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【第32話 弟子と修行の一か月】

「お風呂御馳走様でしたっ!」

「すごかったですー」


 お客様2人は風呂を堪能し、満足げに感想を俺に告げた。

 その手には牛乳瓶が握られており、それも満足感を上げることに一役立ったようだ。


「うちの自慢の風呂だからな。洞窟風呂は最高だよな」


 リビングのソファーでテレビを見ながら俺は頷く。

 テレビでは温泉特集をやっていたが、どの温泉もうちには敵うまい。


「ですね、それにミストサウナも素敵でした」

「寝湯を楽しめなかったのが残念ー」

「うん?」

「そのまま寝落ちしちゃいそうだったんですよ」

「ああ、そういうこと。まぁ明日もあるしね」

「ですねー」


 2人はあくびを噛み殺しながら席へと着く。


「今日は君達の歓迎メニューだ。存分に味わってくれ」

「ありがとうございますっ!」

「楽しみだったんですよー」


 ふふ、今日の為に各地から食材を取り寄せたからな。

 ……、まぁ調理するのは俺じゃないし実際に手配したのも市野谷達だけど。


「ラッキーやったなぁ!」

「ですですっ!」

「今日は鱧ですか」

「湯引き、美味しいですよね」

「クロノ、野菜もちゃんと食べるのよ」

「うう……、要らないです……」


 久しぶりに食べた気がするが、美味いな。

 ふわっとした食感と淡白な味わいが夏の暑さを忘れさせてくれる。

 梅の爽やかな香りが鼻に抜け、今日の疲れを癒してくれた。

 うん、実にすばらしいな。


「食後はパジャマパーティーですので」

「ん、お菓子とかは棚にあるの適当に持って行ってくれ」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「ははっ、そうそう寝る前には歯磨き忘れるなよ?」

「もう子供じゃありませんのに……」

「師匠、過保護ですよー」

「ん、そうか、すまんな」


 そうだよなぁ、つい癖が出てしまった。


「それでは失礼しますね」

「また明日ー」


 4人がリビングから出て行き、自分達の部屋に行ったのを確認すると俺は携帯電話を取り出した。


「と言う訳なんだけど、これでどうするかね」

「う~ん、さっそく迷惑かけて申し訳ないんだけど、うまくやれとしか……」


 霧島ぁ……。

 うまくやれってどうするのさ。

 全員捕まえちゃって今は急遽増設した地下のお部屋でお休み中だけど、追い返すだけにしておいた方がよかっただろうか。


「見方を変えればラッキーだったんじゃないかな?」

「そうか?」

「君が盟主になることに内心反対していた連中を一網打尽に出来たわけだし」

「いやいや、訪問客で全員ってわけじゃないだろ」

「それなら何人か離してみたら?」

「そうするかなぁ」


 そういう訳で念入りに綺麗にした訪問客を何人か解放することにした。


「それじゃ頼むよ」

「お任せください!」

「我らの命に代えても根っこを掴んで見せましょう!」

「ああ、うん、適当にね」


 一部の拠点が壊滅したと霧島から連絡を受けたのはそれから一週間後のことだった。

 ……、まぁいいか。



 翌日、朝食を終えて庭に出る。

 今日もいい天気で絶好の修行日和と言えよう。


「それじゃ、魔法について教えるぞー」

「はいっ!!」

「お願いしますー!」


 魔法部の面々、4人を前に魔法理論について説明をする。

 この日の為にグリからいろいろ教わってまとめた成果を発表したのだ。

 少し緊張したがうまくやれたと思う。


「こんなところかな、それじゃ早速魔法を授けることになるわけだけど」

「結構時間かかりますよね? その間私達は何してればいいですか?」

「そうだなぁ、朱子と葵にもついでに魔法いくつか渡しとくよ」

「おおっ!?」

「いいのですか?」

「うん、まぁね」


 ちょっと気になることもあるしな。

 朱子に渡してる魔法は確か感知、守護、逐電だったか?

