【第1話 やればできる】
初投稿、いってみよー。
*2016年11月6日 改稿
冒頭に文章追加、全体に振り仮名追加しました。
「責任、取ってくれるよね?」
まさか俺がそんな台詞を言われる日が来るなんて。
少し前までは想像もしなかった。
一体どうしてこんなことになってしまったんだろう。
俺は額に手を当ててここまでのことを思い返す。
――門を開くとそこは草原だった。
なんてどこぞの有名小説の冒頭をもじりながら俺は驚いていた。
「すごい草だな……」
都内から電車で2時間バスで1時間ゆられ、さらにバス停から歩いて1時間の場所にその豪邸はあった。
1か月ほど前、祖父より生前贈与で屋敷を譲り受けるという話を受けて俺、敷紙 渡は8年間務めてきた会社に三下り半を叩きつけ気分爽快に新天地へやってきた。
今思えば少々早まったかもしれない。
社内ニートで暇を持て余し、辛くなってきていたところに降って湧いてきた浮いた話。
これに思わず飛びついてしまったのだ。
「まぁ、こんな豪邸に住んで悠々自適に生活できるならそれも悪くないだろ」
ひとり門前で呟きながら周りを見渡す。
一時期は避暑地として開発され、賑わっていたらしいがそれも今は昔。
閑散とした街並みを湿気った風が撫でていた。
最寄りのコンビニは9時開店17時閉店とコンビニとは名ばかりの雑貨屋で、スーパーはとっくの昔に撤退してた。
本当に早まったことをしてしまったかもしれない……。
そう思うも既に決まったことはもうどうしようもない。
俺は気分を入れ替えて門の中へ一歩を踏み出した。
扉を開くとそこは塵国だった。
と、先ほどと似たようなことを考えながらリュックからタオルを取りだしマスクの代わりとする。
門を開いた時点で想像はしていたが、少し考えが甘かったようだ。
そりゃそうだよね、敷地内雑草だらけだもんね。
屋敷の中は推して知るべしだよね。
「くそっ!」
世界中を飛び回り巨額な資財を作り出した曾祖父が晩年過ごした館は、少なく見積もっても数年は人の出入りがなかった様で
屋敷の中を見て俺は悪態をつきつつ今日の寝床の確保を行うべく掃除を始めたのだった。
――1週間かけて何とか自分が生活するスペースの掃除は済んだもののまだまだ屋敷の掃除は終わっていない。
それに何を考えて作ったのかわからない広すぎる庭も一部洗濯物を干すスペースだけ草刈りが終わっている程度だし、プールは沼となっていた。
……見なかったことにしよう。
開くと地下へと続く階段があった扉はしばらく封印だ。
別館? なにそれ、美味しいの?
広い風呂で足を延ばしつつ考える。
「何とか生活できるスペースは確保したし、屋敷と一緒にまとまったお金も貰えたし、細々と生活すれば一生遊んで暮らせるな」
「これで高等遊民生活が開始できると思うと楽しみだぜ」
湯を手で掬い、明日はどこの掃除をしようかと思いながら目を閉じた。
悠々自適な高等遊民生活をおくるに当たり、必要なものとはなんだろうか。
時間、健康、お金、それらはもちろん必要だ。
ここに俺は書斎が必要だと考える。
秘密基地的な書斎、心が惹かれるよな。
そんな考えの元、今日は書斎の掃除をすることに決めた。
扉を開くとそこは書庫だった。
うん、書庫だ。
書斎なんて小さなもんじゃない。
この屋敷のどの部屋よりも広い、天井まで聳え立った本棚が林立する書庫がそこにはあった。
「すげえ……」
俺は若干テンションを上げつつ換気を行うため窓を開けると湿気を帯びた風が頬を撫でる。
ちょっとまずったかな?
書庫の管理の仕方なんてよくわからないが、かび臭い空気より湿気った空気の方がまだましであろう。
引っ越してきて1週間、1度も晴れた日はなかったから仕方がないのだ。
そう思い返し振り返ると天井まである本棚が目に入る。
これ全部か……。
その全てを拭かなければいけないと考えると上がっていたテンションが下がって行った。
先に書庫に備え付けられた机と椅子を雑巾で拭い、書庫へ向かうが本棚は昨日にでも掃除がされたかのように塵ひとつ落ちていなかった。
あれ?どういうことだ?
俺が訝しんでいると書庫の奥の方から物音が聞こえた。
「誰かいるのか!?」
誰何するも返事がない。
まさか泥棒か?
警戒しながら書庫の奥へと進むが誰も居ないようだった。
気のせいか……?
しかし、今まで誰も出入りしていなかったはずなのにここの本棚だけ綺麗になっている……。
出入りがあったなら入口にその痕跡があるはずだがなかったし……。
もしかしてどこかに秘密の通路があったりするのか?
横に目をやると本棚から抜けかけている一冊の本がそこにはあった。
これか?
「定番だとこの本を押し込むと何かしらのギミックが作動するとかなんだが」
俺はつぶやきながら本を本棚へ押し込んだ。
しかし何も起こらなかった。
「まぁそりゃそうだよな。ちょっと期待したんだが」
俺は少年の心を少々裏切られつつ、何ともなしにその本を引き出して手に取ろうとしたがするっと手から滑り落ちていった。
「ん!?」
本が床に落ちた瞬間突風が吹き、俺は思わず目をつぶる。
「一体何が……?」
眼を再び開くと、目の前には小高い丘、青い空、そして白いテーブルと椅子に腰かける幼女が俺を見て微笑んでいた。
幼女は言う。
「責任、取ってくれるよね?」
俺は答える。
「お断りします」