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またまた大分長くなってしまった…本当は5000字以下に抑えたいのですが、書きたいことが膨らむと際限なく文字数が増えてしまいます。

 順番が逆になってしまったが、もう少し世界情勢についても知りたい。

 『アレクサンドリナ=ヴィクター』の人生史を追うことで大方の世界史の流れが理解できるというのも恐ろしい話ではあるが、それだけでは漏れも出てくる。とはいえ、それら全てを今語りつくしてはいくら時間があっても足りないのだが。

 書斎を見回す。市の図書館程度の広さに所狭しと書架が立ち並び、学術書等が隙間なく収められている。これらを読みつくすことは本来ならばほぼ不可能だろう。

 だが―――


 一冊の本を手に取る。第三次ファブリナ決戦についての歴史考察本だった。それをペラペラと捲り流し読みするだけで内容が理解できた。どれだけ人間離れした把握能力だろうか。

 これはINTに加えてDEXの高さが影響しているのだろう。見て認識して変換して理解するまでの速さとその量が規格外である。1分も掛らず数百ページからなる鈍器を完読してしまった。


 ざっと見回した感覚で言えば全部で10万冊程だろうか。平均1分で読めるとすれば10万分、すなわち1666時間。一日6時間読書時間を確保できれば278日で全て読み切れる計算である。

 しかも重要な書籍から読んでいけばいい。まずは良さげな本を50冊ほど選んで1時間程で把握してしまおう。頭が良いというのは愉快だな。






 結論から言えば、大抵の内容はゲームプレイ時と変化が無かった。

 時間単位について言えば、1年は365日で、1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒。月は1月から7月までで、1月52日間、余りの1日は聖なる日にして元旦である。

 距離は1リーグが10キロ、1ソイメィルが100メートル、1メィルが1メートルとなる。

 重さ、水量の単位等々あるが、これも置いておく。


 金貨の単位については結局具体的なことについては分からなかった。貨幣の発行者は国に限られず、殊にティトゥリアでは諸侯にも貨幣発行権が与えられている。その貨幣の強さは国・領主の強さや財政状況などによって信用が与えられる為、常に変動しているのだ。最新の経済書籍も読んでみたが発刊が10年前であり、参考にならない。行政資料でも読んで把握するしかなさそうだ。


 一方でゲームの時と大きく異なる点も存在した。実はマップがかなり異なるのだ。


挿絵(By みてみん)


 地図を見れば分かるが、ゲーム時代に比べてキェスタリニカがかなり縮小し、比較してアグノール帝国・聖バゼルディア勢力が拡大している。次に大きな変化としてはティトゥリア地方がティトゥリア同盟となり、その範囲が拡大していることだ。キェスタリニカよりも三倍近く大きい。

 エルフ領となっていた個所はエルフ王国に。東方諸国群は取りあえず置いておく。

 ティトゥリアの中央部にある灰色と黒色の範囲がカロ=ヤゲブ王国。そして黒色の範囲がハノーヴ辺境伯領である。


(うち、結構領土あるな…ハノーヴ家って没落したんじゃなかったの?というか、勢力落としてこれ?)


 元はどれだけ大きかったのだろうか?

 調査はまたの機会に別の資料で確認するとしよう。

 東に島が一つ増えていることや、南の方に未踏地域、さらに南方に島が続いているのが見えるが、それについても後に回そう。ロマンもあるし気になるが優先事項ではない。




 大体世界の経緯や常識と言ったものを一通り確認していると、漸くある単語が目に入った。


『魔法』


(そうだよ。これだよ。)


 ワンダーランドにおける三大醍醐味の一つ(たった今命名)であるところの魔法である。ファンタジー世界が舞台なだけに、現実では使うことのできない魔法を使用することのできることが本ゲームの魅力であった。例え戦士系のプレイヤーキャラでも魔法スキルの取得は可能であり、全てのプレイヤーが魔法を楽しんでいたのだ。

 『アレクサンドリナ=ヴィクター』は魔法特化職であり、三次職であることもあって非常に多くの魔法スキルを所持していた。とはいえ、その使用方法はスキル取得時に知ることのできる特定の詠唱文句を謳うだけという簡単なもので、あくまでゲーム世界での使用方法である。

