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その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~  作者: すぴか
【第1章】もらいものにはロリきたる
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【第2話 女の子のスカートの中は4次元につながっているんです】

 ――「お断りします」


 時間が止まった。

 いや、止まってはいない。

 しかし誰も動けないのであればそれは時間が止まっているのと同義ではないだろうか。


 閑話休題


「……、いやいやいや!? もう少し悩んでよ!?」

「え、いや、俺そういうの結構なんで……」


 慌てだす幼女を前に俺は逃げる算段を始める。

 いや、だってどう考えても面倒事じゃないか。


「そういうのってなに!? ふざけてるの!?」

「すみませんでした、もう退出してもよろしいでしょうか?」

「え、まって! お願い! 話を聞いて!?」


 微笑んでいたと思えば驚愕して、怒ったと思えば泣きそうになる。

 ふむ、感情が豊かなタイプか。


「なかなか面白い百面相だ」

「面白いって何!?」


 っと、心の声がだだ漏れだった様だ。

 気をつけねば。


「おっと失礼、レディに腐海謝罪を」

「まったく反省してないでしょ!? っていうか腐海って何よ腐海って!」

「ここも直に飲み込まれる……」

「海から吹く潮風様に守られてるから……って違うわよ!!」


 よし、乗ってきた。

 このまま話をうまく逸らすぞ。


「乗り良いなーお前。可愛いし、将来が楽しみだな。」

「え? そ、そう? ありがと……?」

「そんじゃ俺は帰るから」


 面倒事からは遠ざかるに限る。

 君子危うくに近づかずって言うしな。


「う、うん、気を付けてね?」

「じゃあな」


 そう言って幼女に背中を向けて丘を下りだす俺に衝撃が走った。

 幼女がテーブルを投げつけてきたのである。

 椅子ではなく、ましてやテーブルの上にあったティーカップでもなく、テーブルを投げるとは……。


「やるなっ!」

「やるなっ! じゃないわよ! 話聞いてって言ってるでしょ!!」

「それが人にものを頼む態度か?」

「え……、だ、だって、話聞いてくれなかったから……」


 逆ギレで強く言って見ると一転弱気となった幼女。

 これは行けるなと思い俺は続ける。


「話を聞かない相手にはテーブルを投げつけてもいいと?」

「そ……それは……」

「交渉決裂、だな」

「え……ま、待って……」

「またテーブルを投げつけられてもかなわないからな、もうここで帰らせてもらうよ」


 完全勝利、だな。

 子供の頼みを口先三寸で誤魔化すのは少しばかり良心が咎める(とがめる)が、知り合いの子って訳でもないし義理は無かろう。

 そもそもテーブルを投げることのできる幼女って普通じゃないしな。

 俺の本能が「きけんがあぶない」と言っている。


「ぅ……」

「ぅ?」

「うぇえええええええん!!!」

「ちょ!? 泣くなよっ!?」

「だって、だってえええええ、うぇえええええあああああああん!!!!」

「お、落ち着けっ! しがみつk「びええええええええええあああああああ!!!!」


 ちょ!? 泣くのは反則だろうがっ!?

 それをやったら戦争だぞ!?

 それも俺の勝率0%の!!


「分かった! 分かったから! 話聞くから!」

「ほ゛ヴぉんとにヒック聞いてヒックくれヒックの……?ヒック」

「ほら、聞くから、落ち着いて……」

「ヒック、ヒック」

「あー、ごめんごめん、俺が悪かったから……」


 完全敗北……か、そう思いながら俺は幼女を慰めるのだった。



 それから10分

「ヒック、ヒック」

「ほら、よーしよし……」


 俺は未だしがみついたままの幼女を慰めて(なぐさめて)いた。

 これ、端から見たら犯罪なんじゃね……。

 いや、子供を慰める(なぐさめる)お父さんに見えるか……?


