【閑話 来ない明日は無い】
教会からの帰り道、俺たちは晩ご飯の話や年末年始どう過ごすかなどと言った話に花を咲かせた。
静寂に追いつかれるのが怖くて、恐怖を振り切るようにしゃべり続ける。
言の葉がみんなを守ってくれる。
そう信じて。
屋敷の入り口が見えてきて、漸く安心できるところにたどり着けたとそう思った時だった。
「そうだ、渡、魔力の管理を私に任せてほしいんだけど」
隣を歩いていたグリが何気なくそう言ったが、俺には意味がよくわからない。
アルの方に視線を向けると何やら苦笑いしているが……。
「どういう意味だ?」
「う~んっと、今の渡の魔力はラインを経由して私たちに流れ込んできているわけだけど、必要じゃない時にも流れ込んできているのね」
「ふむ」
「だから無駄が多いのよ。これから先のことを考えると渡の魔力は有限なんだから無駄遣いは控えたいの」
なるほどな、確かに今まで何も考えずに魔法を使ってきたがこれから先もこのままでいいとは限らない。
俺の魔力も鍛えてきたとはいえ高々半年程度だ。
今回みたいなトラブルに巻き込まれたときに魔力が足りません。では困る。
かと言って俺には魔力を管理する知識も技術もないからな……。
いずれは自分でコントロールできるようになりたいが、取り急ぎグリに任せるのも悪くないか。
「たしかにそうだな。それじゃ頼めるか?」
「ええ、任してっ!」
グリはにこやかに笑うとスキップしながら門へ向かって行った。
除雪されているとはいえ危ないなと思うが、まぁグリなら大丈夫だろう。
そういえば、とアルを見やると額に手を当ててため息をついていた。
「どうした? 調子悪いのか?」
「いやー、調子は悪くないんやけどな。兄さん、もうちっと考えて発言した方がええで?」
「ん? どういうことだ? 何か問題あるのか?」
「んー、無いといえばないんやけどなぁ」
アルの歯切れの悪い回答に俺は不安を覚える。
別に魔力の管理を任せたからといってそんな困ることはないと思うのだが……。
力の根源たる魔力を握られるのが嫌とか?
毎月半分過ぎたあたりで小遣いが尽きてグリに前借を頼みこんでいるのを見るとそういうのは違う気がする。
「なんだよ、気になるじゃないか。はっきり言ってくれよ」
「いやー、うちが気にしすぎ取るだけだと思うわ。忘れてや」
「そうか……?」
変な奴だな。
まぁいいか。
さて、今日の晩はおでんか。
日本酒を熱燗で一杯、楽しみだな。
風呂に持ち込んでもいいかもしれない。
最高の贅沢だ……。
しんしんと降り積もる雪の音とともに夜は更けて行った。
そして次の日、朝食を食べにリビングへ向かう。
今日の朝食はおでんの残りでグリが炊き込みご飯を作ると言っていた。
リビングへ向かう廊下にも出汁の匂いが香る。
朝から食欲をそそる匂いだ。
廊下の窓から外を見ると昨日までの曇り空が嘘のように青空が広がる。
今日は暖かくなりそうだ。
それに今日はちょっとした大人の楽しみもあるしな。
くっくっく……。
俺は気分よくリビングの扉に手をかける。
暖かい日の光が射し込むリビングで二人の少女と一人の幼女が俺を出迎える。
……、幼女?
「おはよ、すぐに配膳するからちょっと待ってね」
「兄さんおはようさん」
「渡さん、おはようございますです」
「お、おはよう?」
グリとアルは自然体で特に変わった様子はない。
強いて言うなら少し身長が縮んだか?
幼女はその体に対し大きな椅子の下にクッションを敷いて何とか高さを合わせようと四苦八苦していた。
あ、落ちた。
「おい! 大丈夫か!?」
「あいたたた……、何とか大丈夫ですぅ……」
頭を手で押さえながら涙目でこちらを見つめてくる幼女。
なんとなく既視感を覚える。
それに誰かの面影があるような?
「えっと、君は……?」
「はい? クロノ、ですよ?」
「そうか……クロノか……」
うん、知ってた。
そうだよね、君、魔導書だもんね。
そうか、アルが昨日言っていたのはこのことか……。
おのれグリめ、どういうつもりだ!?
俺はグリを恨めし気に睨みつけるがグリは微笑むばかりだ。
……、くそう、何もいえねぇ。
「今日から、お世話になりますです」
「ああ、こちらこそ……」
さよなら、大人の楽しみ。
こんにちは、まな板さん……。
グリには全部筒抜けだったようだ。
ラインを意識するとクロノだけ魔力が少し絞られている事がわかる。
この為に、俺の魔力の管理をすると言い出したのか。
俺が管理すると言いたいところだが理由がない……。
ちくしょう、グリさんマジ孔明。
そしてアル、わかってたんならいえよぉ……。
「あ、後でお部屋に行きますね……?」
クロノがこそっと耳打ちしてきたが、時すでに遅しだよ……。
「いや、いいわ……」
「? そうです?」
「ああ。さ、朝ごはんにしようか」
「はい!」
俺は器に盛られおいしそうに湯気を上げる炊き込みご飯を見ながら、魔力のコントロールの練習を頑張ろうと心に誓ったのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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次回四章です。