 試しに最もポピュラーな生活魔法『ライト』を使用してみる。


「……ライト」


 何も起こらない。

 まぁ、そうなる気はしていた。ただ口にするだけで魔法が発生するなど、逆に普段の生活が怖すぎる。ある意味ホッとし、逆に魔法の使えない魔法使いという現実に何とか打開策を求める。


「ステータス―――スキル」


 スキル画面が表示される。設定画面は表示されないが、ステータス関連ならば確認できるらしい。実にありがたいことだ。


 ゲーム内において魔法スキルは攻撃魔法、回復魔法、補助魔法や阻害魔法など、物理スキルは剣、槍、弓、無手など、それ以外にも生活スキル、特殊スキル、サブジョブ専用スキルといった分類に分けられていた。それぞれの分類ごとに数百から数千のスキルが用意されていて、ジョブのレベルアップ或いはイベントクエスト報酬によって手に入るスキルポイントを割り振ることでスキルを取得できるというシステムだ。

 スキルによって威力、範囲、属性、追加効果、詠唱内容、発動に必要な時間やクールタイム、必要ポイント数が全て異なっており、プレイヤーたちはネット板の情報を頼りに自分の求める戦闘スタイルになるようにスキルポイントを割振り、強化を繰り返していた。


 ちなみにスキルポイントは一度振れば元に戻すことは基本的に不可能で、どうしても割振り直したいというプレイヤー用に専用の有料アイテムが用意されていたりする。お決まりのパターンである。(但し、その場合イベントクエスト報酬で得た分のスキルポイントは消失する。)


 大分世界観は変わっているがここがゲーム世界との関連性があり、それが曲がりなりにもステータスに反映されている以上、スキルも引き継がれているはず。そう期待したのだ。


「……えっ?」


 しかし表示された内容はまたしても予想していた内容とはかけ離れたものだった。



『ステータス詳細:スキルステータス』

【武術系】

剣術系統      習得:Lv.10(E)

無手術系統     習得:Lv.33(C)


【魔術系】

現代アグノール式  習得:Lv.40(B)

古代アグノール式  習得:Lv.95(AAA)

ザワーノフ式     習得:Lv.10(E)

聖バゼルディア式  習得:Lv.40(B)

ケテルマテル式   習得:Lv.85(AA+)

ロッドシェム式    習得:Lv.20(D)

メノレフ法典式    習得:Lv.99(AAA+)

ドッドワノフ法典式  習得:Lv.40(B)

邪法諸系統      習得:Lv.50(A)

南方系諸系統    習得:Lv. 5(F)

精霊系統       習得:Lv.10(E)




【サブジョブ系】

ノーブルスキル   習得:Lv.99(AAA+)

将帥スキル     習得:Lv.92(AAA)



 (英語)ワッツハップン?―――(日本語)8分時間を下さい。






 慌てて魔術系の資料を調べ、ゲーム当時のスキル説明文を思い出しながら考察することで、夕焼けが見える頃にはゲームプレイ時と異なる表示になった原因について推論が立つにまで至った。

 夜になれば明かりも欲しい。せめてライトぐらい使用できる程度には状況を早く改善させたい。


 要するにこのスキル表示はゲーム時のスキル分類方法と異なる分類訳で表示しているにすぎなかったらしい。

 たとえば【魔術系】において11系統スキルが並んでいるが、それらは系統ごとに得意とする内容が異なる。


 『現代アグノール式』は中近距離の短文詠唱中心。短い詠唱時間と少ない消費魔力というメリットを生かした高速戦闘を理想とする。デメリットは古典魔術よりも威力が低く、範囲が狭いこと。最も歴史が浅く、戦術的に戦場に投入する意図で開発されたのが始まり。高魔力の魔術師か、或は修練を積んだ魔術師を師団単位で投入しなければまともに運用することが難しかった古代アグノール式魔術に変わり、一般兵士でも使用可能な即戦力的魔術として爆発的に普及した。魔術学院では若い世代が研究材料にすることを好む傾向にあるが、教授陣の大半を占める古典派からは軽視されがち。


 『古代アグノール式』は遠距離広範囲の長文詠唱中心。強大無比な威力、或は奇跡とも疑うような現実離れした現象を作り出すことのできる大魔術を使用する為の古典的魔術。戦闘においては高威力・広範囲を誇るが詠唱時間の長さとバカスカ食う魔力消費の悪さがネック。集団詠唱魔術、儀式魔術、殲滅魔術、召喚魔術などがメジャーな分野。扱う分野が広すぎる為、最低でも10の分野に分けるべきとの声も多い。別名『ルオ=アトラス式』。


