【第7話 転生】
「のぅ、お主等は渡と最後まで共にある覚悟はあるのか?」
グリ達が爺さんの前に行くと、爺さんは真剣な声でそう尋ねた。
「当り前じゃないの」
「ま、今更兄さんの傍から離れるってのもなー」
「渡さんの傍は居心地がいいですし」
なんですか、君達。
ちょっと恥ずかしいじゃないですか。
というか爺さん、そんな話をしたかったのか?
やはり魔導書だから、人間じゃないから俺の傍に置いておくことに不安があるのだろうか。
「そうか、ならば構わぬな」
いろいろ俺が考えている中、爺さんはそう呟くと何らかの魔法を発動した。
部屋は光に包まれ、視界が白く塗りつぶされる。
「うわ!?」
俺は思わず目を瞑った。
光はすぐに収まったものの、目がちかちかする。
「じ、爺さん……」
ピー……。
急に何をするんだ。そう問いかけようとした俺の耳に機械の音が飛び込んでくる。
「え……?」
鳴り響く機械音。
ベッドの上で満足げに目をつぶる爺さんは、既に呼吸をしていなかった。
「なっ……!?」
俺は慌ててナースコールボタンを押す。
そして救命措置を行おうとした俺の腕を誰かが引っ張った。
「なんだよ!? 後にしてくれ!」
「もう、死んでるです……」
「だから! 心臓マッサージとかしなきゃ!」
「違うです。もう、魂が……」
クロノが嫌々と首を振る。
「どういうことだ……?」
「渡さんのお爺さんは、最後の魔法に命を、魂を使ったです……」
「それじゃ……」
「もう、どうやっても蘇生できないです……」
「なん……で……」
呆然としている俺に後ろから声がかけられる。
「敷紙さんー、どうかされましたかー? っ! すぐ先生を呼びます!」
そこから先はあまり覚えていない。
そして気が付けば爺さんの葬式が終わっていた。
納骨し、線香をあげ、漸く爺さんが本当に死んだのだと思えた。
死んでも殺しそうになかった爺さんだったが、本当にあっさりだった。
苦しんで死んだわけじゃないし、本人は満足そうだったからこれでよかったのだろう。
「しかし、爺さんが最後に使った魔法はいったい何だったんだ?」
少なくとも俺の知っている系統の魔法ではなかった。
魔力の流れを見ようにも光で目が眩んでいたし、感覚では何か大きいものに接続していたようだったが……。
よく晴れた青空を見上げる。
爺さんは最後に空の、その向こう側に魔力を伸ばしていたように感じたのだが。
「渡。父さん、いや、爺さんが渡にって」
そんな俺に父が手紙を渡してきた。
爺さんから俺にと預かっていたらしい。
最後に顔を合わしてるんだから手紙なんかじゃなく直接伝えてほしかったな……。
俺は手紙を鞄に収めると爺さんの墓に背を向ける。
これからは、爺さんの助け無しで組織を切り盛りしていかなければならないのだ。
悲しんでいる時間なんて、ない。
爺さんから受け継いだノウハウ、力を決して無駄にはしない。
覚悟を新たに俺は屋敷への帰途へ着いた。
屋敷に着くと朱子達が出迎えてくれる。
彼女達には先に帰ってもらっていたのだ。
微妙な立ち位置だからね、納骨まで同行するのはちょっと……。というわけだ。
せっかく出迎えてもらったのに申し訳ないが、手紙を早く読みたかったので挨拶も早々に自室へ向かう。
「さてと、何が書いてあるのかなっと」
俺は自室に戻ると爺さんからもらった手紙に目を通した。
最後の手紙だ、おそらく重要なことが書いてあるのだろう。
それも口頭では言えないような、とても大切なことが。
「っ……!?」
その中身はたった一文。
しかしその一文の破壊力は予想を凌駕していた。
「渡へ。魔導書の娘ら、人間に転生させておいたから」
……。
どういうことなの……?
え? え?
魔導書って人間になれるの?
いやいや、体を手に入れるだけじゃなくて?
言われてみれば確かにグリ達に流れる魔力の質が変わったような気がするし、パスもなんか違和感あるような。
もしかしてこれってそれが原因?
というか、爺さんが最後に使った魔法ってもしかしなくてもこれだよな!?
混乱する頭で俺は自室から出てリビングへ向かう。
おそらく彼女達は自分の体に起きた異変に気が付いているはずだ。
ガチャッ!
俺は勢いよくリビングの扉を開くとグリ達を探す。
「あら、渡。そんなに慌ててどうしたの?」
「グリ! 異常はないか!?」
「うん? 特に問題はないと思うけど。何かあった?」
「何かあったというか、グリ達に何かがあったというか……」
「???」
「いや、大丈夫ならいいんだ……」
とりあえずは無事なようだ。
まぁそりゃそうだよな。
帰ってくる途中も特に何にもなかったし。
「アルとクロノは?」
「兄さん~……」
「ここです……」
と、ソファーの方から声がしたので向かってみるとお腹を膨らました2人が横になっていた。
……、ん? お腹を膨らました……?
「おいおい、どうしたんだ?」
俺は違和感を覚えながら2人に声をかける。
「なんや腹がくるしゅーなってもーて……」
「お腹がパンパンです……」
ああ、そうか。
人間になったとすれば前みたいに無制限に食べれなくなるもんな。
「人間の体は不便です……」
「やなぁ……」
……。
「なぁ、人間になったって、マジ?」
「マジマジ」
「ですです」
俺、結構衝撃受けたんだけど君達余裕だね?
「いつから?」
「渡の爺さんに転生させられてからやな」
「流石渡さんのお爺さんです。魂を捧げたとはいえ3人まとめてポンと転生させちゃうなんて」
知らなかったのって、俺1人……?
マジカヨ……。
うっし、4章書き始めたころから書きたかった話もできたっ♪