【第27話 お客様の訪問です】
夜、朱子と葵を寝室へ送りリビングに戻ってきた俺は少し溜息をつく。
彼女達には知らせてはいないが、地味にめんどくさいことになっていたのだ。
「侵入者さん、いらっしゃ~い」
某テレビ番組のオープニングを真似してなんとなく呟いてみる。
中立派の代表となって1週間。
今日も訪問客が満員御礼だ。
招かれざる客ではあるが。
「これで何人目や……」
「今日だけで3人目です……」
クロノとアルが深い溜息を吐く。
最初の頃は生贄だの晩餐だのテンションが高かった彼女達も連日続く来客に辟易しているらしい。
「まぁ、壁際で殆ど全員弾いてるから問題ないだろ」
「それや! それやねん!」
「ですです!!」
そう、殆どの侵入者達は壁を越えることすら出来ずに捕まり、|綺麗に<せんのう>されていたのだった。
「もうちょっと歯ごたえ有る奴はおらんのかいなっ!」
「つまんないです!!」
稀に壁を突破できる侵入者もいるが、それも敷地内へ着地と同時にナニカに囚われてしまっていた。
ちらっと窓から外を見るが月に照らされている庭には特に何かがあるようには見えない。
しかし見えない何かがそこに潜んでいるらしい。
……、俺達は大丈夫なんだよな?
「流石に身内に間違って手を出すほどボケちゃいないわよ」
グリが不服そうに呟く。
「すまんすまん。しかし、ここまで続くと流石にしんどいな。いつ終わるんだか」
「相手も無限にいるわけでもないし、いい加減時間を空けるんじゃないかしら」
「送り出した味方が片っ端からやられていってるしな。よほど馬鹿じゃなければ止めるか」
「ええ、手柄を焦った連中が先走っただけみたいだしね」
壁を突破出来た侵入者は、綺麗にした際に今までの事を忘れさせるのではなくこちらに転向させて返しているからな。
向こうの重要情報も入って来るようになっていた。
その情報によると送り出した諜報員がことごとく行方不明になってしまい、2~3人帰ってきた者たちも屋敷の事を一切覚えていなかったことに相手さんはかなり焦っているようだった。
中途半端な人員を送り込んでも被害が増えるだけなので近い内に最大戦力を送り込み、それが失敗したら一旦手を引こうと考えているらしい。
「まぁその情報も筒抜けなわけだが」
「哀れですー!」
「まぁ仕方ないわな」
もうすぐこの騒動も一段落しそうだし、そうしたら霧島にちょっと文句を言ってやらなきゃな。
いや、それに気付かなかった俺も悪いか……。
はぁ、仕方ないな……。
「それにしても、侵入者が保守派ばっかりってのは意外だったな。てっきり革新派の方が活発に動くと思っていたんだが」
「そういえばそうね。少し不気味だわ」
革新派の名にふさわしくなく、彼らの諜報員は1人も送り込まれてきていなかった。
助かるは助かるのだが、何か狙っているようで気味が悪い。
「後で霧島に聞いてみるわ」
「うん、ちょっと気になるしお願いね」
「今日のところはもう大丈夫みたいだし寝るとしよう」
「本番も近いしね。気を引き締めて行かないと」
そして3日後。
侵入者はやはりあっさり捕まった。
もっとも今までの侵入者は庭に足を突くと同時に囚われていたのに、彼は何と10歩も庭を進んだのだ。
流石最大戦力と言うだけはある。
俺の目から見たら何やら怪しげな踊りを踊っていたように見えたが、それでも10歩は動けたのだ。
これは褒めてやらねばなるまい。
「なかなか捕らえられなくてちょっと焦ったけど、なんてことはないわね」
「ああ、それで変な動きをしていたのか」
こちらの動きを読んで、何とか躱した結果踊っているように見えたらしい。
さてと、彼が最後の訪問客とのことだしお土産を持って帰ってもらうとしよう。
以前白山羊の後ろにいた連中に送ったものと同じものだ。
気に入ってもらえるといいんだが。
「相変わらずゲスいことするです……」
「流石にドン引きやで……」
何を言う。