 『ザワーノフ式』は錬金術特化の魔術系統。直接的に戦闘に使える魔術はほぼ無く、完全に研究の為の魔術。低魔力で他の魔術習得が困難な魔術師が多く、その究極的目標の一つに、魔力保有量に関わらず誰でも同じ行為をすれば同じ結果になる技術社会の実現が挙げられる。その思想から、他魔術系統からは異端の扱い。


 『聖バゼルディア式』は聖バゼルディア教会の聖職者(あるいは高額の寄進をする敬虔信徒)のみが使用できる回復魔術系統。他系統にも回復効果のある術式はあるものの、効果の質・量・速度・コスト・種類全てにおいて圧倒的であり、聖バゼルディア教会のドル箱。


 『ケテルマテル式』は呪詛・反詛のみの術式。ゲームで言うところのデフ・バフに相当。副次的に回復性能は聖バゼルディア式に次ぐ。東方諸国から影響を受けて成立した。ちなみに王家や貴族、教会、大商会の場合、ケテルマテル式術士を囲い込んで自らの身を守らせたり、政敵への攻撃手段にしばしば用いられる。


 『ロッドシェム式』は強化一辺倒。脳筋の為の魔術。自分に対してのみしか掛けられない、学者達からは欠陥魔術と揶揄される。が、戦士系が利用するには非常に優秀な性能。


 『メノレフ法典式』は歴史上の大魔術士メレノフが纏め上げた結界系・探索系魔術の大法典。結界系は東方諸国からの影響を受けている。探索系については、斥候スキルが狭い範囲でしか利用できないのに対し、広範囲の一斉索敵が可能な点にメリットがある一方、被索敵対象側に察知する手段が多数存在することが最大のデメリット。


 『ドッドワノフ法典式』はかつて生活に多用される便利かつ低コストな魔術を纏め上げた法典が各地に存在していたが、これを大帝アディラ一世が編纂させたのがドッドワノフ法典。全76巻で構成され、その大部分が一般公開されている。


 『邪法諸系統』、いあいあはすたぁ。悪魔との契約からSAN値チェック必要な類の異形の怪物召喚、生贄の儀式によるパワーアップ、嫌いな相手への呪詛、悪魔召喚まで盛りだくさん。この魔術系統書籍を求めると漏れなく邪教徒認定される。系統書籍は全て禁書扱いであり、その管理は多国籍間協定により各国魔術教会やそれに相当する機関に、ティトゥリアにおいてはハノーヴ辺境伯及び辺境伯後援のティトゥリア魔道学院禁書図書館に委託されている。ゲームにおいてはクエストイベントで10種類用意されていた。


 『南方系諸系統』はティトゥリアより南方の未踏破地域における独自の魔術系統の総称。魔術系統によっては百も術式を持たないものも存在しており、研究価値は低い。ゲームおいてはクエストイベントで20種類用意されていた。


 『精霊系統』はエルフ、ドワーフ、高位ドラゴン等の種族が使役する魔術系統。人間が使用することは非常に困難。種族ごとに得意とする属性が異なる。ゲームおいてはクエストイベントで10種類用意されていた。


 と、いった具合にその性質によって得意とする分野が分かれているのである。例えばゲームにおいて攻撃魔法の中でも射程が短く詠唱も短時間でできる魔術スキルの場合であれば現代アグノール式魔術に当たるし、効率の良かった回復魔術の多くは聖バゼルディア式魔術に分類される。

 よく考えてみてもほしい。

 現代社会に当てはめて考えれば、同じ移動手段でも自動車と列車では共通点はあれども別の技術が積み重なっているものだし、船舶に至っては自動車が作れるから船も作れるというものでもない。

 同じように現代アグノール式魔術を研究して速成的な魔術を駆使できるようになった人間が、全く同じ要領で古代アグノール式における超大な儀式魔法が駆使できるとは考えにくい。現代社会が分担社会であるのと同様に、この世界の魔術もまた専門分野ごとに全く別の進化をとげていると考えるべきだろう。


 そこで気になったのが各スキルの右にある習得レベルであるが、現状全く魔術を使えないにも関わらず分野によっては非常に高い値となっている。これはどうしたことか。書籍を調べても特に習得レベルについての記述はなかったことからこの世界に認識される概念でないことが推定されるが、ここに一つの仮説を立てた。

