【第2話 不法侵入は禁止です?】
2016年10月15日改稿しました。
もふーるを連れて地下へ続く階段を下りた俺は目を疑った。
壊したはずの扉が元に戻っていたのだ。
そして入口に張ってあった札は「立ち入り禁止」から「立ち入り禁止!!」に変わっていた。
「なんだこれ?誰か来たのか?
「きゅー?」
「ああ、さっきここの扉壊してしまったんだ。それに張ってあった札が変わってるから誰かが来たのかなと」
「きゅー」
「まぁ誰かが直して行ったんだろうな」
「きゅっ」
「さてと、それではもう一度御開帳~っと」
ギギギギ……
直されたばかりのはずの扉は開くときに再び悲鳴を上げた。
直したのであればちゃんと油さしとけよ、と思いながら俺は扉を押す。
バキンッ
え……。
バタンッ
……。
「さ、もふーる、この部屋を照らしてくれ」
俺はなかったことにした。
1回も2回も変わらないって!
「きゅ」
もふーるが返事をすると光の玉がもふーるの目の前に現れ、部屋の中へ移動していく。
「きゅきゅ」
おー……。
なにここ、地下室、だよな?
そこには妙に広い空間があった。
少し埃っぽいその空間には照明がないどころか床も壁も天井も自然の岩肌となっていた。
広い空間の先には通路らしきものがあり、奥へと進めるようだ。
「これはあれか、迷宮とか言うやつか?」
俺は愛バールを取りだし念のため、力と硬化の魔法をかけた。
「力、自分。硬化、バール」
警戒しながら通路に進むと先の方で分かれ道となっている様だった。
それにところどころ部屋もあるようだ。
このまま何もせずに進むと道に迷うことは間違いないだろう。
だが俺には魔法がある。
そう、何のためにあるのかよくわからない魔法だったが今回は役に立ってくれそうだ。
「迷」
魔力が体から流れて出ていくのを感じると同時に頭の中にこの先の地図が描かれる。
「おお……」
地図を確認して驚いた、なんとこの地下室というか迷宮は3層に分かれており、1フロアがそれぞれ一辺が300m四方の正四角形となっていた。
部屋数は1000を軽く超えており、階段はわかりづらそうなところにあった。
よくよく確認すると下に降りる階段に行くためには大回りをしなければいけないようだ。
「これ、地図無しで階段を探すと下手したら一生見つからないな」
もふーるを先行させ安全を確認しながらゆっくり階段を目指す。
途中出てきたのは野生のゴキブリ、鼠、蝙蝠くらいだった。
宝箱というか朽ちた木箱もあったが、中にはポケットティッシュが入っていただけだった。
ダン……ジョン……?
ま、まだ1階層目だしな。
気を取り直して階段を下りて2階層へ進む。
2階層に到着するとそこにはおおきな水滴のようなものがいた。
「これって、スライムとかいうやつか?」
「きゅー?」
そーっとバールで突いてみると天井から声がきこえた。
「ザザッ スライムは震えている!」
「なんだ今の」
上をよく見るとスピーカーが天井に埋め込まれていた。
訝しんで天井を眺めていると怪しい関西弁の放送が流れてきた。
「ぴんぽんぱんぽーん。うちの迷宮へようこそー。
1階層を突破した勇者さんに忠告やで!
この迷宮はうちの家やねん、勝手に侵入せんといてや!
最奥には宝があるけどこんといてなっ!
途中にはモンスターやトラップがあるからなっ、怪我したくないならとっとと帰るんや!
ほなさいならっ! ぴんぽんぱんぽーん」
「……」
「きゅ……」
「帰るか」
「きゅー」
俺は帰ることにした。
帰りは一度通った道なので早かった。
目印をたどりサクサク進んでいく。
そして地下室の出入り口が見えてきたところで後ろから声がかかった。
「ちょいまちやああああああ!」
振り返ると遠くから少女がこちらへ向かって走ってくる。
「うわ、なんかきた!」
「きゅっ」
「うわってなんやねん!」
「いや、何のことかわかりませんね」
「きゅ」
「というかあなた誰ですか」
「うち? うちは、えーっと、この迷宮の管理者、みたいなもんやな」
みたいなもんってなんだ。
管理者ではないってことか?
うーん、なんか面倒事の予感がするしさっさと退散しよう。
「そうですか、それではお邪魔しました。失礼します」
「いやいや! あんたらこの迷宮攻略しに来たんとちがうん!? なんで途中で引き返すんや!」
「だって怪我したくないし?」
それに帰れって言われたしな。
人の家に入って物色するほど生活に困っているわけじゃない。
この迷宮の入り口は誰かが二度と迷いこまないようにセメントで塗りつぶすことにしよう。
「お宝! 奥にお宝あるんやで!?」
「う~ん、他人の者を取るのは泥棒ですよね?」
「そ、それはそうやけど……」
「そういうわけで、私たちは帰りますね。あ、そこの扉から向こうは私の屋敷なので入ってこないように」
「そ、そんな……」
「それでは」
俺が入口を向いて歩きだすと再び声がかかる。
やはり素直に逃がしてはくれないか……。
「まって! まってや!」
「なんですか? 私これで結構忙しいのですが」
「後生やから、話聞いてぇや……」
く……、涙目で見つめてくんなよ、反則じゃないか。
グリといいこの娘といい、反則ばかりだな。
おい審判どこだ、いい加減レッドカード切れよ。
「はぁ、まぁ聞くだけでしたら」
「ほんまか!? ありがとぅ!」
「それで、何なんです?」
「あっ、すんません、えっとですね、その……」
「きゅー?」
「実は、うち、その、迷宮鍵を鍵部屋に置き忘れてしまいましてん……」
「はぁ」
ディーフェンスッ! ディーフェンスッ!
がんばれ渡! 負けるな渡!
ここで負けたら今までの経験は一体なんだったんだ!
お前ならできる! 自分を信じるんだ!
「それがないと、迷宮の魔物に襲われてしまうんです」
「そうなんですか、それは大変ですね」
「そうそう! そうなんよ! だから部屋まで送ってほしいなって」
「お断りします」
俺は迷わず即答した。
なんで俺がそんなめんどくさいことをしなければならないのか。
グリの時は押し切られたが、一度食らったパンチは二度とはもらわない、それがプロフェッショナルってもんだ。
何のプロかは知らんが。
「なんでやっ!」
「だって魔物に襲われるんですよね?」
「そ、そうやけど……」
「それに一人でここまで来てるんですから戻れるのでは?」
「たまたま運よく魔物に遭遇しなかっただけなんです。うち、戦闘力ほとんどないんで魔物に遭遇したら死んでしますわ……」
そういうと少女はその場にへたり込んでしくしくと泣き出してしまった。
そのまま放置して帰っても良かったのだがこんなゴキブリと鼠と蝙蝠の巣に子供を置いていくことは気が引けた。
……、俺はプロフェッショナル、俺はプロフェッショナル……。
「あ~、とりあえずうちに来るか? お茶くらいなら出せるぞ」
「グッス……少しだけ、お邪魔させてもらいます……」
「きゅー」
もふーるが少女のところへ向かい耳で頭をなでる。
器用な奴だな。
俺は少女を立たせると屋敷のリビングへ向かうのであった。
次は来週末に投稿できるといいなぁ。って感じです。