【第10話 ご利用は計画的に】
階段を上り、外に出ると夕焼け空が俺たちを出迎えた。
つむじ風が落ち葉を舞い上げる。
階段を上ってきて火照った体に冷たい風が気持ちいい。
周囲を確認すると庭に直径100m、深さ5m程度のクレーターができていた。
「うっわ、すごいわね」
「ほんまやなぁ」
事前に確認していた通り、屋敷からは少し離れた地点で陥没してくれたおかげで屋敷には特に影響がないようだった。
クレーターの中心部は盛り上がっており、そこからは水が勢いよく噴出して湯気が上がっている。
間欠泉と言うやつであろうか。
水の勢いは凄まじく、屋敷の屋根を超えて噴き上がっていた。
このままだとクレーターが池になるまであまり時間は無いだろう。
これを有効利用できないものかと俺は思い立ちメニューを確認する。
階層作成コマンドを確認すると地表を階層として設定できるようだ。
「これは、やるしかないな」
早く汗を流したい気持ちを抑えて俺はメニューをいじる。
まずは地表に階層を設定、その次はクレーターから水が変な方向に溢れ出て行かない様に排水溝を作る。
「お?何をやるつもりなん?」
「まぁ見てなって」
不思議そうに俺を見てくるアル。
だが構っている暇はない、刻一刻と水かさは増えており、急がないと間に合わなくなってしまう。
「あ、私分かったかも」
「出来上がるまで言うなよー」
グリは納得したように頷いているが口止めをする。
アルがわかってないなら最後に教えて驚かしたいしな。
風が吹き、噴き上がった水の飛沫が俺たちに少しかかる。
横を見るとグリはメイド服だったので特に問題なかったのだが
アルは服が少し濡れて体に張り付いており、そのスレンダーなボディーラインがあらわになっていた。
「?」
「いや、なんでもない」
気が付いていないようなので黙っていよう。
役得役得。
クレーターの表面の凸凹を整え綺麗にした後外周に御影石を配置。
脱衣所を作り、屋敷と屋根つきの廊下で繋げた。
洗い場も作ってっと。
ああ、あと明かりが必要か。
う~ん、今日のところは雰囲気重視で蝋燭だな。
燈籠を間隔をあけて設置し蝋燭を置く。
雨の日でも入れるように東屋を作ったりサウナや洞窟風呂も作った。
これからの風呂ライフを思うと胸が熱くなるな。
「やりたい放題ね……」
「なぁ、そろそろ教えてーや、これ一体何なん?」
なぬ……?
ここまでできてまだわからないだと?
案外ポンコツなのかな。
鍵忘れて鍵部屋から飛び出してくるくらいだしなぁ。
「ふっ、聞いて驚け、これは風呂だ!」
「大きいわねぇ。これ掃除するの大変そう」
主婦の意見、ありがとうございます。
「きゅー……」
もふーるはなぜか風呂を見て耳を垂らしている。
と言うかまだお前いたのか。
てっきりもう屋敷に帰ったのかと思ってたわ。
「どうだ、すごいだろ?」
「う、うん? なんやすごいのはわかったけど、風呂ってなんや?」
ぱーどぅん?
俺の聞き間違いか?
今風呂とは何か聞かれたような……。
いやまさか。
そんなことはないだろ?
「風呂は風呂だぞ? 湯屋、バス、スパ何でもいいが、湯につかるあれだ」
「ほー、なんか聞いたことあるわ。気持ちええんやろなぁ」
「え……。アル、あなたお風呂入ったことは……?」
「ないなっ!」
「「……」」
俺とグリは二人して絶句した。
いやいやいや、いくら貧乏でも風呂にも入ったことないなんてありえないだろ?
「これはいってええん?」
目を輝かせながらこちらに近寄ってくるアル。
あ、ごめん、あまり近寄らないで?
いくら美少女でも汚ギャルはちょっと。
「今まで魔法できれいにしとったからなー、入ったことないんよ」
「そんな魔法があるのか?」
「せやで、リフレッシュって魔法でな? 服についた汚れごと綺麗に落としてくれるんよ」
ああ、そりゃそうだよな。
流石に数十年物の汚ギャルなんてありえないか。
俺は心の中でスマンと謝る。
よくよく考え無くても一緒にいても臭くないしわかりそうなものだったのに。
「なるほどな、お詫びと言っては何だが一番風呂に入ってもいいぞ」
一番風呂は自分がと思っていたが、先に入ってもらうことにする。
「何のお詫びなん? 家のことならもう気にせんでええで? 先の心配しなくてもよくなって逆に感謝しとるくらいやしな」
「そういうわけじゃないんだが……」
「なんなんよー、気になるやん」
「いや、なんでもない……」
「え~?」
「まぁまぁ、渡が変なことを言うのはいつものことよ。それよりも早くお風呂に入りましょ」
グリ、ナイスフォロー!
流石俺の魔導書!
あ、アルもだった。
「まぁええか、あっちで服脱げばいいん?」
「そそ、あれが脱衣所って言って服を脱いで置いておく場所よ」
二人は楽しそうに連れ添って脱衣所に向かって行った。
一時はどうなるかと思ったが、仲良くなってくれてよかった。
「しばらく時間つぶさなきゃな」
俺はどうするかと考えながら空を見上げると三日月が俺を見て微笑んでいるように感じた。
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