【第8話 キレイキレイ】
リビングに到着し、グリにクロノのことを説明する。
「ふ~ん……?」
「こ、これからお世話になりますです!」
グリの冷たい目線はクロノではなく俺に向かっている。
より正確に言うと床に正座させられている俺にだ。
なぜ正座させられているのだろうか。
解せぬ。
アルはやれやれといった表情をしている。
そしてクロノはあわあわと俺とグリとを交互に見ていた。
「それで、黒い靄? その話、詳しく聞かせてもらえるかしら」
「ひゃいっ! えっとですね、私も詳しいことはわからないのですけど……」
グリの問いかけにクロノはそう言うと説明を始めた。
クロノの説明では先日、雪が積もったくらいの時期から黒い靄が時々近づいて来ていたが
ちょっと魔力を当ててやるだけで霧散するし動きも遅い、それに夜しか現れないので気にしていなかったらしい。
「夜は警戒していたのですが……」
「もしかしたら油断を誘うためだったのかもしれんな」
それが昨日は昼寝をしているときに接近されたせいで気が付かず接触されてしまったらしい。
それと同時に自分とは別の意識が流れ込んできて、自分の意識はあるものの自ら動いたりしゃべったりできなくなったと。
しかし渡が持っていた日本酒が本にかかった時にそのナニかが苦しみだしたのでその隙に主導権を取り戻したそうだ。
ところでそろそろ正座やめてもいいですかね、床が冷たいんですけど。
え、だめ?
そうですか……。
「なるほどなー。確かによく視るとなんや変なもんがくっついとるな」
「そうね……。アル、障壁準備して」
「ん? なにするん?」
「問題の原因さんに出てきてもらうわ」
グリはそういうと実体化の魔法を使用した。
すると魔導書から黒い毛虫のようなものが飛び出してくる。
黒い毛虫は俺たちに向かって飛びかかってきたがアルの障壁に阻まれ床に墜落した。
結構リアルな毛虫だ……。
しかも50センチくらいの大きさ。
気持ち悪いなぁ。
殺虫剤用意した方が良いか?
「シャー! シャー!」
「ふぅん?」
毛虫は逃げ出そうとせずこちらを威嚇している。
なかなか根性があるやつのようだ。
グリは障壁から出て毛虫に近づくと素手でつかみあげて毛虫を見つめた。
グリさん、逞し過ぎてちょっと怖いです。
あと、室内なので穏便にお願いしますよ?
「さてと、ちょっとキレイキレイしましょうねー」
「シャ!? シャー!!」
グリは捕縛の魔法を使って毛虫を魔導書の中に取り込む。
毛虫も体をよじり逃れようとするが抵抗むなしく消え去って行った。
最後魔導書が閉じる際にブチュッて音がした気がするのはきっと気のせいだ。
うん、そうに違いない。
というか、自分の持っている魔法以外にも使えるのかそれ。
まぁ考えてみれば俺も魔導書の中に一度取り込まれたことあったしな。
……、毛虫の入った魔導書とか俺触りたくないんですけど……。
その間アルとクロノは呆然とグリを見ていた。
流石に毛虫を素手でつかみあげたグリの胆力に驚いたのだろう。
「ん、もういいかな。実体化」
グリ再び実体化の魔法を使うと、目の前に黒い手ぬぐいをかぶった緑色の芋虫が現れる。
「御呼びになりましたか、主様」
……。
何この武士とかそういう感じの雰囲気。
よく見ると芋虫なのに刀の様なものが脇というか横にくっついている。
グリ、一体何をした。
いや、やっぱ答えないでいいや。
夜寝られなくなりそうだし。
「ええ。あなたに聞きたいことがあるの」
「何なりとおおせ下さい」
「なんでこの子に憑りついていたのか教えてたの?」
「はっ。以前仕えていた者にこの屋敷にある魔導書の奪取を命じられ、そこの魔導書の隙を見て憑りついた次第」
なんだかきな臭くなってきたぞ。
泥棒とか勘弁してもらいたいのだが。
「この屋敷を魔法調べて、さらにはうちの物を盗もうと考えている輩がいるのか?」
「あー、なんや、兄さん。そんな軽いものやないで?」
「そうね、そもそもこの屋敷に魔導書があることを知っている人間なんてほとんどいないはず」
「それに魔法というより呪いやな、これ」
「呪い?」
「そうね。この子、こう……変質化させられて力を上げた分、思考力だとか理性がほとんど消されていたみたい」
グリが指をくいくいっと曲げ伸ばしするが意味がよくわからない。
なんか脳みそをかき混ぜるようなしぐさに見えるが……。
そんなことは、ないはず、だ……よね?