「なぁ、そろそろ離れてくれないか……?」

「やっ! 離したらどっか行っちゃう!!ヒック」

「行かないから、ちゃんと話聞くから、ね?」

「う、うう、ほんとに……?」

「うんうん、ほんとほんと、約束する」

「……、約束だよ……?」


 ほっとするのもつかの間、再び俺に衝撃が走る。


「でもおじさんの膝の上に座ってるね、おじさんの膝の上、なんだか落ち着くし」

「お、おじさん……?」

「え、だって名前教えてもらってないし」

「そ、そうか……」


 幼女ってのは残酷だな……。

 そう内心つぶやく俺であった。



「それで? ここは一体何なんだ? 俺は書庫にいたはずなんだが?

そしてお前は誰で一体何が目的なんだ? ことと内容次第では……」

「ビクッ」

「ああ、怒ってない怒ってない、そんなにビクつかないで……」


 ああ、めんどくさい……。

 どうしてこうなった。


「ほんと? 怒ってない?」

「ほんとほんと、怒ってない怒ってない」

「よかったぁ……」


 落ち着け、落ち着くんだ俺。


「それで、君のこととか色々教えてもらえるかな?」


 この場面だけを見ると犯罪である。



「えっとね、私は魔導書なの、そしてここは魔導書の中の世界なの」

「は……?」


 意味が分からないんですが……。


「おじさんが手に取った本が私なの」

「そ、そう……」


 やばい、この娘頭おかしいわ。

 うん、俺の本能は正しかった。

 そう思わざるを得ない。

 疑ってごめんね! そして外れとけよドあほぅ!


「それでね、おじさんが本を落としたときに中の魔法が暴走してほとんどいなくなっちゃったの」

「ほ、ほう……?」

「だからね、魔法を捕まえなきゃいけないの」

「う、うん……」


 頭痛が痛くて腹痛が痛い……。

 左に右折して早く帰りたい。


「手伝ってほしいの」

「あー、しかしだな俺にできるとは思えないんだけど」

「手伝ってほしいの」

「俺にも普段の生活があるしさ」

「手伝ってほしいの」

「ねぇ、聞いてる?」

「手伝ってほしいの」

「……」


 これYESって言うまでループするパターンじゃねえかっ!!!


「手伝ってほしいの」


 壊れたラジカセのように同じ文言を繰り返す幼女を前にして俺は頭を抱えた。

 その時、福音が鳴り響く


 ――ジリリリリリリン!ジリリリリリン!


「あ、電話だ」


 幼女は俺の膝の上から降りておもむろにスカートをまさぐり始めた。


「よいしょっと」


 スカートの中から黒電話が出てきた。

 ちょっとまて、お前のスカートは四次元に繋がっているのか。


「はい、もしもし?」

「え? あ、はい。」

「ええ、はい、そんなところですかね……えへっ」


 電話を持ってはにかむ幼女、なんか癒されるなー。

 いやまて、こいつは魔導書だ、見た目に騙されるな俺!


