【第5話 魔王】
時計塔を支配下に収めてから1か月くらいたった。
あれ以降目立った襲撃はない。
むしろ未だ俺の支配下になっていない地域からは友好の使者が来るようになった。
やはり中央を抑えたのは大きかったのだろう。
これで漸くゆっくりできるはずだ。
「まさかたった半年でこんなことになるなんてね……」
「ほんとな」
2階のベランダに立って外を眺めると雪がちらついている。
もう冬だな……。
ベランダには結界を張っており、雪や冷たい空気は入ってこない。
それに魔法の存在を知ってからだと1年半くらいか。
俺は眼下に並ぶ配下を睥睨しながらこの1年と半年を思い出していた。
「「「「「「「魔王様万歳!」」」」」」」
魔王ってなんだよ……。
なんでそんなことになっている。
「頑張って綺麗にしたかいがあったです!」
「お前かっ!!」
「ひえっ!? でも渡さんがそうしろって言ったんじゃないですかっ!?」
「む、むぅ、そういえばそうだったような……」
「ひどいです……」
「い、いや、すまん……?」
え、つまりあれか?
こいつら全員うちに襲撃かけてきたやつらってことか?
何人いるんだよ……。
雪で白く染まっていたはずの庭は黒に染まっている。
黒い帽子に黒いマントを羽織った怪しい連中がびっちりと並んでおり地面が見えない状態だったのだ。
そして彼らが口をそろえて魔王様万歳と合唱している。
「で、これ何の集まり?」
「おいおい、忘れたのかい? 今日集会の日だろう?」
「……、あっ……」
なんかそんなこともあったね。
秘密結社のダミー企業の社長業で忙しくてすっかり忘れていた。
「それにしても魔王か。なかなか素敵な呼び名だね?」
「やめてくれ……」
「君の弟子達は四天王と呼ばれてるそうだよ」
「朱子あたりが喜びそうだなぁ……」
未だに彼女の病気は完治していないようだからね。
「でも集会ってあくまで日本支部だけだろ?」
「まぁそうなんだけど、別に来ちゃダメってわけじゃないからね。来たい人は来てもいいわけで」
「それで、これ?」
「だねぇ」
雪が降る中、うれしそうな顔をこちらに向けている面々。
うわぁ……としか思えない。
「とりあえず、解散!!」
「ええ……」
「こんな大人数収容できる建物なんぞないわっ!」
「そりゃそうか。彼らは可哀想だけど帰ってもらうしかないね」
「そういうこと」
さて、そんじゃ集会に行きますか。
はぁ……、今日は久しぶりに休みだと思ったんだけどなぁ。
会場に着き、周囲を見渡す。
半年前に比べてかなり賑やかだ。
それもそのはず、中立派だけではなく保守派や革新派の者達もいるのだから。
いや、保守派や革新派だった者というべきか。
各派閥は既に組織としての体を失い、俺達中立派にほとんど吸収されているからな。
日本支部は完全に統一出来たとも言えるだろう。
まぁ、またしばらくしたら分裂するんだろうけど。
人が集まると意見の対立は絶対出るしね。
それを抑えようと思えば圧倒的な力が必要だ。
今は俺が居るから纏まっているけれど、要を失った時が怖いね。
後後のことをちゃんと考えて行動しなきゃなぁ。
ああめんどくさい……。
「おおっ! 朱雀様だ!」
「本当だ! すべてを焼き焦がす紅蓮の炎の朱雀様よ!!」
何やら不穏な言葉が聞こえ、慌ててそちらを見る。
そこには紅いマスクに紅いマントを羽織った朱子がいた……。
無い胸を張って堂々と赤い絨毯の上を歩いている。
えーっと……。
重症化した?
「ああ! 青龍様もいらっしゃいましたわっ!」
朱子に続き葵が扉から会場へ入ってくる。
その姿は蒼いマスクに蒼のマントだ。
しかし恥ずかしいようでそのマスクの下は赤く染まっている。
ああ、朱子の巻き添えにでもなったのな。
どんまい。
「白虎様と玄武様も来ているぞ!!」
同じくマスクの下に真っ赤な顔を隠した彩と志保が会場入りした。
うんうん、よく似合ってるぞ!
俺は絶対真似したくないけど!
あーでもマジ面白いな。
当事者には絶対なりたくないが、見ている分には最高だ。
「四天王の方々がそろっているということは魔王様もおいでになられるのですよね?」
そんな不吉な声が聞こえる。
……、やべぇ。
絶対隠形は解除できない。
あの4人に混ざってパーティーに参加とかただの罰ゲームだ。
俺はそっと会場を抜け出そうとし……。
「捕縛!」
朱子の魔法に捕まった。
おい、師匠に対してどういうつもりだ?
「魔王様! ささ! こちらへ!」
こちらへ! じゃねーよ!!
「いや、俺は、その……」
「魔王様だ!」
「魔王様よ!!」
「魔王様万歳!!」
「魔王様万歳!!」
「魔王様万歳!!」
会場に魔王様万歳という声が響き渡る。
くそ……、これは前に出ないと収まりがつかないか……。
「静かにせよ……」
ぐああああああ!!!
やべぇ!
これめっちゃはずい!!
「「「「「ははっ!!」」」」」
会場が一瞬で静寂に包まれる。
カツッカツッカツッ……。
あえて絨毯のない場所を歩き音を出しながら会場の奥へ向かう。
そして一段上がった台に上り俺は会場を睥睨する。
左右には朱子達四天王(笑)を並べ、威風堂々と。
そして俺の威厳(爆笑)のこもった大演説(核爆)が開始されたのだった。
もう二度とこんなことしない……。
「かっこよかったで?」
「ですです!」
「だからはよでてきてやー」
「でてくるですー!」
うるさい黙れ!
それから3日間、俺は自室に引きこもった。