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少し簡潔になるよう書き直してみました。
それでも長いと思われる場合は申し訳ない限りです。
基本的には主人公キャラSUGEEE!けど、そこら中に因縁だらけだね、とだけ理解してくだされば宜しいかと。
『ハノーヴ辺境伯アレクサンドリナ=ヴィクター』
ドゥール=グレゴル著
『ティトゥリアの魔女』『黄金の魔女』『世界三大魔人の一角』
これ以外にも数々の名で今もなお恐怖され崇拝される彼女の統治は実に800年近くもの期間に及ぶ。その間に世界の情勢は刻々と変化し、彼女及び彼女率いるハノーヴ領も度々戦乱の渦に巻き込まれてきた。
第1章ではまず、彼女の略歴において共通の認識を得よう―――
パタッ
本を閉じた。
(…魔女…黄金…世界三大魔人…だと……?)
一体これを書いたのはどこの中坊だろうか。一度会って、きっと馬鹿そうに違いないその顔を引っ叩いてやりたい。あぁ、実に頭が痛い。ポンポに手を当てる。あ、こっちは胃だった。
(本当はこれ以上読み続けたくはないけれど、現状把握の為にもこのまま読まない訳にもいかないしなぁ…。本当に世はショジョウムギョッ)
(厨略…もとい中略―――以下の本文を簡潔にまとめると以下の内容となる。)
神聖バゼルディア歴(神聖歴)405年、シュリンティトゥリア歴(旧暦)245年にして『大崩壊』という出来事から丁度500年後に、ティトゥリア地方(以降当時の呼称に従い辺境と記述)のザクゼン王国のハノーヴ男爵家にて女男爵に就任し、『ハノーヴ男爵夫人アレクサンドリナ=ヴィクター』となる。
暫くは平和に統治していたが、統治開始30年後に当時バゼルディア方面の強国だったザーラント王国が奴隷亜人の反乱で崩壊。その後難民の大移動などが発生し、強大国が次々と連鎖的に崩壊し大乱期に突入する。
大乱の影響は辺境域にも波及し、祖国ザクゼンも大乱発生から10年にして消滅。仕方なく、ハノーヴ伯国として独立。
10年後に辺境北部の覇権を争うザークスィール王国とアダマン王国の間の戦争でザークスィール側に参戦し、自慢の正規軍『黒甲師団』を率いて活躍。王国貴族として迎え入れられ、侯爵位を与えられる。
しかし彼女が不老不死であることが知れ渡るとエルフ族が化けているのではという疑いが生じ、本人法廷不在の下、弾劾裁判『神聖裁判』発生。神聖歴498年に魔女の認定を受けると、『黄金の魔女』討伐軍が結成される。
ザークスィール王国軍は総軍25,000とハノーヴ候側は4000の黒甲師団を主力とする1万が激突し、候側の辛勝。この戦いが原因で王国は急速に崩壊。同じく国力を大きく減退させたハノーヴ領ヴィクター家も雌伏の時となる。
神聖歴8世紀初頭から周辺国を平定して勢力拡大し、神聖歴765年にハノーヴ王国の建国を宣言。神聖歴870年に辺境域東部の覇権を決する戦い『五王会戦』に他四王国相手に圧勝するも、他の四王国(以後四大国と呼称)を中心に連合国を結成され辺境域東半分を二分する。この際、決戦の地より北3リーグの地に遷都し、王都をアレクサンドリアと命名した。
しかし、神聖歴925年の『第一次ファブリナ決戦』で前ルノワス朝アグノール帝国が連合国側に参戦し10倍以上の戦力差と帝国側の勇将(後に七英雄の一角に祭り上げられる)を相手に惜敗。領土の三分の二と王都アレクサンドリアを失うも、連合国側に大打撃を負わせた結果、存続が許される。
951年、アブティート条約においてハノーヴを恐れる四大国主導の下、王権が剥奪される。以降カロレデベル王国傘下ハノーヴ伯爵とされる。(但し外交権など大半の主権は存続。)
その後アグノース帝国内において将軍アディラがクーデターを起こし、前ルノワス朝崩壊。大帝アディラを名乗り、アグノース・バゼルディア・キェスタリニカ・ティトゥリア(当時の頃より辺境域から呼称が変化し定着)全土を統一することを目的に世界征伐に乗り出す。
