【第6話 結界】
「あれ……? っ! 結界展開! アルは障壁展開して! 渡さん! グリ! 警戒してください!!」
「え? なに?」
「すみません! 気付くの遅れました! 精神干渉を受けてます!!」
「な!?」
クロノが結界を展開すると心が静まっていくことを感じる。
精神干渉か、そんな魔法もあるのか?
いやまて、俺は今何を考えていた……?
俺はじっと自分の掌を見る。
「俺は……」
グリの首を……。
「大丈夫よ、渡」
グリが俺の頬を掌で包む。
自分中に淀んでいた澱が流されていくように感じる。
「ありがとう、少しボーっとしてた」
「ううん、もっと私に頼っていいのよ?」
「ぬかせ。それで一体いつから受けていたんだ?」
「たぶんエレベーターを降りたくらいからやな」
「驚いた隙を狙い打たれたみたいです……」
ああ、言われてみるとあのあたりから感情の起伏が激しくなっていたような気がする。
それにあの時は気が付かなかったがエレベーターホール周辺に誰も居ないなんてありえない。
なんせ正面にはナースステーションがあるのだから。
つまり、ここはもう敵の手の内と言うことだ。
「「パチパチパチパチ」」
「誰だ!?」
俺は病室の入り口を振り返る。
双子の警備員がニタニタと笑いながら拍手をしている。
ターミナル駅で職質してきた警官たちと同じ顔をした警備員が。
ああ、そうか、俺たちの行動はかなり早い段階からつかまれていたのか。
敵がいる、そう思ってみるとここまでの疑問が氷解する。
電車を降りるときに人が邪魔で降りれなかった。
道を尋ねられて電車に乗り遅れた。
そしてターミナル駅では職質を受けて電車を一本遅らせた。
「いやいや、すごいですねぇ」
「まさかこんなにあっさり対抗されるとは思いませんでしたよ、流石は魔導書の所有者と言ったところでしょうか」
「……」
こいつらが敵なのか。
ここにいるのはこいつらだけか?
他に敵が潜んでいるのか、病室の中からだとわからない。
「そんな目でにらみつけられると怖いんですけどねぇ」
「こちらは交渉がしたいのですよ」
「いきなり攻撃を仕掛けてきて交渉も何もないんじゃないか」
爺さんが無防備でベッドに横になっている以上、あまり手荒なことはしたくないが。
それにこいつらが爺さんの魂を奪ったとなると人質を取られているようなものだ。
下手なことは出来ない。
「はっはっは、ちょっとした挨拶みたいなものですよ」
「場を暖めようと思いましてねぇ」
「それで、お前たちの目的は何だ。こちらは悠長に話をするつもりなんてないぞ」
こいつらのペースで話させると危ない、そんな予感がする。
話の主導権をこちらに持ってこなければ。
「それは残念」
「ちょっとしたパーティーにお嬢様方をご招待させていただきたくてねぇ」
「参加する必要はないな」
「そうおっしゃらずに」
「ちょっとした粗品、そうですね、そこのおじいさんの魂なんかも用意されておりますので是非に」
こちらに拒否権はないってことか。
狙いは魔導書、そういうことなんだろうな。
「……、なら俺だけ参加しよう」
「いえいえ、お嬢様方だけご参加いただければいいんですけどね?」
「敷紙さんは帰っていただいて結構なんですけどねぇ」
「子供に任せっぱなしと言うのは保護者としてどうかと思うと少し前に言われたばかりだからな。良いだろう、参加しよう。会場はどこだ、さっさとつれて行け」
「これは一本取られましたねぇ」
「ふふふ……皆様ご招待……」
警備員がそういうと視界が揺らめき、世界が赤色に染まっていく。
揺らめきが収まった時、すでに警備員はいなくなっていた。
「これは……」
「ここがパーティー会場ってことなんでしょうね」
「また空間魔法かいな……、範囲はたぶん病院の建物全体ってとこやな」
「みなさん、私の結界から出ないでくださいね」
クロノが緊張した声で告げる。
「この空間、空間内にいる人たちから魔力を吸い上げる類の結界が張られているみたいです」
会場全体がトラップとかいかしてんな。
歓迎され過ぎて涙が出てくる。
「すぐさま全ての魔力が吸い上げられるほどではありませんが、普通の人間では1~2時間も中にいると消滅してしまうかもです」
「普通の人間が1~2時間なら、俺だとどれくらいもつ?」
「たぶんですけど2~3日は大丈夫じゃないかと、ただおじいさんは無防備なので30分持たないかも……」
病院内に誰も居なかったのは不幸中の幸いだな。
2~3日以内にこの結界を解除、もしくは張った奴を倒せばいいんだな。
「しかしそうなると爺さんがここにいる以上クロノはここから離れられないか」
「すみません……」
「いや、俺たちだけでも動けるだけましだ」
「建物内に結界の起点となる何かがいくつかあるはずです。それを破壊すれば結界が弱まります。がんばってください!」
「近くに行けば大体の位置はわかるわ」
「わかった。グリ、アル、行くぞ!」
「うん!」
「あいよっ!」
勢いよく部屋を出てきたものの、さて、どこに行くか。
とりあえず建物の中央と端を確認するか?
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