こっちにちょっかい掛けてくるのが悪いんだ。
それに日常生活に何ら不都合があるわけでもない。
ちょっと魔法が使いづらくなるかもしれないだけだというのに。
害を成そうとして失敗し、自分達はノーペナルティで済むなんて甘い考えで居られても困るしね。
これでも一応中立派の代表だから舐められるわけにはいかないだろうし。
「そんなわけで、君、これを戦利品として持ち帰るといいよ」
「ハイッ! アリガトウゴザイマス」
「うんうん、それじゃさようなら」
俺は彼をにこやかに見送ると来週から始まる魔法部の合宿に思いをはせるのだった。
翌日、俺は霧島に侵入者の話を聞かせると彼はすぐにうちに来ると言って電話を切ってしまった。
訝しみながら彼の訪問を待つこと3時間。
暇なので駅へ迎えに来てしまったぜ。
夏の日差しが少しきつい。
漸く電車が駅へと到着し、扉が開く。
扉が開くと同時に黒い影が駅のホームを疾走するのが見えた。
「無事だったかい!?」
「よお、ひさしぶり、でもないか」
ずいぶん焦っている様子だ。
こちらの話を聞かずに飛び出したみたいだったしなぁ。
ちょっと落ち着けよな。
「まさかそんなにすぐに襲撃があるなんて……。すまない、油断していた……」
「ん、まぁ気にするな。皆撃退したからな」
「皆って……、もしかして複数の襲撃が?」
「ああ、あれから毎日毎日しつこいくらいにな」
とてもうっとうしかった。
そういったニュアンスをこめて俺は肩をすくめる。
「よく無事だったね……」
「相手が大したこと無かったみたいでさ」
「そう、か。それならよかった」
青い顔で霧島がそういうが、ずいぶんと心配していた様で少し申し訳なくなってくる。
話の流れを変えようと、侵入者に渡したプレゼントを説明すると霧島は口元を引きつらせながら一歩後ずさりしたのであった。
せっかく実演して見せたというのに失礼な奴め。
「しかし、とんでもない魔法だね。これは君が?」
「ああ、暇だったからちょっと作ってみたんだ」
「暇だから、ね……。これ、禁呪レベルだよ」
「禁呪?」
何やら中二ワードが聞こえた気がしたがどういう意味合いなのだろうか。
「危険すぎて使用禁止になるレベルってことさ」
「おいおい、そこまで強力なもんじゃないだろ」
「いやいや、対象の魔力路を破壊する魔法なんて洒落にならないよ。しかもこれ、範囲発動タイプだよね?」
相手がどこにいるか詳細にはわからないからな。
対象を発動地点から半径30m以内全てとしてみたんだよね。
その代り発動するまで5秒くらいかかるし、簡単にレジストされるようになっているが嫌がらせには丁度いいだろう。
「鹵獲品とかに混ぜられて不意打ちでやられたらまずレジストは間に合わないだろうね。そしてこの魔法、以前も使ったことがあるって?」
「ああ、白山羊の時にな」
「それでか……」
「うん?」
「最近革新派が沈黙している理由、たぶんそれだよ」
「おおぅ?」
「保守派も今回かなりのダメージを受けただろう」
「20人近いの侵入者を潰してるしな」
俺がそういうと霧島は頭を抱えて蹲ってしまった。
おいおい、大丈夫か。
頭痛いなら優しさが半分だけの薬があるけど。
「はは……、笑うしかないね」
「別に俺達に不利益は無いんだから良いんじゃないか?」
「だといいんだけど……。変なのに目を付けられないことを祈るばかりだよ」
「その時はその時さ。せっかく来たんだ、うちでお茶の一杯でも飲んで行けよ」
「ああ、そうさせてもらおうかな……」
虚ろな目をした霧島を乗せた車は、緑の街道を屋敷に向かってひた走るのであった。
とうとう投稿数が100部となりました。
話数で言うと閑話が9話と設定集が1話あるので90部ですが。
ともかくどうにかここまで来れました。
これも皆様のブクマ、評価、感想による支援のおかげでございます。
あともう少しだけ、今しばらくお付き合いいただければと思います。