「はい、代わりますね」


 幼女が笑顔で受話器をこちらに向けて渡してくる。

 一体何が狙いだ、俺は警戒心を一段階上げる。


「はい」


 天使の笑顔(もんどうむよう)であった。


「……、もしもし?」

「おー、渡か? おじいちゃんじゃよ」


 相手は祖父だった。

 なんだよ、警戒して損した。


「言い忘れてたことがあっての。その屋敷、怪奇現象が発生するとの噂でな?」

「はぁ?」

「そのせいで売るに売れなくてのー」

「おいおい……」

「何でも夜中にピアノの音が聞こえるだとか、誰も居ないのに影が動いているとかで1か月以上誰も住めなんだ。そんな非科学的なことがあるわけないのにの」

「いや、あの……」


 俺は戸惑った。そんな物件なんて一言も聞いていなかったからだ。

 まぁ目の前に非科学的なことが鎮座(ちんざ)しているわけだが。

 警戒した価値は実はあったのか、無ければよかったのに。


「それでいちゃもんをつけてきた奴らに一泡吹かせたくての。お前が何事もなくその屋敷で1年過ごせたら、その屋敷の他に家作をやろうと思っておる」

「いや待ってよ、そんな状況で暮らせないし、それだったら屋敷売り払って引っ越すよ……」


 豪邸で生活できると思ったが、これはもう仕方ないだろう。

 せっかく掃除したのに、少し残念だとは思うが背に腹は代えられない。


「うん?しかしお前、その屋敷は売れないと言っただろう?」

「そうだけど……」

「既に屋敷の権利はお前に移っておるし会社は辞めたんじゃったよな?」

「そうだね」


 爺さんが何が言いたいのかわからない。

 若い者が世捨て人の如く(ごとく)生活をするのに何か思うことでもあるということだろうか。


「お前、税金はどうするつもりだ?」

「は……?」

「贈与税はわしが払っておくが、固定資産税はお前が払うんだぞ?」

「なっ……!」


 お小言なんかではなく切実な問題だった!

 想定外の問題に俺は顔を青くする。

 もう会社は辞めてしまっている。

 まずい、どうする、どうするよ俺!?


「まぁ大丈夫だ。来年には儂の家作をやるからの、そこからの収入で税金分は何とかなるだろう」

「そ、それは……」

「それでは頼むぞ。すでに女も連れ込んでいる様だし、しっかりするんじゃぞ? お前の引越しに合わせてツーシーターを納車しておいたからの、隣にのせてやるがよい」

「は!? 女!?」


 ガチャッ、ツーッツーッ……


「……」

「も……お……」

「……」

「お~い、起きて……」

「……」

「もしもーし、おーい」

「はっ!」

「あ、復活した?」

「お、おぅ……」


 しまった、意識が飛んでいた。

 怪異、税金、女。

 俺の処理能力はオーバーフローしていた。

 伊達に何年も社内ニートしていたわけではない。

 思考能力は低下の一途をたどっていたのだ。


「おじさんって渡っていうんだ?」

「あ、ああ……」

「そっかー、今の渡のおじいさんだよね?」

「そうだな……」

「私、渡のお嫁さんか?って聞かれちゃった」

「!!」

「てへへ……」


 おーまいごっど……。


「それで……、あ~君、名前は?」

「え? 私の名前が知りたいの? 渡は仕方ないなぁ」


 草刈り機を振り回し、お前の頭の中の花畑を刈ってやろうか!!

 強烈な欲求に駆られるが手を握り締めて何とか笑顔をキープすることに成功した。

 俺って何気にすごくね?


「うふふー、私はね、う~ん、いろんな名前で呼ばれてるけど、グリモワールって呼ばれることが多いかな」

魔導書(グリモワール)ね……」

「でも、渡には特別な呼び方してほしいかなーって」

「はぁ?」

「だって私の所有者だし?」

「マスター?」

「うん、渡はね、私の所有者になったのよ」


 幼女が言うには俺は魔導書の正当な継承者であり、所有者だそうだ。

 どうしてそうなったし。


「だから何か愛称つけて?」


 ほぅ……。

 かつてノーセンスキングと言われたこの私に愛称を付けてと要求するとな?

 良いだろう、その判断、後悔するがいい!


「おぉ……おー、おー、わかった。そうだな、グリモワールだから……略してグリって呼んでやろう」

「っ!!」


 これはどうだ。俺の中ではかなりいい感じだが、嫌だろ? 嫌っていうがいい!


「グリ……」

「お? 嫌ならいいんだぞ?」

「ううん……ありがとう……こんなかわいい名前で呼んでもらえるんだね……、うれしい……」


 なん……だと……?

 うう……二重に心が痛い……。


「えへへー、グリかぁ」


 や、やめてくれ……。


「渡、本当に、ありがとう……」

「わかった! もうわかったから! 何でもするから許して!!」

「え……? よくわからないけど……、何でもするっていうなら魔法を捕まえるの、手伝って?」

「はい……」


 おれはりょうしんにまけた。

2016年11月12日微修正しました。

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