半年以内にはたどり着けるかと」
「グリ! こいつらに旅費渡してやれ!!」
「はいはい。これ、どうぞ」
グリはわかってましたよ。といった表情で財布から紙幣を取り出しておっさんたちに渡す。
ちらっと見たらギリギリではあるものの、何とか最寄りの駅までは行けそうな金額だった。
「……、その金があればワッフルがいくつ買えるんやろか……」
アル……。
流石にその金に手を出すなよ?と視線で牽制する。
「おお……、我々の為に斯様な計らいまで……、我ら粉骨砕身お仕えさせていただきます!!」
感動するおっさんたちを横目に俺はため息を吐く。
高等遊民生活を守るために動いたはずなのにどうしてこうなった……。
おっさんたちと別れると、俺たちは一度爺さんのところへ戻ることにした。
食い詰めている連中を放置すればまた狂信者に戻りかねない。
一度足を踏み入れた世界の扉は簡単に再び開くからな。
雑草は根っこから処分しないとまた生えてきてしまう。
次の日の朝、爺さんの病院に向かう。
気持ちよく晴れた青空に今日も桜の花びらが舞う。
「そんなわけで、爺さん、どうすればいいと思う?」
「頼ってくれるのは嬉しいんじゃが、少しは自分でどうにかしようとは思わんのか……」
「おじいちゃん以外に頼れる人はいないんだよ……」
「む、そうかそうか、それならしかたないのぅ! 味方を増やすのも大切なことじゃ、頑張るのじゃぞ!」
爺さんは喜んで協力してくれると言ってくれた。
とりあえず今後、白山羊のメンバーが困窮する様な事にはならないで済みそうだ。
爺さんの協力を取り付けた後、次の白山羊の拠点へ向かう。
本拠地は最後に回す予定だ。
弱いところから各個撃破は基本だしな。
なお、キレイにするのはグリに任せた。
これ以上人を抱えると財政はともかく俺が落ち着かない。
昔は屋敷に使用人が何十人も詰めていたらしいが俺には不要だ。
クロノは手加減が効かないし、アルは……何か面白そうとかいう理由でやらかしかねないしね。
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