 回復系が無いからそれにするか。

 葵は既にいくつか魔法もっていたと思ったけど、まぁ仲間内で差が付くのはよくないから彼女にも同じ魔法を授けるとするか。


「傷を回復する魔法を授けることにする。ちょっとした骨折くらいなら治せるだろうけど無茶はするなよ」

「はいっ」

「葵にも回復の他に感知、守護、逐電を渡すから」

「わかりました」

「それじゃやるかー」


 俺はノートを何冊か取り出す。


「えっと、どうすればいいんですか?」

「やっぱり呪文唱えたりするんですー?」


 キラキラした目で俺を見つめてくる2人。

 そうだよね、初めての魔法だもんな。


「直接肉体を接触させる必要があるんだけど」

「「え? ……えっ!?」」


 ボンッと言う表現が正しいくらい一瞬で顔を真っ赤にさせる2人に俺は慌てて言葉を続ける。


「ああっ! 勘違いするなよ、手を繋ぐだけで良いんだ」

「あ、ああ、そ、そうですよねっ!?」

「驚いたー……」

「何考えてたのかなー?」

「とっきー先輩、からかわないで下さいよ……」

「別に何も考えてないしー?」

「ほ~?」


 ニヤニヤ笑いながら後輩をからかう朱子だが、彼女も似たような状況だったのは言わない方が良いだろうなぁ。

 見事にブーメランになるだろうし。


「ほれ、さっさとやるぞ。結構時間かかるんだからな」

「は~い」

「でもこれ、外でやる必要あるのですか?」

「……、外の方が気持ちいいじゃん?」

「はぁ」


 何も考えていなかったわけではない。決して。


「ほれ、そこに椅子出すから」

「おおっ! これが魔法ですかっ!」

「ん、んん、まぁそんなとこだ」


 魔法じゃなくて迷宮のメニューから出しただけだけど黙っとこう。

 説明めんどくさいし、これは俺の切り札でもあるしね。


 朱子と葵は俺の腕に自分の腕をからめ、山岡さんと前田さんは俺の掌を握る。

 う~ん、両手に花束って感じだ。


 柔らかい感触と暖かさ、そして漂ういい香り。

 いかん……、理性が溶けて……っと!

 危ない危ない、理性が溶けきる前にさっさとやるとしよう。

 とは言っても今回もグリが全て行ってくれるわけだが。


 そして1時間後。


「いいわよ、渡」

「ん、それじゃ行くけど大丈夫か?」

「ふぇあっ……?」

「ん、んぅ……」

「……」

「ひゃいっ!?」


 まぁそうだよね。

 4人ともパスをつなげる作業を開始してから10分くらいで寝落ちしてしまっていたのだった。


 ん? 俺?

 その寝顔を堪能していたよ。


「おはよ、パスは繋がったからこれから魔法を授ける」

「「「「は、はいっ!」」」」

「力抜いてなー」


 俺は魔力を操作しノートに魔法を吸い込ませていった。

 4人分、13個の魔法をまとめて作ったので流石にちょっとふらつく。


「おおっ、これが魔法ですかっ」

「すごい……」

「魔法を持ってないとわからない感覚だよな」

「ですねっ。あ、そういえばこれからは師匠って呼んだ方が良いですか?」

「お師匠様ー」

「ん? んー、好きに呼んでくれていいよ」

「そうですか? それじゃ、マスターって呼びますねっ! 私の事は彩って呼んで下さいっ!」

「私はお師匠様って呼ぶー。私は志保って呼んでー」

「あいよー」



 それからの一か月はなかなかに楽しい物だった。

 今度は一緒にプールで遊んだり、水着着用だが一緒に温泉に入ったり。

 そして魔法の修行と毎日が充実していたと思う。


 だが、彼女達は試練から目を背けていたのだ。

 そう、夏休みの宿題と言う試練から……。


「「「「やばいいいい!!!」」」」


 葵ですらそんな言い方をするくらいだ。

 可愛そうに、だが俺は何の力にもなれないんだ。

 すまんな。


「余裕そうですね……」

「なんかはらたつー……」


 彩と志保から非難の眼差しを浴びるが、逆にそれが気持ちいい。

 ああ、ビバ高等遊民生活っ!


「ああっ!? もうほんとに終わんないっ!!」

「自由研究って今から何するのよ!?」

「何かよさげな本はないー?」

「これなんてどうかしら」

「それ魔法書っ!」


 4人の弟子達は夏休みの最後を宿題の処理に費やしたのだった。


第六章 完

第6章完結となります。

次、最終章です。

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