【第9話 その胸、魔法では膨らみません】
グリ達が転生してから3年が経った。
転生直後は収納が使えないことを忘れていて買い物しすぎたり、5人で出かけるのに2人乗りの軽トラックを使おうとしたりとトラブルが多かったが、今では特に問題なく生活できている。
魔法達は専用の住居を作ってそこに住んでもらっている。
以前のようにグリが召喚できなくなったし、魔法書の状態で本棚に収まっているのはあまり居心地がよくないらしい。
実体を得ることに慣れすぎてしまい、元の生活には戻れないそうだ。
おかげで敷紙家はとてもメルヘンな感じとなっていた。
一部ホラーな感じのもいるけどご愛嬌というものだろう。
そんなメルヘンランド、敷紙家の庭ではお茶会が開かれていた。
今日は珍しく休みが取れたので。
……、珍しく休みが取れたってなんか変な表現じゃね?
気にしたら負けか。
「う~ん、またちょっと大きくなったみたい」
「そ、そうか……」
「うちもやー。最近張って痛いんよなぁ……」
「私もです。というか動きづらくで邪魔です……」
いや、さっき問題なく生活できているって言ったけどやっぱ問題あったわ。
そういう話されても困るんだけど?
そういうのはガールズトークでやってくれないかなぁ……。
そう、彼女達には若干恥じらいが足りなかったのだ!
いや、たぶん恥じらいはあるのだろうが俺の反応を見て楽しんでいる節がある。
なんというか、その、うん、困る。
丁寧にそういうのはやめなさいと言っても聞かないんだよなぁ。
かと言って「揉むぞ!」と脅せば「どうぞ」と出してきかねないし。
何をとは言わんけど。
グリは小さいことを気にしていた様だったが、成長に合わせて大きくなって喜んでいる。
逆にクロノは本気で邪魔と思っているようだったが。
アルは……、グリをからかえなくなって少し残念に思っているのかな?
「社長、霧島様から来週の日曜日に食事でもどうかとメッセージが届いております」
「喜んでと返信しておいてくれ」
「よろしいのですか? その日は首相との食事会の予定が入っておりますが」
「行けたら行く程度の話でしかないだろ。それに友人との交流は仕事より優先されて当然だ」
「承りました」
市野谷は変わらずうちの執事を務めてくれていた。
会社関係は秘書に任せているが、内向きのことは市野谷にすべて任せている。
しっかり会社側の予定まで抑えた上であれこれしてくれるので非常に助かっていた。
それに他の使用人達を上手く取りまとめてくれてるしね。
「すまんな、いつも助かっているよ」
「お嬢様の旦那様となる方ですので」
う、うん。
大丈夫、ちゃんと責任取るからそんな目で見ないで?
家政婦は見たならぬ、執事は見た状態にしちゃったのは反省してるよ?
いや、ほんとに……。
あの後泣き喚く葵をなだめるのに苦労したしね。
ちゃんと籍も入れる予定だ。
日本だと重婚は認められていないから法的な妻は彼女となる。
そうでもしないと俺、市野谷さんにコロコロされちゃいそうだしね……。
ウメさんも変わらずだ。
朱子のおばあさんだしね、あまり蔑ろにはできない。
「社長、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「朱子、家では社長と呼ばないように」
「は~い」
朱子は高校を卒業し、俺の経営している会社へ就職して俺の秘書をやっていた。
事情を知っており、これでなかなか目端が利くので重宝している。
それに魔法の腕もあれから上達し、四天王の名に相応しい実力を得るに至った。
なお、本人に四天王朱雀と呼ぶと頭を抱えてバタバタするのでとても面白い。
あまり言いすぎると慣れてしまうので時々言うに抑えているが。
「ただいま戻りました」
「ん、お帰り」
葵はまだ高校生だが、卒業したら同じく俺の経営している会社へ就職予定だ。
こちらも同じく俺の秘書予定である。
社長が若い娘を囲っているという噂が社内には流れているようだが、根も葉もあるので否定のしようがない。
グリに浮気はだめなのではないかと聞いたところ、彼女達は自分が引き込んだから仕方ないとの答えだった。
自分が人間になれるわけがないので、諦めて自分の認めた人間と番わせよう。そう考えた結果の行動だったらしいのだが……。
今となっては少し後悔しているらしい。
「だって、あなたとの時間がその分減るんだもの」
ということだった。
……、可愛い奴め。
ああ、でも綾と志保には手を出していないからな。
同じ四天王でも彼女達はちょっと立ち位置が違うしね。
尤も、彼女達も卒業したら俺の秘書として働いてもらう予定だ。
最も信用できる手駒として。
魔法関連の世界をほとんど支配したといってもいい俺だが、敵は多い。
未だに月に1~2回襲撃があるからな。
その都度反撃はしているが、減る気配はない。
もういっそのこと本当に世界を支配してしまおうか。
そんな考えにかられる。
そうすれば襲ってくる連中も居なくなるだろうし。
いやいや、それでは余計に仕事が増えて隠居できなくなってしまうからだめだな、却下却下。
しかしあれだな。
もうそろそろ隠居しても大丈夫なはずなのだが何故か隠居できない。
いい加減休みを取らせろ! 隠居させろ! と声を大にして言いたい。
「この子達の為にも、もうちょっと頑張って稼いでもらわないと」
しかしお腹を撫でながらそういうグリ達に、俺は何も言えなくなるのだった。
完
これにて「その胸、魔法では膨らみません ~100LDK幼女憑き~」完結です。
おおよそ半年の連載期間中、感想や評価、ブックマーク等で応援してくださった方々のおかげで完走できました。
本当にありがとうございました!