【第10話 誰が誰を守るのか】
急にブックマとか伸びたおかげで何とローファンタジー日間19位、ローファンタジー週間50位に入りました。
PVも1日3000以上と以前の10倍に(汗
これも皆様のおかげです。
ありがとうございますです。
「おお渡、心配かけたな?」
病室に入ると、爺さんが手を振ってくる。
「無事でよかったよ」
「ふむ、無事と言えば無事じゃがな?」
「なんだよ、調子悪いなら言ってくれよ」
「体はこの通りぴんぴんしとるよ。それで、そこの御嬢さん方はどちら様かな?」
その言葉に緊張が走る。
「……爺さんは、どこまで知っているんだ?」
「ふむ、そうだな、ほぼすべて。と言っておこうか」
「なっ!!」
「何を驚くことがある? 儂は渡のおじいちゃんだぞ?」
「それは、そうだけど……」
どういうことだ。
本当に全部知っているのか?
「じゃあこの子たちが魔導書っていうことも知っているのか」
「おお、そうなのか」
いきなりの掌返しにこけそうになるが何とか耐える。
「すべて知ってるんじゃなかったのかよ!?」
「ふぉっふぉっふぉ、あくまで「ほぼ」じゃからのぅ」
大丈夫かよ……、いきなり不安になってきたぞ。
冗談を言っているだけで何も知らないってこともあり得るかもしれない。
「なるほどのぅ。グリモワール、アルベール、ネクロノミコン、この3冊と言ったところかの?」
「……知っているのか」
笑ってはいるが眼光が鋭い。
視線が刺さった3人は固まってしまっている。
さっきのはただの冗談だったのか。
「ほぼ、の? ふむ、そこのお嬢ちゃんは以前電話で話したことがあったかの?」
「は、はいっ! 直接会うのは初めてですが、よろしくお願いします!!」
「渡を頼むぞ? 普段飄々としている割に、存外脆いところがあるからの」
「はい、大丈夫です。私が渡を守りますから!」
「んむんむ。問題なさそうじゃな」
なにこれ。
外堀が埋められていってる感が半端ないんですが。
逃げていいでしょうか。
と思ったが両脇がアルとクロノに固められていた。
「ふむ、ライバルは手ごわそうじゃな?」
「ふふ、負けませんよ」
「どうやろなぁ?」
「新参者だからって舐められたら困りますです」
アーアー、聞こえない聞こえない……。
「で、なんでこうなったかいい加減教えてくれよ」
「んむ……。そうだな、どこから話したものか……」
儂も聞いた話ではあるのだがと前置きして爺さんは語りだした。
曰く、事の始まりは爺さんの父、曾爺さんがオカルトに影響されたことから始まったらしい。
当初はただの物好きで贋作、偽物を蒐集し楽しんでいたのだが、偶然本物を手に入れてしまったそうだ。
魔導書、アルベールだ。
彼は狂喜乱舞した。
オカルトに傾注しながら心のどこかでは否定していたものが、本当にあったのだから。
本物の魔導書を手に入れ喜んだ彼は、しかしすぐさま恐怖のどん底へ落とされることとなる。
アルベールに収められていた4種類の魔法。
その中の一つ未来視によって。
この魔法が見せる未来は起こり得る可能性の最も高い未来だ。
彼は世界の滅亡を見た。
魔法が世界を支配し、改変し続ける未来。
彼は決意する。
自分の愛するオカルトに世界が滅ぼされないよう、世界の守護者になると。
しかし本物を手に入れたことを誰かに気が付かれたら自分の実が危険にさらされる。
その程度のことがわかるくらいには彼は冷静さも持っていた。
未来視の力を慎重に使い、彼は未来を変えるべく動き出す。
彼はまずは家を発展させ、力を持たせた。
その家の陰に隠れ、自分が行動しやすいように。
最も、これはあまり成功していなかったようだったが。
次に彼は魔導書を求めた。
魔法を悪用する者たちの手に落ちないように魔導書を集め、屋敷に保護した。
それがグリモワールとネクロノミコンだった。
他にも手を打っていたらしいが、今となってはわからない。
爺さんは残念そうにそう言った。
「ここからはわしの話になるのじゃが」
冗談としか思えない内容に俺は動揺しつつ話を聞く。
「オカルトはオカルトのまま、過去の遺物として書物の中だけの存在になって欲しかった。儂はそう思っておったのじゃ。しかしそうは思わぬ連中もおってな」
「それとここ最近のごたごたが関係しているのか?」
「うむ、その連中が動く兆候をつかんでの。それでお前にあの屋敷を譲ったのじゃ」
「どういうことだよ?」
オカルト集団が動き出したことと俺に屋敷を譲ることがどうつながるんだ。
屋敷に防護結界みたいなのが張られているわけでもなかったし。
むしろ人の目がない分、危険なのではなかろうか。
「お前には魔導書の所有者になる権利がある。なんせあの父親の曾孫じゃからな。それだけで連中の標的となる可能性は高かった」
「話がつながらないんだけど……」
「お前があの屋敷に向かえばきっと魔導書の所有者となり、魔導書がお前を守ってくれると思っての」
「かなり危ない目にもあったんだけどな」
グリにはめられたり、迷宮で死にかけたりしたことを思い出す。
クロノの件は、もう既に狙われてたみたいだからノーカウントか。
「それでも大丈夫じゃったじゃろ? そういう運命なのじゃよ」
「もしダメだったらどうするんだよ」
「その時はその時じゃな、そういう運命じゃった。そういうことじゃ」
「行き当たりばったりかよ!」
俺の心配をしてくれてるのかしていないのかどっちなんだ。
獅子は我が子を千尋の谷に落とすとでも言いたいのか?
それを実際にやると全滅するだろ。
「どちらにせよ、力がなければ同じことよ。廃人にされて連中の言いなりになるよりかは死んだ方がましじゃろうが」
「そこまでするのか……?」
「奴らは狂信者じゃからな。目的のためには手段は選ばんよ」
自分の存在をかけてまでクロノを奪おうとした連中だ。
確かにそうかもしれない。
背筋に冷たいものが走る。
「さて、ここまで聞いて渡、お前はどうする?」
「どうするって……」
「相手さんはお前さんの事情は関係なしにこれからもちょっかいをかけてくるじゃろう」
「迷惑な話だな」
「今のお前には十分な力がある。火の粉から逃げるもよし、己の手で振り払うもよし。お前次第じゃ」
「それは……」
「すまぬな。本当ならお前にはこちらの世界とは関係ない人生を歩んでもらいたかったのじゃが……。偏に儂の力不足じゃよ」
「おかげでグリ達に会えた。むしろ俺は感謝しているよ」
「……、奴らに対抗するには同じ所に落ちるしかない。出来ることなら儂の手で決着をつけたかった……」
そういうと爺さんは俯いてしまった。
そうか、爺さんも今まで戦ってきたんだな……。
俺だけが逃げるわけにもいくまい。
「奴らのことを教えてくれ。攻められるだけと言うのは性に合わない。逆にこちらから攻めて潰してやる」
さぁ、逆撃の時間だ。
好き放題してくれたツケを払ってもらおうか。
第四章 完
少し区切りが悪いのですがこれにて四章完結となります。
閑話を挟んでから最終章に入ります。
あと少し、お付き合い願えたらと思います。