1005年、アグノース帝国の対バゼルディア攻略が膠着すると対ティトゥリア攻略を開始。四大国を中心とした大同盟軍とファブリナの地で決戦(第二次ファブリナ決戦)になる。この際、中小国を中心にハノーヴ伯の参戦を求める声がでるも、ハノーヴ伯・四大国側共に伯爵の参加を拒否。この戦いで大同盟側は大敗、四大国の内三王国が滅び、最後の一角であるメロ=ヤゲブ王国の王も命からがら自国領へ逃走した。
四大国への信望を失い、後の無いティトゥリア諸国家がここにティトゥリア同盟を結成。ハノーヴ伯に対し、王権回復を引き替えに七度参加要請するも拒絶された為、カロレデベル王国を盟主とすることで半強制的にハノーヴ伯参戦となる。この際、同盟締結の地で『魔女』認定解除を宣言、彼女が亜人ではなく不老不死のヒュームであるという共通認識の下、史上3人目の『魔人』として認知されるようになる。
同盟と帝国の戦いは数年間の熾烈な消耗戦の後、1009年、因縁の地ファブリナにて両軍が対峙(第三次ファブリナ決戦)。帝国軍55万に対しハノーヴ伯軍3000を含む同盟軍20万。総司令官は帝国側が『大帝』アディラ一世、同盟側は『黄金の魔女』アレクサンドリナ=ヴィクター。中世ワンダランディア屈指の大会戦は三月にわたる戦いの末同盟側の勝利に終わる。
決戦後、アディラ朝は崩壊。同盟側も内部において小国同士の熾烈な再編競争が繰り広げられることになる。
ハノーヴ伯の所属するカロレデベル王国も吸収合併を繰り返したが、最終的にはメロ=ヤゲブ王国との王族同士の政略結婚の末に吸収され、国名がカロ=ヤゲブ王国に変更される。王都はアレクサンドリアからヤゲブディロに変更された。
その際合併を承認したことにより、ハノーヴ伯爵からハノーヴ辺境伯へ昇格され、現在に至る。(尚、外交権を始めとする主権の全てを維持。)
また第三次ファブリナ決戦後、後ルノワス朝アグノール帝国とは1度、ユグノス朝アグノール帝国とは2度に渡り防衛戦争が発生しており、その度にハノーヴ伯軍は大戦果を挙げている。
「……………」
あ、ありのまま、今起こったことを話す!
この世界の自分の立ち位置を調べたと思ったら、いつのまにか『僕の考える最強の偉人』を読み込んでいた。
な、何を言っているのか分からないと思うが、私も神の見えざる手に何をされたのか分からなかった…厨二病だとか若気の至りだとか、そんなチャチなものじゃ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった―――
「――――ハッ」
いけない。何か見てはいけない黒歴史に引きずり込まれて意識がトリップするところだった。正気を保たなければ。
長き時代を生き続ける乱世の梟雄。書斎に到着し見つけた資料から読み取った資料から判断するに『ハノーヴ辺境伯アレクサンドリナ=ヴィクター』の評価を一言で表すとそのように言えるのではないか。実に背中がゾワリとする。
しかし、当然ながらこれが今の貴方―――失礼、貴女ですと提示されてもはいそうなんですね、私TUEEEなどと考えられるシンプルな思考はしていない。英雄と一般ピーポー、両者の格差に押しつぶされて溺死してしまいます。
(本当にこの世界では800年も生きていることになっているんだな。緻密な設定の壁は大きかった。本当にこの世界でやっていけるのだろうか…いや、必ず彼女と私とには共通点があるはず。流石に私のロールプレイと全く関係無しであるはずがない。きっと共通性があるはず…はず…はず…恥ずぃ…)
まずは前提部分から再度整理しよう。
このゲーム、『ワンダーランド』はVRMMORPGというジャンルから、当然RPG部分がメインのVRゲームである。が、それ以外にも様々なサブシステムが用意されていた。その一つが『領主システム』という国家戦略シミュレーションRPG―――のはずが発売開始直後の当初は、その皮を被った、ど●ぶつの森であったという残念な事情がある。
