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その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~  作者: すぴか
【第4章】まどうしょかくしてロリかくさず
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【第3話 俺俺、俺だけど】

 屋敷で鳴り響いたベルの音に、グリはあわてて電話の元へ走る。

 この屋敷の電話機は昔懐かしい黒電話。

 録音機能なんてないし、当然不在着信があっても誰から掛かってきたかなんてわからない。

 電話を取れなければそれまでなのだ。


「もしもし、敷紙です」


 遠くで電話の応対をする声がきこえる、何とか間に合ったようだ。

 それにしてもあれだけ全力ダッシュしてて慌てた風もなく電話対応できるってすごいな。

 流石魔導書。

 関係ないか。

 さてと、俺に要件だろうし行かなきゃな。

 俺はグリに続いて行った。


「え……? は、はい、わかりました。少々お待ちください」

「どうした?」

「渡のお父さんって方から電話なのだけど……」


 グリは受話器に手を当てて小さな声で俺に告げる。


「うん? わかった、代わって」

「いいの? 俺俺、俺だけどって言って名前を言ってくれないから詐欺な気がするんだけど……」

「いや、その言い方は間違いない。うちの父親だ」

「……、変わってらっしゃるのね……」

「恥ずかしながらな」


 受話器をグリから受け取ると電話に出る。

 グリが不安げな顔で見つめてきたので頭をなでておいた。


「もしもし」

「ああ、渡か、親父が倒れた。すぐ来い」

「はぁ!? 爺さんがか!?」

「ああ、命に別状は無いようだが意識が戻らん。東京の一蘭病院だ、部屋はまだ動くかもしれないから着いたら受付に聞いてくれ」

「わかった、すぐ行く」


 俺は受話器を置くとグリに向き直る。

 が、そこにはグリはいなかった。

 あるぇ~?


 グリがどこに行ったのかと思っていると、扉が勢いよく開きグリが飛び込んできた。

 よく見ると大きな荷物を担いでいるようだ。


「渡、このバッグをもって!」

「お、おう?」

「アル! クロノ! あなたたちも!」

「「は、はいっ!」」


 グリはアルとクロノにもカバンを渡す。

 え、もしかしてこれって着替えとか全部まとめてある?


「準備OK、ガスの元栓は閉じたし戸締りも大丈夫、いつでも行けるわ!」

「あ、ああ」


 俺はグリに言われるがまま、バッグを背負うと倉庫へ向かった。

 そして倉庫について気が付く。


「軽トラは二人乗りじゃないか」

「何言ってるのよ。アル、クロノ、荷物は後ろに積んで。荷物を積んだら悪いけど一回魔導書に戻って頂戴!」

「「アイ、マム!」」


 グリの有無を言わせぬ気迫にアルとクロノは姿をかき消す。

 そして地面には2冊の本が落ちていた。


「あ、そっか」


 そうだった、アルもクロノも仮の姿を取っているだけで本体は魔導書だった。

 本体を見ることなんてほとんどないからすっかり忘れてたわ。

 みんな普通にご飯食べるし風呂入るし寝るし。

 どこが魔導書なんですかね……。


「兄さん、冷たいからはよ拾ってんかー」

「さ、寒いですデスDeath……」

「おっと悪い」


 慌てて俺は2冊の本を拾うとバッグの中にそっと収めた。


「兄さんの匂いがするわぁ」

「渡さんに包まれてる気がしますぅ……」


 その発言は聞かなかったことにしよう。

 反応に困る。


「よいしょっと」


 助手席に置いたバッグの上に勢いよくグリが座り、座る位置を調整する。


「「ぐえあぁっ」」


 容赦ないな……。

 まぁでも助かった、か。


「よし、行くぞ! 飛ばすからしっかりつかまっとけよ!」

「大丈夫、今から行けば制限速度守って行っても電車が出る15分前に駅につけるわ」

「お、おう、そうか……」

「渡、こっち向いて」


 グリに顔を向けるとグリの暖かい両の掌が俺の頬を包む。


「大丈夫、落ち着いて。私たちが付いてるから」

「……、大丈夫、わかってる」

「うん。さ、行きましょう」


 俺たちは軽トラを走らせて駅へと向かった。

 途中の信号は全て青信号だった。

 軽快に国道を走り抜ける軽トラックの開けた窓からは桜の花びらが舞い込む。

 ああ、もうすっかり春なんだな。

 花見にみんなを連れて行きたいものだ。

 うちの屋敷には桜の木は植わっていないから、花見をするためには少し遠出しなければいけない。

 爺さんの無事を確認して戻ってきたら花見に行こう。

 俺は心のメモ帳にメモをする。


 パーキングに車を止め、周りに誰も居ないことを確認するといったんトイレに駆け込む。

 アルとクロノを実体化させ、もう一度周りを確認してトイレから連れ出し自動券売機へ向かうと切符を大人3枚、子供1枚購入した。

 ……、誰も居なくて助かったがこれ、見つかってたらいろいろアウトだよな。

 ま、見つかってないからセーフセーフ。


 駅の無人改札を抜けると丁度電車が来るところだった。

 開ボタンを押すと電車の扉が開く。

 これから乗り換え含めて3時間くらいか。

 ま、あの爺さんが死ぬなんて考えられないし、ちょっと様子見てくるだけで大丈夫だろう。

 早く帰ってこないと桜が散ってしまうからな。


 俺はこの時、まだ平和に浸かっていると思っていたんだ。

 本当は平和なんてものは、とっくの昔に終わっていたのに。

本日もご来訪ありがとうございました・

また読んでいただけると嬉しいです。

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