 この数値が高ければ高い程、高度な魔術を習得できる下地があるのではないかと。


「白1のA、工程棄却。ライト」


 立てた指の先から煌々と光が灯り、夕暮れも沈みかけ暗くなってきた室内を照らす。異世界初の魔術使用に成功した瞬間である。

 先ほど使用できなかった魔術を何故今使えるのか。

 手元には魔術書籍『ゴブリンでも分かる魔術 基礎編』。本当にゴブリンに理解できるのか否かは知りえないが、この書籍を読み、魔術一般の術式起動の概念を理解し、その上でライト魔術の特性を理解し式に沿って発動する。

 この世界の魔術は簡潔に言ってしまえば数式の繫がりによって成り立っている。最もシンプルな式は「1+1=」。これだけでは魔術は発動しないが、これが基本概念となる。この世界の魔術は中々に学問的で難しい。学術的に学ぶことなく魔術を使用する為には、魔道杖などの補助具をもちいるか、感覚的に大体の計算結果を充てて性能の落ちた魔術もどきを使用するほかない。そういう意味では大雑把な計算でも発動しやすいロッドシェム式魔術は戦士たちに好まれるわけである。但し、一流以上の戦士の場合、やはり数カ月は学院に在籍して正式な魔術学問を学んで正確な魔術起動の方法を習得するようだ。

 ちなみにこの世界の魔術が難しいといったが、それはあくまで元の世界基準での話である。私含めゲームにおいて魔術系キャラを使用する場合、INTは真っ先に上げるし、自動でも割り振られていく。INTが10程度でこの世界の平均的能力であるので、INT20~30もあれば楽々と概念と理解することができるだろう。能力がインフレ気味なこの世界特有の事情である。


 さて、『ライト』の場合最も基本的な魔術である為、基礎知識のみで習得できた。では、いきなり奥義のような魔術から習得しようとするとどうなるか。

 別の魔術書籍を手に取る。ザワーノフ式の魔術書の一つだ。まだ基本知識しか知らない状態でその書籍の最終章に記述される内容を読み解く。


(やはり前提となる知識や経験が足りなくて理解できないか。)


 こういった応用魔術の場合、様々な分野の知識を前提として積み上げて成立するのが学問というものだ。ゲーム時代のように効率主義的にいきなり高威力高効率のスキルのみを習得することはできるまい。ここは実に我々の本来住んでいた現実世界程に現実的なのだ。

 次に読み飛ばした部分を読み込み理解する。順々に読み解くことで今度は最終章も難なく理解する。

 机に備え付けられていた固定式のメモ帳、その金属固定部分に手を添える。


「黄35のA、以下工程1より7、省略。パージェス」


 パキンという音がした。魔力圧によって金属部分が分離する効果らしいが、魔術的見解は分かっても、その物理的な原理が分からない。瞬間的に高熱が発生している可能性を考え、恐る恐るメモ帳を手に取るが平熱。特に問題なく拾い上げることができた。元の接合部分も全く残っていていない。錬金魔術Lv.7「パージェス」が成功したのだ。

 次により専門的なザワーノフ式書籍を手に取り読み込む。習得Lv.10がどの程度が知りえないので兎に角読み進めてみる。


「む。」


 10冊程読み進めた辺りでページの進みが鈍る。錬金魔術「ローパッチェ」。布製防具に下位魔術を付与する魔術だ。そこで理解の速さが急に鈍化した。

 理解できない訳ではない。文章を読み込めばどのような趣旨でどのような術式を以って如何なる効果を発生させるのか、その魔術概念を『学習』することはできる。これまでよりも遥かに時間をかけて、といいつつもものの10分で新たな魔術を習得する。机の中央にあるレースに触れた。


「黄37のDZ、aiel – bazzo、以下工程3より11、省略。ローパッチェ」


 付与するのは下級魔術「コンセントレイション」。意識を集中させることで魔法威力を向上させる魔法、と書いてあった。

 ごく少量の魔力が体内から抜け、レースへと注がれた感覚がした。どうやら成功したらしい。本来は戦闘時の魔法だが、きっと普段にも効果はあるはず。これでこの書斎は大いに頑張る学生たちの味方となっただろう。

