【第9話 ぽっぽっぽ】
翌朝、父からの電話で俺たちは起こされた。
病院でトラブルがあり、爺さんは自衛隊病院に転院したとのことだった。
「まぁそうだよな」
父は詳しい話はしなかったが少し狼狽している様子だった。
恐らく父も今朝その話を急に聞かされたのだろう。
家族に承諾もなく勝手に転院させられてしまったと言うことは何かとんでもない事態が発生したと容易に予想できる。
それも一般開放されていない自衛隊病院に、だ。
さらには家族すら面会謝絶と言うおまけつき。
一応予定では明日以降面会可能になるとのことだったが。
俺たちはホテルの朝食バイキングに向かいながら今後の予定を考える。
「う~ん、まさか面会謝絶になるとはな」
「まぁ考えても仕方ないで、せっかく都会に来たんやし観光しようや」
アルは楽しそうに言うが、うちの大蔵省がなんというか。
まだ定期収入無いんだよね。
もう少ししたら爺さんが家作をくれるって話だったんだが、今回の件でどうなることやら。
うちも食い扶持増えたからなぁ……。
「そうね、渡も引きこもりがちだし、たまにはいいと思うわ」
「あ、私浅草寺ってところに行って見たいです!」
おや、意外なことにGOが出た。
そしてクロノ。君、渋い趣味してるね。
「それじゃ、今日ははとバスにのって東京観光と行こうか」
「「「さんせー!」」」
バイキング会場に着くと端っこの方の席に座る。
一人の時は出来るだけ料理に近いところに陣取るのだが、この面子だと注目を集めやすいからな。
人に見られながらの飯なんて落ち着かないし。
そこそこのクラスのホテルを選んだおかげで席には十分余裕があり、他の宿泊客とはそれなりに距離を取ることが出来た。
料理も和食と洋食の両方が用意されており、オムレツはシェフが注文ごとに焼いてくれていた。
俺はチーズオムレツとハムオムレツの2種類を頼んだが、正直なところ家でグリが焼いてくれるオムレツの方がおいしかった。
グリ曰く生クリームが入っていないかららしい。
食後のコーヒーを飲みながら新聞を広げると、トップ記事に病院のことが書かれてあった。
「なになに……、まじか……」
「うん? どうしたの?」
「ああ、ここの記事だ」
「ふんふん……、え……」
その記事の見出しには原因不明の患者の大量死と書かれてあった。
また、記事を読み進めると行方不明者も発生しているらしい。
布団の中に服が残ったまま、まるで体が消滅してしまったかの様に。
「魔力を抜かれたことに耐えられなかった人がいたってことかしら……」
「そうかもです……」
「くそっ……」
俺の行動がもう少し早ければ、もしくは敵の存在にもう少し早く気が付いていれば。
そう思わずにはいられない。
俯く俺の手に暖かいものが触れた。
顔を向けると俺の手をグリが握っている。
「渡、人の手は2つしかないのよ? その手でつかめるものには限界があるわ」
「グリ……」
「全てを掴むなんて無理だから、選ばなきゃいけないわ。何を掴んで、何を手放すのか。出来れば私たちを選んでほしいけどね」
「……」
確かにその通りだ。
何でもかんでも救えると思うのは、傲慢というものだろう。
グリにはいつも気づかされる。
ありがとな、グリ。
「でも渡さんは魔力で手をたくさん作れますけどね!」
そしてクロノ、君は感動を台無しにしなきゃ気が済まない病気にでもかかっているのか。
グリさん、やっておしまい。
「クーローノー……」
「ひひゃひひひゃい……」
グリとクロノと談笑をしている中、アルが妙に静かだと思って視線を向けると皿に山と積んだウィンナーと格闘していた。
「ハグハグハグハグ……」
どんだけ好きなんだ、ウィンナー。
後で聞くと屋敷では一人4本までとグリに言われているらしく、食べ放題と言うので必死に食いだめをしていたらしい。
元々極貧生活をしていたこともあるから気持ちはわからないでもないが……、流石に少し恥ずかしいぞ。
まるでうちが貧乏みたいじゃないか。
一応巨大な屋敷を持っていて家作だってもらえる予定なんだからな。
一度身に染みたものはなかなか落ちないだろうが、貧乏性が早く治るといいなぁ……。
はとバスでの観光は充実したものになった。
車酔いをしないか心配だったが大丈夫なようだ。
途中3人娘がはぐれてしまい焦ったが、無事保護できてよかった。
保護者とての自覚が足りていなかったのかもしれない。
彼女たちから目を離した一瞬のことだったからな。
「渡、しっかりついてこないと駄目じゃない」
「せやで、物珍しいからってガイドさんから離れすぎや」
「ですです」
……、決して俺がはぐれたのではない。
「あ、今日の晩御飯は鰻にしようか」
「う~ん、ちょっと高くない?」
「安心しろ、俺が出すから」
「「ウナギっ!!」」
そして誤魔化したわけでもない。
さよなら、今月の小遣い……。
ウナギは涙の味がした。
「テレビでしか見たことなかったけどうまいもんやな!」
「これが鰻……、うん、美味しいわ」
「おいしいです、感動です!」
……、もっといろんなものを、美味いものを食わしてやろう。
俺はそう思った。
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