【第3話 月が照らすは】
風が運んできた桜の花びらが満月を横切る。
俺たちの足音が静かな夜に響いた。
昨夜と同じ月が照らす道を、同じ並びで歩く。
不自然なほどに何も変わらないその道は、これから先の惨劇から目を背けている様だった。
間もなく到着するが状況次第では戦闘になるだろう。
呼吸は若干乱れ、手に汗を握る。
緊張していることを自覚すると、その自覚が心拍数をさらに上げる。
「わっ!!」
「!?!?!?!?!?!?! アアアアアル!?!? なななななんばしとっとよ!?!?」
「ぶはははは!! 兄さん面白いなぁ!」
「面白いじゃなか! こげなことなんでしとっと!?」
「いやー、兄さんがめっちゃ緊張しとったから解そうと思ってなー」
「うっ……、そんなに緊張しているように見えたか?」
「せやなぁ、とりあえず背中、汗すごいで?」
「あまり気を張らない方が良いですよー」
「……ありがとな」
「兄さん顔真っ赤やでー?」
アルはニヤニヤしながら懐中電灯を俺に向けて点滅させる。
眩しいからやめてほしい……。
しかしおかげで少し気が楽になった。
よっし、気合入れていくぞ。
「……、1日経っても動きは無しか」
「おかしいわね。もしかしておとりだったとか?」
「爺さんがガセネタをつかまされるとは考え辛いんだがな」
とはいえ、このまま放置するわけにもいかない。
俺は腹をくくるとグリ達に魔法を解除するように指示を出した。
もちろん、カウンターに備えて自分たちの周りには障壁と結界を展開して。
「……」
しかし何も起こらない。
う~ん、おかしいな。
「っ! 兄さん! グリ! クロノ! 障壁から出ちゃあかんで!」
「どうした!?」
空気が弛緩しようとしたとき、アルが声をあげる。
やはり罠だったか。
そう思った俺にアルはつづける。
「こりゃやばいで……」
「アル、何があったか説明してくれ」
「……、うちの口からは言えんわ……」
は……?
「う……、ちょっとこれは……」
「ひどいです……」
え、なに、俺だけわからない何か魔力的なものなのか?
「渡、あれ……」
グリが建物の奥を指さす。
う~ん……、よく見えない……。
少しずつ暗闇に目が慣れてきて奥が見えてくる。
「うっ……」
そこには口にするのをはばかられるような惨状が広がっていた。
彼らは結界で耐えるどころか抵抗すらできなかったようだ。
3人のおっさんは無抵抗の状態で丸1日悪夢を見続け……いや、これ以上描写するのはやめよう……。
「なるほど……障壁が悪臭から俺たちを遠ざけてくれているということだな?」
「そういうことや……」
アルの障壁は万能だな。
これならシュールストレミングを相手にしても大丈夫そうだ。
絶対買わんが。
「とはいえ、このまま放置するわけにもいかないか……グリ」
「い、いやよ!? こんなの私の中に収めるとか絶対いや!!」
ですよねー。
「アル?」
「お断りやで(にっこり)」
まぁそうだよな。
「仕方ないな、とりあえず水魔法で洗浄して風魔法で悪臭を散らすか」
「……、なんで私に聞かないです?」
いやー、流石に幼女にこれをどうにかさせるっていうのは良心が、ね?
さて、キレイキレイしましょうねーっと。
「グリ、頼むぞ」
「……わかったわよ、中に収める必要はあるわけだし……」
キレイキレイと言うか、空中に浮いたおっさんたちは巨大な水玉に包まれドラム式洗濯機の如く撹拌される。
あ、汚物が増えた……。
見なかったことにしよう、そうしよう。
キレイになった彼らはグリに収納されようとして
「待つです! 彼らは私がやりますです! 今回私何もしてないのです、役に立ちたいのです!」
クロノから待ったがかかった。
何もしてないってアルは防臭をしただけだし、グリは洗濯機だぞ……?
しかしまぁそういうことならとクロノに任せることにする。
「さあ、しまっちゃおうねぇ」
「何だそれ?」
「なんとなく言いたくなったのです」
さてと、これでとりあえず5人ほど捕まえたわけだがまだまだ仲間はいそうだしなぁ。
どうするか。
「それで、これからどうするの?」
「それが迷いどころなんだよな。爺さんから聞いた奴らの拠点はここだけだったし」
「それなら本人たちに聞いてみれば?」
「狂信者がそんな簡単に口を割るとは思えないが」
信念の為に自らの命を差し出す輩。
信じるものに泥を塗る行為は比喩ではなく、本当に死んでも口を割らないだろう。
だからこそ狂信者なのだ。
だからこそ危険なのだ。
「大丈夫ですよ、彼らはキレイになりましたです」
「は……?」
「キレイな彼らは何でも答えてくれるですよー」
……、深いことは考えちゃいけない。
深淵を覗く時、深淵も貴方を覗いているのだから……。
お読みいただきありがとうございました。
また時間を割いていただけると幸いです。