とは言いつつも次第にシステムも肉付けされ、プレイヤー領土間同士のギルド戦『領土戦』ができるようになり、実際に戦場を指揮できるようなシステムが導入されるとVRゲームとしてプレイするだけの魅力が追いつき、これに惹かれ多くのプレイヤーが領主システムをプレイするようになっていったのだ。
ところで実はこのシステム、他プレイヤーから非公開・非接続でプレイすることも可能だったりする。所謂ストーリーモードとも言われる、淡々とデイリー、ウィークリーをこなす以外はストーリー性のあるクエストを受注するというもので、他プレイヤーとの領土戦はしないものの、NPC領主との間で壮大な模擬領土戦が楽しめるのでボッチ君ボッチちゃんに大人気のメニューであった。私もそれをプレイしていた。別に私がボッチだったわけではなく只一人で優雅に遊びたかっただけなので、悪しからず。
次に世界観だが、ワンダーランドにおいて大陸は一つしか存在しない設定であり、さらにその大陸の中にはキェスタリニカ、アグノール帝国、聖バゼルディア三王国、ティトゥリア地方、エルフ領、ドワーフ王国、竜王国、東方諸国群の8エリアが存在する。
領主システムを始める場合、それぞれのエリアで特定のクエストをクリアすることでそのエリアで領主になることができるという仕組みになっていた。私がこの領主システムを始めたのはゲームを始めて5週間後の頃、サービス開始から7週間後だった。始めて2カ月経たないうちに引きこもりプレイヤーかよ、という突っ込みは受け付けない。
さて、当初のエリア選択だが、領主システムを始めるにあたってエリアによって特典が異なるのだが、その中でもキェスタリニカが最もサービスが良く、一方でティトゥリア地方が最もサービスが悪かった。当時私はティトゥリアを選択したが、その理由はこのエリアが最も人気がないことによる余りの人気の無さに惹かれたからだった。当時人気のあったキェスタリニカと聖バゼルディア三王国は領主総数が、前者が20万、後者が5万をそれぞれ超えていたというのだから、それらを、サーバーをダウンさせることなく持ちこたえた運営陣の努力には頭の下がる思いである。
その後様々な理由で領主システムは廃れていくことになるのだが、それは、今は脇に置いといて、私のプレイ内容との共通点の確認を始めよう。
領主システムにおいて現実世界の1週間がゲーム内の1周期、つまり1年に相当した。ただし、RPG部分においてはその設定は適用されず現実世界の1年の間に季節が巡っていた上、メインのRPGの方にストーリーとそれに合わせた年号が存在したため、1周期立ったから、ゲーム内の年号が変わるということもない。だからこれは領主システム独自の周期である。
私が領主システムを利用していたのが15年弱5,500日弱で大体775周期でステータス表示等と合致する。とすれば、この世界ではその経過がカウントされていたということになるだろう。
ということでまずはザクゼン王国の滅亡……ザクゼン、ザクゼン…そういえば初期所属国名がそんな名前だったような。記憶が正しければ初年度に強制クエストの『所属国崩壊 -大乱期を乗り切れ!- 』といった具合のクエストがあったはず。突発的に発生したせいで当時面食らったことを覚えている。確か成功報酬は…余り印象に残っていないな。
次がザークスィール側に参戦。あったあった、そんなの。これは『所属国崩壊 -大乱期を乗り切れ!- 』のラスト選択分岐で所属国を選択した後NPC領主同士の領土戦に一部隊を率いて参加するのだ。あれ、ただの領主軍じゃなくて国軍だったのか、なるほど。
さらに魔女認定からの流れは、これは二年目の頃に強制的に発生した特殊クエスト『謀略』とその失敗後に発生する続章『反逆者』、後は再度『所属国崩壊 -大乱期を乗り切れ!- 』だったはず。