「彼の様な者に使役されるとは痛恨の極み……、斯くなる上はこの腹掻っ捌いて御覧に入れたく!」
「やめてよね、勝手に死なれると魔力の無駄になるわ」
「ご、ご無体な……」
芋虫は頭を下に向けて足を動かした。
……、ああ違う、これ頭を抱えようとしたけど手が届かなかったのか。
不憫な……。
「グリ、少しは手心をだな……」
「うっ……。ごめん、ちょっと冷静じゃなかったみたい」
「お、おぅ、それで、えーっと、俺は敷紙 渡と言うんだが、君は何と呼べばいいのかな?」
「拙者は名乗るような名前は持ち合わせておりませぬ故……」
「ん? そうなのか?」
「左様、強いていうなれば某の魔法名である隠形と」
侍ではなく忍者だったらしい。
まぁそれはどうでもいいか。
「隠形だと変換、もとい、呼びづらいな。何か名前を付けてもいいか?」
「お、おお……。拙者如きに名前を下さると、そうおっしゃるのですか!?」
「ん、まぁそうだなぁ。五右衛門って名前はどうだ」
「ああ……、ああ……」
「ん? 他のがいいならそう言えよ?」
「とんでもございませぬ! 我が忠義、敷紙殿へ捧げさせていただきまする!」
「お、おぅ?」
「兄さんやるなぁ」
「すごいです……」
アルとクロノが尊敬のまなざしで見つめてくるが、そんなにすごい事なのか?
自覚なしにまたやらかした気がしないでもない。
「まぁともかく、まずは相手の正体を調べないとな」
「敵であることは間違いないわね」
「いや……流石にいきなり敵とは……」
「兄さん、甘いで。今回の件、完全に敵対行動やで。生半可な対応だと相手になめられて余計に状況が悪化するで」
「そ、そうなのか?」
う~ん、敵と言われてもいまいちピンとこない。
それに、そんな怪しい相手とは出来れば距離を置きたいのである。
最低限調べるだけ調べて、官憲に投げてしまいたい。
こちらから手を出すのは気が引けてしまうのだ。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずということでございますな。さすが主様でござる!」
そして地味に暑苦しいな。
ん? そういえば話が逸れてしまっていたが、こいつ元々は相手が送り込んできたんだよな。
と言うことは……。
「ところで五右衛門、お前をうちに送り込んできた奴はどこにいるんだ?」
「はっ! この近くの教会に潜んでおりまする!」
相手の正体がすぐにわかってしまった。
これから追跡だとか潜入だとかになるのかとちょっと期待していたのに台無しである。
まぁいいんだけどね……。
「そう、それじゃさっそく仕返しをしなくちゃね」
「せやな、何がええかなぁ」
「迷うのです」
待ちなさいそこの三人娘。
「安心しい、そんな無茶なことはせーへんって」
「日本は法治国家だし、あまり露骨なことはしない方が良いかもです」
「霧の魔法を使って湿度を限界まで上げてカビだらけにしちゃいましょ」
……、地味にえげつないな。
五右衛門が少し青くなっていた。
顔色に出やすいのかな。
いや、擬態か?
「拙者、とんでもないところに来てしまったかもしれないでござる……」
ほんとにね。
グリもアルも普段は良い子なんだよ?
どうしてこうなった。
「さ、行くわよ!」
グリが勢い良く立ち上がると俺に手をさし延ばす。
が、俺はその手をつかまない。
……、足が痺れて立てないからな!
「なんや兄さん、はよいこや」
アルがにやにやしながら近づいてくる。
あっ、突くな馬鹿!
やめっ!
あふんっ!!
あとで覚えてろよ!?
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