表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/114

【第28話 隠し事は続かない】

「ごめんなさい……、ばれちゃいました……」

「へ?」


 学校からの帰り道、妙に皆静かだなと思っていたら急に朱子がそんなことを言いだした。

 一体何がばれたというのだろうか。

 俺は別にばれて困るようなことは無いと思うのだが。


「申し訳ないでござる……」


 そんなことを考えていると急に黒い影が現れる。

 ほっかむりをかぶった芋虫、五右衛門だ。


「……ちょ!?」


 いや、いやいやいや!?

 なんでここで出てくるっ!?

 一般人もいるんだぞ!?

 パニックになりかねないじゃないか!


「「……」」

「あ、あれ……?」


 おかしい。

 明らかに普通じゃない生物が急に現れて、しかもそれが喋っているというのに山岡さんも前田さんも特に反応せず沈黙を守っている。

 いや、なんとなく気まずそうな表情をして視線を逸らしているから無反応と言うわけではないか。


「えっと、どういうこと?」

「その、ですね……」


 朱子曰く、今日は午前中授業だったらしい。

 そして午後からは部活だったのだが、弁当を忘れてしまったそうだ。

 それで五右衛門が弁当を学校に持って行ったのはいいけれど、普段は普通に室内を闊歩しているのでつい何も気にせず部屋に入ってしまったそうだ。

 当然部室に居た山岡さんも前田さんもその姿を見てしまったわけで。

 部室だったので他に誰も居なかったのは不幸中の幸いだったと言えるだろうか。


「それで説明せざるを得なくて……」

「油断していたでござる……」


 いや、玄関や廊下で誰かに見られてるだろ、それ。


「一応気配は隠して移動していたゆえ……」

「そうか……」


 う、うん、しかしこれどうしようね……。


「えっと、ちゃんと秘密にしますよ? 普段送り迎えもお願いしちゃってますし」

「おかげで毎日1時間長く寝てられるんですよねー」

「ああ、うん、そうしてもらえると助かる」


 言いふらしたところで誰も信じないとは思うけれど、言わないでくれるならありがたい。


「その代りと言っては何なんですけど、私達にも魔法を教えてもらえません?」

「私も魔法使いたいー」

「……は?」


 いや、当然と言えば当然か。

 そもそもこの娘達は魔法部に所属しているのだ。

 当然、本物に興味があるだろう。

 オカルトに関わるとその後もそれ関連のトラブルに巻き込まれやすくなるし。

 とはいえ、既に関わっちゃってるしなぁ。

 でも簡単に魔法を渡すわけには……。


「しかしだなぁ、魔法を使えるようになるにはそれなりに時間がかかるんだぞ? 部活みたいに1日2~3時間やったところで意味は無いし」


 魔力を立ちくらみがするほど使って回復して、また使ってと繰り返し慣れていく必要がある。

 1日2~3時間程度では練習にすらならないだろう。

 朱子みたいに丸1日指導して練習の方法を覚え、それを反復する必要がある。

 学生には少々難しかろう。


「大丈夫ですよ!」

「だねー」


 その時俺は失念していたのだ。

 学生には、特別な時間があるということを。




「それで、夏休み中はずっと居ることになったのね?」

「すまん……」


 その日の夜、俺達はリビングにてグリ達に事情を話していた。

 五右衛門は俺が直接管理している魔法だからな。

 その責は俺にあると言えよう。


「別に謝ることじゃないけれど、ちょっと気を引き締めないとね」


 学生には夏休みがあり、そして夏休みの1週間前からは基本的に午前中授業となる。

 俺はそのことをすっかり忘れていたのだった。


「あの、どうしても無理な様だったら断りますよ……?」


 そう朱子は言ってくれるが、そうした場合彼女達の関係は悪化することになるだろう。

 せっかく出来た友達だ。

 それを手放させるなんて俺にはできない。


「いや、ちょっと自分の迂闊さに凹んでいただけだから。あまり気にするな」

「すみません……」


 そういって朱子は俯いてしまう。

 あー、うー、参ったなぁ。


「朱子さん、あまり気にしない方が良いですよ。それに合宿自体は元々予定していたのですし、魔法の存在を隠さなくてよくなったということは逆によかったかもしれませんし」


 葵の言うことも尤もなんだよな。

 何も考えずにプールとか作ったけど、どうやって管理しているのか魔法とか無しでは説明が付かないし。

 それに屋台の店員は魔法にやらせるつもりだったんだ。

 今回バレていなかったらその時にバレていただろう。

 我ながら間抜けすぎる。


「本当に申し訳ないでござる……」


 そう言って項垂れる五右衛門……、項垂れてるんだよな?

 床に伸びて寝てるようにしか見えないけど。


「いや、俺の指示が悪かったんだ。気にするな」

「弁当を持っていくように指示をしたのはクロノ殿でござるゆえ……」


 あー、うん、まぁ俺は聞いてなかったけどね。


「それでもだ。クロノは俺の物だしな」

「それってプロポーズです!?」


 余計な茶々入れをするクロノの口を手でふさぐと話を続ける。

 ええい、暴れるでないっ!

 暴れるクロノの顔を両手で抑え込む。

 まだ何か言っているがとりあえずこれで大丈夫か。


「五右衛門、お前もだ。だからすべての責は俺にある」

「お館様……っ!!」


 そう言うと五右衛門の体から体液が噴き出る。

 え、なにこれ、気持ち悪いんですけど……。


「うう……、お館様の優しさに涙が止まらないでござる……」


 あ、これ涙なんだ……。

 気持ち悪いとか言ってごめん、でも気持ち悪いわ。

 本人には言えないけど。


「うっわ、気持ち悪いなー」


 アル……。


「っ! す、すまないでござる! 少し失礼するでござる!」


 そう言って五右衛門はどこかに消えた。

 きっと風呂にでも入っているのだろう。

 ん? あれクロノが静かだな。

 そう思って手元を見るとなぜか痙攣していた。


「あ……」


 しまった、ずっと口塞いでた。


「はぁっはぁっ……、なんか……、新しい……、世界が……、見えたです……」


 ちょっとまって、なんでそんな幸せそうな顔してるんですか。

 そっちの世界の扉は開いちゃだめですよ!



 その場の話し合いでとりあえず朱子に渡した魔法を再度作成しそれを渡すことになった。

 ううん、また弟子が出来たことになるのか。

 めんどくさいことにならなければいいのだが。


 そう考えながら窓から空を見ると天の川が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