【第2話 グリモワール、死す】
「踊れ踊れ踊れー!」
「楽しい夢を、プレゼントー」
「放てっ!!」
「疾っ!」
おおぅ……。
君達自分の魔力じゃないからって、もう少し遠慮というものをですね……。
もうすぐ冬だというのに、未だに週末は遠征だった。
たまには違うことをしたいなぁ……。
彼女達と毎週末遠征を繰り返すうち、俺の魔力もかなり増えている。
だからそこまで問題ないとはいえ、ここまで連続で魔力を吸い出されると少しつらい。
というか俺の魔力はどこまで伸びるんだ?
すでに霧島達の100倍以上となっている。
そのうち特異点とかになって消滅とかしないよな……。
少し怖い。
「元気ね。……っ!? 危ないっ!」
「うわっ!?」
バスンッ!
そんなことを考えていると急にグリに突き飛ばされ、俺は転んでしまう。
「痛てて……、グリ、急になんだよ?」
「渡……、だいじょう……ぶ……?」
「大丈夫って、何が……。お、おい……?」
なん……で……?
え、おい、嘘だろ……?
こちらを向いて苦しそうに笑うグリ。
その胸元に目を向けると、本来彼女の陰になり見えないはずの後ろの景色が見えた……。
「ぶじで、よか……った……」
「よかったじゃねえよ!? なんでっ!?」
「そこから、動いちゃ、だめ……。アルの障壁、貫くことが出来る魔法があったなんて、ね……」
なんで、なんでだよ……?
「だまってろ! すぐに治癒を!」
「むだ、よ……、わたし、には……いみ……ない……」
バスンッ!
再び障壁を貫通する音が響き、グリの足が吹き飛ぶ。
トスン……。
彼女の軽い体が地面に落ちる。
バスンッ!
もう、彼女は、しゃべることはできない。
そのための機能を持つところがなくなってしまったから。
「グリ!? くそがあああああああ!!!!」
頭の中が紅く染まる。
くそが、クソが、糞が!!!!
そこから動くな?
うるさい!
周囲の時間が徐々に遅くなり始める。
バスン!
グリの体に穴が増える。
そしてグリの体が光の塵となり、消えていった……。
「……、そこか……」
覚悟は、できているんだろうな……。
俺は怒りに震えながら立ち上がる。
ガキンッ!
物陰から出た俺に魔法が飛んできた。
グリを貫いた魔法だ。
貫通に特化した魔法だが、そうと分かっていれば対処のしようはいくらでもある。
逸らす、避ける、消す、いろいろあるが、俺はあえて正面から受け止めた。
敵が動揺したことが手に取るようにわかる。
ははは、怯えろ、恐慌しろ、慈悲を請え!
命乞いをしろ!
そしてその頭を無慈悲に消し飛ばしてやるよ!!
ガキンッ! ガキンッ!!
そうか、それがお前らの答えだな?
いいだろう、潰してやるよ!!
魔力を右手へ収束させる。
そして……。
スパンッ!!
俺の頭から小気味の好い音が響いた。
「なっ!?」
「何やろうとしてるのよ」
「へ……?」
「ちょっと! 制御手放さない!!」
「うわっと!?」
驚き、思わず魔法の制御を手放しそうになる。
そりゃそうだろう。
目の前で死んだと思ったグリが、ハリセン片手にそこにいたのだから。
「ふー、ふー……」
「もぅ、気をつけなさい?」
「あ、ああ……。でも、なんで……?」
「なんでって何がよ」
「いや、今、グリ、死んだよね……?」
幽霊でも見ているのだろうか……?
魔法があるのだから幽霊がいてもおかしくないが……。
「はぁ……? ……、ああ、そういうこと」
「え?」
「渡、私は何?」
「何って、グリでしょ?」
ほかに何だというのだ。
実は名前が違いましたーとか?
「うん、そうだけど、私は魔導書よ? そしてこの体は魔力で作ったもので、本体は渡が持ってるでしょ」
「……。あっ……」
「ふふ、何、そんなにショックだった?」
「……、うるさいっ!!」
「ちょっと!?」
俺は暴れるグリを無理やり抱きしめる。
「本当に、心配した。怖かった。悲しかった」
「……」
「無茶、しないでくれ……」
「……、私は死なないわ。不死身ですもの」
「バカッ! そういう問題じゃない!!」
「バカって……。ううん、ごめんなさい……」
グリの体から力が抜ける。
絡み合う視線、頬にかかる吐息。
そして……。
「「「「「「……」」」」」」
俺達を見つめる12個の瞳。
「みせもんじゃねーぞ!!」
「ええやん、減るもんやなし!」
「ですですー!」
「ちょっとドキドキしました」
「わ、私は見てませんよ!?」
「いやいや、思いっきりガン見してたじゃん!」
「してたー」
……。
「もうちょっと空気読もうか?」
「戦場でラブコメやるのは空気読んでるんか?」
「うぐっ!」
アルの的確な突っ込みに俺は何も言えなくなってしまったのだった。
「というか敵は?」
「んー、うちの障壁抜いてきた魔法やけどな。あれ、生贄を使った魔法らしくてな」
「つまり?」
「敵本陣には誰もおらんかった」
「そう、か……」
自らを犠牲に捧げてまで俺達を葬ろうとしたのか……。
恐ろしいな。
俺たちは別に命まではとらないって知っているだろうに。
魔法は使い方次第とはいえ、一般人には抗う手段のない力だ。
管理されていない、抵抗する手段のない力が溢れている。
そう思うと危険に思えてくる。
少し考えなきゃいけないかな。
「ふんふ~ん♪」
「……」
帰りの飛行機では上機嫌のグリを俺は膝に乗せたまま動けないでいた。
「だって心配そうな顔するんだもの」
膝の上にいないからって心配というわけでは……。
だが、その重さが安心感を与えてくれるのは事実なわけで。
俺はグリの前に回した腕に黙って力を入れるのだった。
「ぐえっ……」
なんか変な声がした気がしたが俺は気にせず寝ることにする。
それじゃまた明日。
「ま、まって……、く、苦しい……」
……、ほんの少しだけ緩めてやろう。
べ、別に気を使ったってわけじゃないんだからねっ!
ずっと書きたかったというか、書き始めたころに作ってた話がようやく投稿できました。
嗚呼満足w