『謀略』はクエスト失敗してしまって、僭称『魔女』が付与されてしまったのが苦い思い出だ。所属国が無所属になり落ち込んだが、一念発起して続章『反逆者』で建国を目指したものの、『反逆者』でもベストクリアとはならず、微妙なエンドになってしまった。加えてほぼ同時期のアップデートで、仕様変更によりティトゥリア域での領主運営にマイナス設定が付与されたのだ。色々あったのを覚えている。一番重かったのはティトゥリア域で領主システム利用中は『ワンダーランド』最大の醍醐味である冒険が一切できなくなるという制限だった。まぁ、時間が1日数時間程度だった引きこもりプレイヤーである私にとっては意味のない制限ではあったのだが。
一方でキェスタリニカ域は優遇されていた。その格差を知った時は本当にムカついた。しかし、これは後々知ったことだが、あれは運営側が領主システムにおいて過疎化の進むエリアでのリソース配分削減目的で行われた意図的な対応だったらしい。確かにこの領主システム、大分リソースを食う。メインのRPG以上に。例えば領土戦とか、領土戦とか、領土戦とか。利用者が拡大する中で何とかやりくりする為の運営側の苦渋の決断だったのだろう。仕方がない話である。
で、その後は不遇の4年間であり、リアルが忙しくてデイリーぐらいしかできなかった時期でもある。社会の荒波は厳しかったとだけ言っておこう。
ハノーヴ王国建国からの流れは、7年目から9年目に掛けて挑戦していた、長期特殊クエスト『大王国(ソロ編)』『続・大王国(ソロ編)』『続々・大王国(ソロ編)』だろう。これら3つのクエストには3つとも成功したのだが、10年目の『結・大王国(ソロ編)』で失敗。大損害を受けた。
アブティート条約ってあれだろ、11年目二度目のアップデートで追加された、建国要件にソロでは達成できないものが追加された、悪名高き『アンチソロ条項』。要件満たさないと強制的に王権排除。この時まではまだ多くの領主プレイヤー達が、これまでの運営側から与えられる数々の嫌がらせの如き強制クエストという名の揺さぶりに耐え続けプレイを楽しんでいたが、これ以降、ソロ・非ソロに関わらず、領主プレイ愛好者が続々と減少してしまった。
その後ティトゥリア地方やエルフ領、東方諸国群といった過疎エリア以外の人気エリアでも領主システム自体が急速に廃れ始めてしまったことに慌てた運営側が不定期クエスト『対アグノール帝国防衛戦』を用意するも、私自身、一端は不貞腐れてパス。七度ほど引き続きパスするも流石に何度も繰り返し出現する、ほぼ強制のごときこの不定期クエストをイラつきながらも仕方なく受注。
その後国外クエスト関連の不合理な内容から、内治に集中するようになった。13年目初めごろ、クエスト『王国王女の婚姻』により所属国が変わったが、どうでもよくなってスルー認証。そういえばその後でいつの間にか爵位が変わっていた。その後の『対アグノール帝国防衛戦』の回数は1回足りないが、この本の著作年度が1140年だから1回分少ないのだろう。記憶と合致する。
……うん、共通点ありありだな。
ちなみに2年前から利用者数の割にリソースを食いすぎる領主システム自体を廃止させようという意見が強くなっていたらしく、ここ2年程で徐々にシステム利用者に対するデメリットスキルが付与されるようになっていった。
結果、今回アップデートの前の期で既に領主システム利用者は数千人程度、その大半、99.9%は人気エリアだったキェスタリニカに集中していたらしい。それも今回アップデートで、領地を一旦手放すとノーブル関連スキル全て消去というきつい設定を前にほぼ全滅の勢いで減少中だったとか。私?当然止めないが。引きこもり万歳。
さて、取りあえずゲームの私とこの世界の私との共通性は確認できた。
『ティトゥリアの魔女』『黄金の魔女』『世界三大魔人の一角』
とても凄い偉人だったらしい。
現在800歳で一時は大勢力を誇った王国の国主だってさ。
(一体どうしてこうなった?)
誰かボスケテ。
アイタタタタ、イタァッ、イタイ、痛いよぉぉぉ!
お母さん助けて!
違うよ、頭もお腹も痛くないよ。
心が痛いんだよぉ!!