【第6話 僕らはみんな生きている】
2016年10月15日改稿しました。
ジワリと汗をかいてきた頃、俺たちは漸く3階層へ続く階段にたどり着いた。
途中で方向がずれてしまい余計な壁まで破壊してしまったのはご愛嬌。
「ああ……、うちの家が……」
「きゅー、きゅー……」
魂の抜けかけたアルをもふーるが介抱している。
本当に優秀なウサギだ。
「きゅ!?」
俺のペットにしようかな。
そう思ってもふーるの白い背中を見つめているともふーるは警戒したようにアルの陰に隠れた。
感のいい奴め。
3階層へ続く階段の入り口周辺は苔が生しており、階段の奥からは生暖かい風が流れ出ていた。
階段は足元だけでなく壁まで苔でおおわれている。
「苔がすごいな」
「じとじとしてるわね……」
3階層は難易度が高そうだ。
そんな予感を胸に、足元に気を付けながら階段を下りて行った。
3階層に到着すると何とか復活したらしいアルが念押しをしてきた。
「ここはうちの部屋みたいなもんやからな?壊さんでよ?頼むで?」
「ああ、わかってる、2階層はちょっとあれ過ぎたからはっちゃけただけでそこまで乱暴な手段を取るつもりはないよ」
「ほんとかいな……」
信用ないな。
まぁ、あれだけ暴れればそうなっても仕方ないか。
鬱蒼と生い茂る葦を見ながら考える。
ハンマーでは葦を刈ることは出来ない。
バールなら簡単だったのにな。と、かつての相棒を思い出す。
と言っても失ったのはほんの数十分前の話だが。
「この階層にはどんな魔物が出てくるんだ?」
後ろを歩いていたアルに首を向け俺は問いかける。
「カエルの魔物やな、スライムやゴブリンと違ってタフやし攻撃力もあるから1匹ずつ相手せんと不意をつかれるとやばいで」
「なるほど、他には?」
「鍵部屋の前の広間にはデカいカエルの魔物が出るんよ。こいつはどんくさいけど他のカエルよりタフやから厄介やで」
「それだけか?他にもいるんじゃないのか?」
「ポイント使ってトンボとハエの魔物を召喚したこともあったんやけど、先に召喚してたカエルの魔物に食べられてしもうてな。今はカエルだけや」
なぜどう考えても餌となる組み合わせを召喚したし。
しかもカエルがいなくてもトンボがハエを捕食してたろ、これ。
無駄にポイント使ってたせいでこいつ貧乏生活してたんじゃないのか……?
「とりあえず行くか」
「ほんま頼むで」
「大船に乗ったつもりでいてくれよ」
「泥船な気がするわ……」
ふむ、仕方ない、あまり気は乗らないが心配かけさせるのも良くないし大人しく攻略するとしよう。
「グリ、地面から10センチくらいの高さに風の刃を作って鍵部屋までの草を刈り取ってくれ」
「やっと出番ね。任して、全力で行くわ!」
グリが魔法を使うと魔力ががっつり抜かれ、久しぶりにくらっと来た。
通路上の葦がきれいに伐採されていく。
よくよく見ると葦だけではなく壁まで一部削り取られていた。
「遠慮なく行ったな……」
「ええ、久しぶりに思いっきりやってちょっとすっきりしたわ。さ、行くわよ!」
額の汗を手で拭いながらやってやったぜ!とばかりに笑うグリに俺は告げる。
「魔力使いすぎたからちょっと休憩で」
グリに椅子を出してもらい、座ったままで1時間ほど仮眠を取ることにした。
椅子で寝るなんて会社でグルグルアースで世界を飛び回っていた最中に寝落ちした時以来だな。
目が覚めると汗で張り付いたシャツが少し不快だった。
「早く帰って風呂に入りたいな」
「えらいすまんかったなぁ、あと少しやから頼むわ」
気にするな、と手を振りながら俺はハンマーを手に取る。
ここから先は警戒して行かないとな。
見通しの良くなった通路を進み、警戒しながら角を曲がると足元に何か柔らかい感触があった。
「なんだこれ?」
よくよく見るとそれは足の切断されたカエルだった。
グリの草刈りに巻き込まれたらしい。
「グ、グエッ……」
まだ息があったのでとりあえずハンマーで叩き潰しておく。
タフと言うだけあって足を切られた程度では死なない様だが、動けなければ関係ないよね。
「兄さん、遠慮なしやな……」
「敵だからな、仕方ないだろ」
「まぁそやけど。カエルさん、すまんなぁ」
アルは合掌してカエルに謝っていた。
途中転がっているカエルを潰しつつ進んでいくと少しずつ暑くなってきた。
「なんだ、広間に熱源でもあるのか」
「そんなところやね、鍵部屋の中は涼しいんやけどね」
「よくこんな暑い中平気だな。ムシガエルになってそうだ」
「一応この迷宮のBOSS枠やしな」
これだけ暑いと戦闘になったら長くはもたない。
他のカエルと同じく動けなくなっていればいいのだが。
ま、どんなに頑張ってもカエルはカエルだ。
「俺の10tハンマーの錆になってもらうさ」
「10ポンドハンマーやないん?」
うるさいな、10tって言った方が夢があるだろうが。
べ、別にタイトル間違えたわけじゃないんだからねっ!
……、何を言っているんだ俺は……。
「あれが広間の入り口か?」
「そや、奥にある扉の向こうに鍵部屋があるんや」
広間の入り口はやや狭く、見通しが悪かった。
入口に近づき中を覗き込むとデカいカエルがこちらを見据えていつでも飛びかかれる態勢を取っていた。
奥にある扉とやらはそのカエルの向こう側にあるようだ。
絶対にここは通さない、その意志が伝わってくる。
彼にはデカカエルと言うに相応しいだけの威厳があった。
「それにしても、この構造だと絶対にカエルと遭遇するじゃないか。アルはどうやって無事に通過できたんだよ」
「うちが外に出たときは寝てたんやけど……」
さっきの草刈りの魔法で起こしてしまったと。
「ご、ごめんなさい……」
「気にするな、おかげで早くここまでこれたんだ。ちょっと待ってな、俺がサクッとあのデカカエルを倒してきてやるさ」
足元が悪い上に俺のハンマーだと皆を巻き込んでしまう可能性がある。
肩を落とすグリを慰めるとハンマーを肩に担ぎ俺は一人広間へ向かった。
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