 スキル画面を確認すると新たに習得した魔術の中に錬金魔術Lv11「ローパッチェ」が追記されているのを確認した。


 どちらかと言えば急速に習得するというよりは忘れていたものを思い出すという具合なのだろう。INTとDEXの高さに加えて、スキル習得Lvの高さが私の「再学習」を補助しているようだ。ということはこのスキル習得Lvは目安だ。その分野において理解できる技術水準の高さを示している。

 魔術系で80を超えるものは3分野、サブジョブを含めれば90超えすら4分野もある。随分な博識万能人間になったものだ。


 再度習得するべき魔術の数は多い。その分野の広さから、莫大とも言えるだろう。しかし、高いINT/DEXと分野により偏りはあるものの高い習得値という三つの要素によって今後の魔術習得はそれほど苦も無く進むことだろう。ひとまず直近の危機は回避できることとなった。


 しかし、そうなると余裕が出てきて別のことが気になるのが人情である。

 一体何故ここまで習得値が高かったのか。

 少し考え、すぐに心当たりを見つけた。ゲーム時代におけるスキルの単純習得数である。

 ワンダーランドにおいてスキルは物によって必要スキルポイントが異なったことは前述のとおりだが、同時に同じような効果のスキルや、無駄スキル・ネタスキル、上位互換があるスキルなどが存在した。状況によって使い分ける必要のあるスキルもあった為、その総数はとてつもない数になっていた。

 プレイヤーたちは上級プレイヤーであればある程、限られたスキルポイントを有効活用したがった為、必要なスキルのみを取得し、スキル取得は最小限に抑える傾向にあったが、私の場合は事情が違った。


 私は引きこもりプレイヤーである。しかも領主システムオンリーの。自分で言い切るのも照れくさい話である。

 ギルド戦に出るわけでもなければ冒険もしない私にとって模擬領土戦に必要なスキル以外は遊び要素である。ゲーム内では魔術系スキルの大半が近距離速成系統の魔法や生活魔法であったのに対して、遠距離・広範囲系統の魔法やデフ・バフ系統、結界魔法や索敵魔法の数が少なめだったことを良いことに、それらの魔術系統を総なめしてもなお余ったスキルポイントを用いて無駄スキルなども低コストでバカスカ取り捲った。

 その際、必要スキルポイントの高いスキルは全て無視である。


 領主クエストでスキルポイントがダブついていたことも大きかった。領主クエストの報酬は選択可能な形式なので、本来であればプレイヤーの多くは報酬の内、伝説の武器や高性能な回復アイテムやらを受け取っていったのだが、私にとってそれらは興味のない粗品である。毎度のようにスキルポイントを獲得した。

 そういった諸々の理由によって最終的には全魔術スキルの内4割に届くほどの魔術スキルを習得するに至っている。このような無駄の多いスキル習得配分が、まさか異世界ではこのようなメリットを生むとは誰が予想できようか。




 現状把握よし。

 魔術スキルよし。

 幸先良し。


 後は普段の対応だが、ゲーム内でのロールをそのまま通してみるとしよう。幸いノーブルスキルもLv.99なので急ぎ乗馬や舞踏、話術といった貴族に必須のスキルもそろえていく必要があるだろうが大した苦はないだろう。

 加えて書籍からわかる情報は古くなってしまっている。幸いにも行政府のトップであることを利用して行政資料を読み漁ろうか。各地からの報告で大体のことは把握できるはず。

 あとは―――


 ふとここで、自分が異世界転移したという珍事が発生していたことに意識が向いた。

 よく考えれば非現実的な現実を前にして随分と理性を保って行動ができたものである。これもINTによるおかげだろうか。今日からINT教に入ります。

 恐らくは気付かないうちに興奮していたのだろう。この現実離れした現状にわくわくしていたのだろう。今もこれからどんな魔術があるのか、どんな報告内容があるのか、何もかもが楽しみで仕方がないように。だからここまで気が付かなかった。


(まだ、自分の顔を見てなかったな。)


 これからお世話になる身体だ。ゲーム時代によく見なれていた顔とはいえ、どうせならば大きな鏡で見てみたい。


 数冊ほどの魔道書を片手に、寝室へ急ぐ。

 むろん、廊下を駆けるような真似はしない。私は『アレクサンドリナ=ヴィクター』。優雅なロールを保つのが私の流儀である。

次回投下かその次くらいから漸く物語が動き出します。

フゥ…

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